無窓居室
2024-07-17 00:32:41
2238文字
Public
 

女子力低めな鬼娘に花をプレゼントしようとした悪魔の末路

pictSQUAREのWEBイベント「イベントに夢中!2〜お花に夢中〜」様に展示させていただいた短編ギャグです。
付き合ってる😈👹のお花屋さんデートなんですが、格好いい悪魔も愛らしい鬼の少女もいません。
サッカーチームの鈴鹿ポイントゲッターズは数年前にアトレチコ鈴鹿というチーム名に変わってました。

 夏も本番に近づいたある日、ブラックとアカネは駅に直結したファッションビルの中にあるフラワーショップへ来ていた。ビルにはちょっとしたブティックやカフェ、レストランも多く入っている。暑さの厳しい外を歩き回ることなく、夏物のセール品でも見ながらランチとティータイムを過ごそうという、効率のいいデートコースだ。お互い人気YouTuberとして忙しい毎日を過ごす二人だが、毎月、付き合い始めた日にはできるだけ一緒に過ごすとどちらからともなく決めていた。

「月命日みたいなもんだよな」
……その例え、いま口に出す必要ありました?」
「ど、どうしたブラック、白目剥いて。顔怖いぞ」

 存外ロマンティックな演出を好む悪魔に、そういった方面の雰囲気に疎いアカネが着いて来られないのも度々のことだ。
 昼食と買い物を終え、軽くお茶を飲んで、一日も締めくくりに近づいた頃、ブラックが寄ろうと言い出したのがフラワーショップだった。店はビル内の生花店としては大きく、色とりどりの花が溢れんばかりにディスプレイされている。言われるままに着いて来たアカネが、店内に入るところで少しだけ尻込みする。

「アカネさん?」
「な、なんか気後れしちゃって。アタシ花のことなんて全然知らないし」
「サバイバルが得意なのに?てっきり植物にはお詳しいと思ってました」
「野山に生えてる薬草や山菜はな。でも、バラとかチューリップとか、外国から輸入されてきた花は……
「外w国wからww輸入されてきたww花www」
「笑うな!他にどう言えばいいんだよ!!」
「まあまあ。恋人に花を贈る、というのをオレちゃんもやってみたいんですよ。好みの花を教えてもらうだけで大丈夫ですから、緊張しないで下さい」

 さっそくじゃれ合いのようなやり取りが始まる。好奇心旺盛な子供のような、それでいて紳士的なリードを絶やさないブラックに促され、アカネはまごつきながらも足を踏み出した。
 店の中は涼しく、緑の香りがする。

「さっそくですが、お好きな花はあります?」
「うーん、あれかな。赤い火みたいな形で、クリスマスになるとよく見る……
「もしかしてこれのことですか?」
「そうそう、これ!」

 スマホを取り出したブラックが、思い当たった花の名前で画像検索するとアカネは目を輝かせた。画面には赤と緑のコントラストが鮮やかな鉢植えの木が写っている。

「ポインセチアですね」
「レーザーポインター?」
「何でそうなるんです。ポインセチアは南米原産の常緑低木。花びらのように見えるのは〝苞〟という葉が変化したもので、これが紅葉した状態を鑑賞するのが一般的です。本当の花は苞の中心部にあって、小さく目立たないんですよ」
「へぇ、スリーポイントシュートの花って本当はこんなだったのか……

 性懲りもなく名前を間違えているアカネに、ブラックは人知れず微笑んだ。

(一見、華やかで大胆。でもその内に控えめな本音を隠している……アカネさんにお似合いの花かもですね)
「何か言ったか?」
「いえ。それにポインセチアです。──昔、貧しい少女がクリスマスに教会へ捧げる贈り物を用意することもできず、せめて野の草を摘んで持って行こうとしたところ、草の葉が燃え上がり美しいポインセチアの花束になった──という伝説がありますよ」
「鈴鹿ポイントゲッターズにそんな話が……
「ポインセチア。言い伝えの通りクリスマスが盛りの花ですから今は残念ながら季節外れのようです。一応、確認してみますけど」

 ブラックが店員に声をかけ、ポインセチアの有無を尋ねたが、やはり今は用意できないらしい。残念そうに視線を落としたアカネの目に、別の花が映り込む。

「あ、これ……

 淡い青の小さな花は5枚の花びらを並べ、それが群がって咲く姿は昼間の空の色をした星々のようだった。目をこらせば花の中心は真昼めいて青い色が濃く、蕾は薄桃色で開きかけの花は紫がかっている。まるで薄暮と朝焼けの色で、小さな花束は一日の空をリボンで結えたように見えた。

「可愛い、初めて見る花だな……ブルースター?」

 思わず顔を綻ばせたアカネの隣でブラックがもう一度スマホを開く。値札に書いてあった花の名前を素早く入力した。

「ブルースター、学名はオキシペタラムというようです」
「アタシ、この花がいい。ブラックも気に入るならだけど」
「オレちゃんも、とっても素敵だと思いますよ」

 終わってしまった七夕祭りの名残のように、星々の花束はアカネの胸に抱かれて青い天の川のように映えた。

「ありがと……嬉しいよ、このオキシジェンデストロイヤー……
「わざと言ってません???」
「来月にはアタシがブラックに花を贈るからな。楽しみにしとけよ」

 デートの終わり、駅で別れを惜しみながらやはりアカネは花の名前を間違える。しかしその瞳に星屑よりもささやかな涙が光るのを見ては、悪魔もそれ以上揚げ足を取ることもできない。自分の試みが期待以上の効果を上げたことに満足し、ブラックはアカネの乗った電車を見送った。


 〜1ヶ月後〜

「なんか枯れない花があるって聞いてブレザー服フラワーってのを送ろうとしたんだけど、間違えちゃったかも」
「アカネさん、アナタだったんですか……オレちゃんの家にフリーズドライのカリフラワーを30箱も送ってくれたのは……


 2024/07/15