その日女神の島は普段の明るい雰囲気が鳴りを潜め、物静かな様相であった。皆一様に黒い服を纏い、暗い面持ちだ。老若男女問わず全員が花束を手にして、島の外縁を囲むように立っていた。
カァン、と荘厳で寂しげな鐘の音が響き渡る。その瞬間、人々の手から花束が滑り落ち、雲を突き抜けてやがて見えなくなった。
今日は『弔いの日』 かつて人々が地上に住んでいた頃、魔族との戦いで犠牲になった人々を偲ぶ日だ。
花束は贈る人によってそれぞれ異なる。恋人を亡くした者は赤い薔薇を、母を亡くした人はカーネーションを、子どもを亡くした人は子どもの好きだった花を……といった具合である。
花束を贈る儀式が済んだあとは、いなくなった者の思い出を振り返る時間だ。人々は広場に集い、かつての日々を懐かしむのであった。
そんな寂寥感のある賑やかさから離れた、女神像の裏。質素な身なりをした金髪の男が立っていた。彼に手には黄色い薔薇の花束がある。亡き人の分身であるかのように、男は花束を優しく抱えていた。そしてその花弁に口付けをひとつ落としてから、花束を地上へと贈り出した。
今しがた薔薇に接吻した唇から、この島ではよく知られた詩の一遍が奏でられる。それは亡き人に捧げる、ささやかな鎮魂歌だった。
「リンク、皆貴方が来るのを待っていますよ」
背後から話しかけてきたのは、男よりも少し年下の茶髪の男性だった。
「あぁ、今行くよオービル」
金髪の男は、花束が落ちていった雲の下を見つめながらそう答えた。
終わり
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