エス
2024-08-22 15:17:52
5824文字
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祭りの後

先日福岡のイベントで頒布して貰った十一代目黒龍のモットーはノリと勢いですにつけた無配になります。完全に続きなので、本、もしくは前のwebイベの時に展示した花垣君のお誕生日の話を読んでないと分からないと思います。

 

 見事公開告白をやり遂げた九井一と巻き込まれた花垣武道であるが、問題はこの後だった。告白しましたキスしました、ハイ解散! とは、ならないのである。見物人がい過ぎたのだ。どう考えても罰ゲームの様相だった。
「十一代目って、ノリと勢いがモットーなわけ?」
「花垣が決めた」
 竜胆が尋ね、乾が平然と答える。頼む、黙ってくれ。九井が内心で告げた。伝わる筈がなかった。周囲は未だ盛り上がっているが、九井と武道だけ雰囲気が葬式である。大事なものを失くした、そんな気持ちで一杯だった。勝手に。
「次はどうする? ケーキ入刀か?」
 いや、帰れよ。解散だろ。声に出さずして九井が言う。伝わる筈がないので、話も止まらない。
「いやどのケーキにすんだよ。多すぎだろ」
 花垣武道の誕生日会も兼ねる勢いだったので、ケーキだけは人数より多いのである。異常事態だった。抗争にホールケーキ持参と言う新しいルールが出来たのだった。但し今回にしか適用されない訳であるが。
「いっそ積む?」
「確かに、ウェディングケーキって、高いもんな」
「ウェディングケーキのギネス目指す?」
「その前にどうやって積むんだよ」
「デケェやつが下だろ」
「味の問題あるだろ。チーズの上にチョコかショートか、そこが問題だろ」
 他にも問題山ほどあるだろ。あくまで内心でツッコみ続ける九井一である。そもそも場所を考えろ。廃工場である。ケーキを出していいような衛生状態ではない。しかしそこを気にするのは、残念ながら九井一と三途春千夜くらいである。大体三途に至ってはずっと無視を決め込んでいるのだ。ただ万次郎がいるから留まっているだけである。
「誰が倒さずに詰めるか勝負だな。倒したヤツが負けだ」
「逆ジェンガってわけだ」
 話が変わった。ウェディングケーキ終了のお知らせ。食べ物で遊ぶのを止めろ。とうとう母親めいた意見を呟く始末。内心で。
「タケミっちはどう思う?」
「イザナ君が持ってきたケーキが一番大きいので土台にすべきだと思います」
「参加してんじゃねえよボケ!」
 漸く声に出してツッコんだのだった。肩で息をしながら花垣武道を睨みつける。驚いた顔を見せるので、容赦なくぶん殴ったのだった。
「お、漸く復活したな」
「長かったな」
「ケーキ入刀するか九井?」
「するわけねえだろ死ね!」
「しないのかココ?」
「するよ!」
「すーぐ手の平ひっくり返すじゃん……
 完全に呆れ切って武道がツッコんだ。最早条件反射みたいなもので、言った九井自身落ち込んでいた。乾青宗に逆らえない男。命よりずっと重い弱みを握られているとしか思えないスタイル。
「ココ君てあんなだった?」
 松野が武道に小声で聞くと、重々しく頷いたのだった。
「割と前からああだよ。オレの事好きとか言ったけど、あの人一番はイヌピー君だもん」
「えっ、二股⁉」
「異議あり殺すぞ」
 小声でも、乾の名前は聞き逃さない男九井一である。咄嗟に食って掛かった。しかし怯む武道ではなかったのだ。これ幸いと、言いたい事を言ってやろうと口を開いたのである。
「大体さあ、十一代目黒龍復活がそもそもイヌピー君の為だもん」
「でもタケミっちが総長じゃん」
「それは、イヌピー君が言ったから」
「イヌピー君が言い出したのか?」
「イヌピー君が復活させたいって言って、ココ君がオレを高級ホテルに連れ込んで無理矢理言う事聞かせた」
「言い方ァ‼」
 九井が大声を発したが、誰も呑まれなかった。それどこか、冷たい視線を浴びせたのである。何せこの場の殆どが、花垣武道の身内みたいなものだからである。九井にとって完全にアウェーだった。その九井の肩を、叩いた男がいる。
「聞き捨てならねえなぁ、九井?」
 佐野万次郎参戦のお知らせ。叩くだけならよかった。完全に握りつぶそうとしていた。九井の肩に死が訪れようとしている。
「待て、話せばわかるそんな事実はない何とかしろよ総長!」
「特攻服もオレのはサイズ滅茶苦茶なのに、イヌピー君のはピッタリだし」
「それは長い付き合いなんだからしょうがねえだろ!」
「あれ? このぶかぶかの特攻服に欲情してんじゃなかったっけ?」
「殺すぞ灰谷蘭」
「つうか長い付き合いでも服のサイズなんぞ知らんだろ。オレは竜胆のも知らねえよ」
「それはそれでどうかと思う」
「イヌピー君のお誕生日にはちゃんとケーキ用意してお祝いするのにオレにはこれだし」
「テメェがオレの誕生日に好き勝手やったからだろ! 大体テメェにもケーキ用意してんだよオレは!」
「オレが言ったからだろ」
「マイキーが言わなくてもやってたよ!」
「え、九井、花垣の事好きじゃん」
「だからそう言ってんだろ!」
「急に惚気るじゃん何なのコイツ情緒不安定にも程がない?」
「テメェ等の所為だよ責任取って死ね!」
 全方向全部敵。九井一は孤軍だった。しかし九井にはあの男がいる。そう、乾青宗である。悪気無く九井を振り回す男である。気持ちだけは常に味方である。行動が伴わないのが玉に瑕。
「ココ」
「頼むイヌピー、今余計な事は絶対に言わないでくれ」
「オレも花垣が好きだ」
「だから何も言うなって言ってんだろ!」
「え、三角関係?」
「始まったと思ったらもうドロドロかよ。今時昼ドラだってもう少し時間かけるだろ」
「勿論ココの事も好きだ」
「アッハイ」
「何が始まったんだ?」
「止めた方がいいヤツ?」
「ケーキの保冷剤どんくらい持つ? そろそろ食わねえとヤバくね?」
「やっぱ、積むしかねえか……
「いや、普通に食えよ。ほら、タケミっち切ってくれ」
「アッ、じゃあ、一番大きいのから」
 既に九井と乾を無視し始める始末。不良、大体気が短い。黒川イザナが持参した八号サイズと言う、普段お目にかからない程大きなフルーツケーキを箱から出したのである。流石に地面に置くのは気が引けたので、放置されていた作業机に置いたのだった。此処で包丁の出番であるが、流石に無い。だが不良、誰かしら刃物を持っている。勿論用途はケーキを切る用ではなく、人を傷つける用である。
「タケミっちが一人で切っていいのか?」
「しゃあねえ、オレが一緒に切るわ」
 ちゃっかり登場する佐野万次郎。
「待て、そこはオレだろうが!」
 そして帰って来た九井一である。しかし、言われた武道は顔を顰めたのだ。何せ、ナイフが小さい。二人で持つサイズではなかったのである。
「面倒くせぇアホどもだな! 貸せ!」
 大抵の不良は気が短いので、結局苛立った黒川イザナが切ったのだった。自分が持ち込んだ物なので、普通に権利がある。
「いや、フォークは?」
「手だろ普通に」
「野蛮人の事不良って呼んでんの?」
「三途脅せばウェットティッシュ無限に出てくるってホント?」
「ホント」
「マイキー‼」
 潔癖は伊達ではないのである。こうして三途は、三途ウェット春千夜ティッシュとなったのだった。普通に呼び難い件。そうして普通にケーキを囲んで誕生日会が始まったのである。普通とは何かを考えさせられる案件である。
「えっ、このケーキ滅茶苦茶美味い……ありがとうイザナ君……
「マジで普通に手で食うじゃん」
「オレは別にどうだっていいんだが、下僕が五月蠅かったんでな」
「そんな事言ってるけど、イザナのヤツ、滅茶苦茶悩んでたんだぜ」
「よし、死ね」
「不良ツンデレ多くない?」
「言っとくが花垣、オレが選んだケーキが一番美味いからな」
「急に参戦してくるじゃん旦那」
「だがオレが選んだケーキが一番高い」
「値段で張り合ってくる柴大寿ヤじゃない?」
「オレが作ったケーキが一番愛が籠ってる」
「はい、三ツ谷の勝ち」
「ケーキ作れる不良マジで強いわ……
「いや、実力発揮するとこ違くない?」
「そもそもこの場を作ったオレがナンバーワンじゃない?」
「出たよカリスマガチでウザい」
「ホンット、兄貴がガチでウザくて申し訳ない」
「何? 竜胆カリスマ辞めたわけ?」
「カリスマって辞めれんだ。どう言うシステム?」
「定期更新料が必要なんだよ」
「世の中金じゃん」
「カリスマの肩書金で買った気分どう?」
「今なら一億で売るけど花垣の旦那どう?」
「死んでも要らんわ死ね」
「そんな事よりさあ、食っても食ってもケーキあるな」
「しかもさ、飲み物がねえんだわ」
「誰か買って来いよ」
「何のために、さっき伸したんだよ」
 えっ。
 この茶番の為に集められた敵チームの人々が、体を震わせた。完全にぶちのめされ、負けたものの勝者が解散しないものだから、ずっと地面に座っていたのだ。それが突然一斉に視線を向けられ、驚いたのである。しかもただの視線ではない。逆らったら殺す。これである。
 この時敵チームは一番の団結を見せた。瞬時に立ち上がると、廃工場を後にしたのである。そう、飲み物を調達するために。買わなくても殺される。だが、遅れても殺される。時間を指定されたわけでもないのに、急いだのだ。命の危機を感じていた。最早、災難だった。
「そういや、さっき乾何言いかけたん?」
「馬鹿話を戻すな!」
 竜胆が問い掛け、すぐさま九井が遮った。一番乾青宗の事を分かっている男である。そして基本乾は、九井の言う事を聞かないのだ。クリームがついた苺を食べると、のんびりと口を開いたのである。
「ココと花垣が結婚するだろ」
 展開が早い。ついさっき、告白したばかりである。なんだか面白そうなので、他の面子はケーキを咀嚼しながら聞いていた。
「そしたら一緒に暮らすだろ」
 まあ、結婚ともなれば、そうだろうな、と、ここまでは誰も疑問を抱かなかった。そもそも、結婚そのものに疑問を抱くべきではある。
「オレは、二人の事が好きだから、二人の子供になろうと思って」
「なんて?」
 九井がツッコんだ。遅すぎるくらいだった。
「どうしたら二人とずっといられるかって考えたら、もうそこしか空いてねえなって」
 そこも空いてはねえだろ。周囲の感想が一致した瞬間である。ただし、約一名を除く。
「えっ、そんなんオレだってタケミっちの子供がいい!」
「子供がいいじゃないんですよ。なれないから諦めて」
 ある意味期待を裏切らない男、佐野万次郎である。当然武道は否定した。考えるまでもない。素っ気なく言われ、万次郎が口を尖らせた。
「乾だけズルいだろ」
「いや、イヌピー君も子供にはなれないからね」
……駄目なのか、ココ」
「大丈夫だ」
「ンなわけあるか‼」
「旦那がアホだと大変だな、タケミっち」
「結婚はよく考えろよ」
「マイキーがこのアホの子供になったらオレはどうすればいいんだ……?」
「此処にもアホがいたわ」
「どうもしねえだろ三途ウェット」
「嫌だな、ベタベタしてそう三途ウェット」
「マイキー以外全員死ね!」
「じゃあ、子供じゃなくてもいいから一緒に住もうタケミっち」
「うん」
「オイこら! 頷いてんじゃねえぞアホ!」
「ココ君だって、イヌピー君なら良いって言うじゃん!」
「イヌピーは良いに決まってんだろ!」
「じゃあ、マイキー君だっていいじゃん」
「いいわけあるか‼」
「これ、誰と誰が付き合ってんだっけ?」
「オレと、タケミっちだろ」
「そうだよな。知ってたわ」
「オレと花垣だわアホ!」
「いやもうテメェは乾と一緒の墓に入れよその方がいいわ」
「ワケ分かんな過ぎて見てて苛々すんな」
「そのためにケーキあんじゃね?」
「成程、苛立ちを押える為だったか……
「違ぇだろ」
 どうにもこうにも纏まろうにも協調性がない人間の集まりなので、話が取っ散らかって戻ってこなかった。次から次へと誰かがケーキを切るものだから、食べる物には事欠かない。最終的にフードファイトか、九井一の管轄になるだろう。チョコレートケーキに手を伸ばしながら、変な誕生日、と、武道はしみじみ思っていたのだ。妙な抗争に巻き込まれるわ、沢山の顔見知りが祝ってくれるわ、告白されるわ、キスされるわ、その上、ケーキは山盛りである。
「結局さぁ、九井は、本気なの?」
 ふと、呟くように蘭が問うた。寿引退、等と言い出した張本人である。
「は? そりゃ、オマエ……
 自然と九井の目は武道へと向いた。パチッと、視線が合う。総長が、口の周りにクリーム付けてんじゃねえよ、そんな事を思いながら言ったのだ。
「冗談で言うわけねえだろ」
「じゃあオレと寿引退してくれるって事ですか?」
「えっ」
 突然武道が予期せぬ問い掛けをしてきたものだから、九井は虚を突かれ黙った。そして、考えたのだ。寿引退の意味である。そうして、武道の質問の意図が分かったのだ。
 止め時を、模索しているのだと。
 乾の希望で復活させた黒龍だが、出来れば武道も九井も長く続けたいとは思っていなかったのだ。寧ろ止めるきっかけを探していたのである。まさか、寿引退が現実になろうとは。乾を納得させるには、これしかない。
 九井は、覚悟を決めた。
「たりめえだろ! オレが幸せにするぜ花垣!」
「ココ君、来年の誕生日は二人で祝って下さいね!」
「じゃあ次は、結婚祝い抗争だな」
「えっ」
「えっ」
 なんだか可笑しな台詞が耳に入り、九井と武道は動きを止め、発言者を見たのである。当然、乾青宗だった。さも当然の顔をして、二人の結婚を祝して抗争を引き起こそうと言っているのである。
「お、いいな! じゃあ、花垣と九井は、ドレスとタキシードで参戦な!」
「ちょ、ま、」
「ちが、そう言う事じゃな、」
「やっぱ不良が祝うっつったら、喧嘩だよなあ!」
「何せ、オレ等のモットーはノリと勢いらしいからな!」
 勝手に盛り上がる周囲とは裏腹に、九井と武道の表情は死んでいく。黒龍解散どころか、人数は増えそうだった。寧ろ出戻りすら出てきそうな勢いだった。全ての物音が遠くから聞こえてくる気がする。何とか意識を飛ばそうとしていた。しかし現実に引き戻すかのようバイク音がけたたましく響いてきて、もう一度あの野郎どもをぶちのめそうと九井一は心に決めたのだった。人、これを八つ当たりと言う。
 総長、副総長の意に反し、十一代目黒龍の歴史は未だ続きそうである。