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文野
2024-08-20 16:02:58
2490文字
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支配者の煩悩
零敬。パロディ。一応続きがある。
「今日の会議も退屈だったなあ」
「天界を取り仕切る天使様が何を言う。天界と魔界の間で定期的に開かれる会議のおかげで、世界の力のバランスが保たれているんだぞ」
「それは建前でしょ。毎回毎回同じ議題と聞き飽きた結論しか得るものの無い無意味な時間じゃないか」
「意味のある会議にならないのは、貴様にも責任があるとは思わんのか?度し難い」
「お説教は勘弁してよ。やっと永遠に続くかと思うような長い会議が終わって、せっかく楽しいお茶会なのに」
「まあそれもそうだな
……
」
「だいたい君のとこの上役は姿すら見せていないじゃないか。何か魔界で問題でもあった?」
「
……
」
「わかった、どうせまたさぼりでしょう?役割くらい果たしてほしいものだよ。力は持っているくせに」
「本人に言ってくれ。俺から何を言ってもあいつは聞かん」
「苦労してるねえ。僕のところに戻ってきても良いんだよ?楽させてあげるから」
光を湛えた笑みを浮かべて、英智は嬉しそうに誘ってくる。
「いや、そういうわけにはいかん」
敬人は目を伏せて首を振る。肩にかかった髪が揺れるたび、首元に這う蛇のような印が覗く。
「ところで、それは何?悪趣味だねえ?」
きっちり襟を閉じた首元から見える印を指して、英智は顔を歪める。
「これは、ただの気まぐれだ。全く、見える場所にまで刻み込みおって
……
」
敬人は困ったように眉を寄せる。
「僕ならそれくらい消してあげられるよ?簡単そうな呪術に見える」
英智は立ち上がって敬人の側に寄ると、敬人が締めている黒いネクタイをさっと解く。晒された白い肌には複雑な紋様が首元から下腹部までべったりと這い回っている。全くなんて悪趣味な。英智はうんざりした顔でため息を吐く。
「待て、英智。これは
……
」
さっさとやってしまおうと英智が印に手を伸ばした瞬間、敬人の身体から魔力が放たれ触れようとした指先に鋭い痛みが走る。どうやら単純なように見えて強固な古い呪いのようだ。
「おや、誰かと思えば、天祥院くんだったのかえ?」
英智がゆっくり後ろを振り向くと、予想通り今一番顔を見たくない人物がいた。
「
……
朔間くん」
欠伸混じりにヒラヒラ手を振っているその人物こそ、魔界で最も力を持つとされる魔王の朔間零だった。
「我輩、今、寝起きでおねむなんじゃよ
……
」
うーんと伸びをして、またひとつ欠伸を噛み殺す。
「あのねえ、今日が何の日か知ってる?物覚えの悪い君の為に僕が教えてあげようか?定例の会議の日だよ」
「どうやら遅刻してしまったようじゃのう」
「最初から来る気なんてなかったくせによく言うよ」
「次はもう少し遅い時間から始めてもらえるよう掛け合わねばのう。まあ、我輩の睡眠時間を割いてまで出張る必要があるほどの重要なものでもないじゃろ?」
零は敬人に目配せする。敬人は、はあ、と小さくため息を吐いて、零の隣に侍る。敬人は魔王の側近であり、今日の会議に零の代役として参加していたのだ。
「おやあ!我が旧友、愛すべき魔王様ではありませんか!お久しぶりでございます」
「久方ぶりじゃのう、日々樹くん」
そこへ、騒がしく薔薇の花弁を撒き散らしながら、ひとりの天使が空から舞い降りてくる。
「英智を害されたとお告げがあって参りました!あなたの日々樹渉です☆」
渉は大きな白い翼を羽ばたかせ英智の元へと着地する。
「お怪我はありませんか?英智?」
渉は気遣わしげに英智の姿を確認する。どこも異常はないようで一安心だ。
「大丈夫だよ。ただ、ちょっと悪い呪いに手を出しちゃったみたい」
「悪い呪いとは失礼な。魔王の守護じゃよ、強力じゃろ?」
「僕じゃなかったら、消し飛んでいたかもね。タチが悪いよ?」
英智はまだ少し痺れが残る手で追い払う仕草をする。
「
……
今日はもうお開きだよ。ごめんね、敬人、また今度」
「すまない、英智。怪我がなくて良かった」
敬人は心配そうに英智を見遣るが、零に従ってその場を後にした。
魔界に戻って来たものの、零はずっと無言のままどうやらお怒りのようだ。何か怒らせるようなことでもしたかと首を捻るが、心当たりがない。
「おい、朔間。今日の会議の報告だが、」
執務室の椅子に座って物思いに耽っている零に、敬人が話しかける。
「なんじゃ?浮気の告解なら聞いてやる」
「何故そうなる?」
「誰にも触らせるなと言ったじゃろう」
そう呟いて零は勿体ぶった緩慢な仕草で敬人の首筋に触れる。それだけで全身の力が抜けてしまい、敬人は震えながら零の前で膝をつく。
「これは俺の魔力を封じる印じゃなかったのか?」
「まあ、それもあるんじゃけど
……
」
事の経緯を手短に説明すると、零と敬人は些細な言い合いから喧嘩になり、お互いの魔力が暴走して魔王城が瓦礫の山になってしまうという不幸な事故が起こり、再発防止の為、零は同意の上で敬人の魔力を一時的に封じてしまったのだった。
しかし、それだけでなく、そんな状態の敬人にもしものことがあったときの為、零は自分の魔力の一部を敬人に刻み付けた印に溶かし込んでおいた。敬人に危害を加える不届き者が現れたらすぐ駆けつけられるように。
「だいたい、浮気を疑われるなど、こっちも気分が良くないんだが?」
「
……
信じておるよ」
零が己に残した印に触れられると、敬人は零に魔力を吸収されてしまう。零の意思ひとつで無力になるのは不本意だが、そうでなければまた面倒なことになる為、零の支配を受け入れているのだ。
「いい子にしてたらちゃんとご褒美あげるから、滅多なことは考えるでないぞ?」
「どうしてそう疑い深いんだあんたは」
「魔王の悲しいさがじゃよ。力が強すぎるというのも考えものじゃ」
「贅沢な悩みだな」
「慰めておくれ」
零の前に跪く敬人をぐいと立たせてやると、零はそのまま寝所へと直行する。
「夜闇の魔物の時間はこれからじゃよ」
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