バラ肉
2024-08-18 16:32:34
3714文字
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年下の男の子【アタブロ】

彼シャツならない彼ジャケットを着るブロの話。
甘酸っぱい。

急激なスランプにつき、リハビリ…

【年下の男の子】アタブロ

それは単なる出来心だった。


血盟軍を自分の館に招く際、ブロッケンJr.は自らの手で彼等全員分の衣食住の世話をするのが恒例となっていた。
勿論、それは仲間たちが頼んでいることではなく、本人が進んでやっていることだ。
折角集まってきてくれた仲間たちに気持ちよく過ごしてもらいたい。また、このメンバーでやっていきたいと思って欲しい。
親切の裏に隠した下心は、呆れるくらい真っ直ぐで、健気で、正義超人らしい善意の塊だった。
故にーー世話されることが当たり前の王子二人と違い、普段から身の回りのことは全て自分でこなしているバッファローマンとザ・ニンジャは、その申し出を聞いた時は苦虫を噛んだように顔を歪めたものだ。
『お前がそこまでお膳立てする必要はない』
喉元まで出かかった説教は、しかしジッと見つめる瞳を前にしては余りにも不躾で。
チームの副将として、ソルジャー隊長の右腕として不器用ながらに頑張る姿を切り捨てられるほど、彼等の心は黒く染まり切っては居なかった。
結果、絆されていると理解しつつも、最終的に彼等は揃って家主の好意を受け入れることに落ち着いたのだ。

そうして、血盟軍がブロッケン館に集まったーーとある日のこと。
いつものルーチンとして、午後の訓練前に中庭の傍にある物干場へ訪れたブロッケンは、鼻歌混じりに人数分の洗濯かごを地面に置いた。
洗濯ロープに吊るされた洗濯物達は、まるで洗剤のコマーシャルのごとく、風を受けて気持ちよさそうに空をはためいている。大小様々なそれらは、バスタオルなども含めると正直かなりの量だ。それを今度は各人別に分けながら取り込んでいくーーそれは単なる家事の一環と言えど、スパー前の準備運動にはぴったりだったのかもしれない。
「さあ、やるぞ!」
気合いの掛け声と一緒に袖を捲ったブロッケンは、まずはどこからやるべきか……と一巡して、一番日当たりの良い場所へ向かった。そして中でも生地が最もぶ厚い服の裾を手に取ると、軽く全体を撫でてみる。
「うん。良い感じだ!」
触って確認すれば乾きにくい内側もしっかり湿気を飛ばしている。ブロッケンは満足そうに顔を緩めると、念の為、くんッと匂いを嗅ぐ。すると気持ち良い太陽の匂いがほのかに鼻を擽った。日光に消毒された衣類は洗濯前の汗臭さが嘘のようだ。
この調子なら他の衣類も一緒に取り込んで大丈夫だろう。海原のように揺れる洗濯物達に視線を向け、彼はコクンと一つ頷いた。
では手始めに、この手の中の服をシワにならない程度に畳んで洗濯カゴに入れておこう。そう、掴んでいた服をハンガーから外して目の前に広げれば、視界を埋め尽くさんばかりの迷彩柄に思わず息を飲む。

……ッやっぱり、デカいなぁ」

両腕をめいっぱい使ってやっと伸ばし切ることができるジャケットは、毎度の事ながらその面積に驚かずにはいられない。これが人外級の体格を誇るバッファローマンやアシュラマンの物ならいざ知らず。ノースリーブの迷彩ジャケットは、間違いなくチームリーダーであるキン肉ソルジャーことキン肉アタルの物だ。
「オレとの身長差って確か2センチぐらいの筈なのに……流石はキン肉族だぜ」
言う通り、公式上の二人の身長差は殆どない。にも関わらず、目の前に掲げた服はどう見てもブロッケンよりも一回り以上大きく。
「はぁ……
いくら筋肉量に恵まれた血筋とは言え、敬愛する男の体格の良さには毎度惚れ惚れとしてしまう。
だからか、いつもはこのまま折り畳んで本人用のカゴに入れる筈なのに、つい好奇心が顔を覗かせた。

……ちょっとだけなら、良いよな?」

誰に言うでもなく小さく呟いたブロッケンは、キョロキョロと辺りに視線を巡らせ周りに人がいないことを確認すると、いそいそとアタルのジャケットに腕を通し始めたのである。
(ほんの少しだけ)
心の中でこっそり言い訳しながら、服の上からコスチュームを羽織った彼はーー案の定、その大きさに目を剥いた。
「おおッ! やっぱり胸周りとかブカブカじゃねえか! それに……脇の所もこんなに開いてるのかよ」
人目がないのを良いことに、腕をバタバタ上下左右に動かす仕草は完全にはしゃいでいた。
「はー、何を食ったらこんなになるんだよ?」
キラキラと輝く目は羨望に満ちており、只でさえ大きな憧憬の念が更に強まったのだろう。
何気なくクルッとその場で回れば、裾がコートのようにひらめき、宙を舞う。その様子はまるで愛しい恋人に抱かれて踊っているようで。
「ふふっ」
我ながらなんてクサい妄想をしているのやら。ブロッケンは我がことながら、らしくない態度に思わず笑ってしまう。
それでも、憧れの人の逞しさを再確認できた嬉しさは変わらず。

……本当に、格好いい男だ」

はにかみながら呟いた言葉は、しかし本人には恥ずかしくて決して言えないセリフだ。
「ハハッ、なんてな!」
だから敢えて口に出して茶化すものの、白い肌はちゃんと桃色に染まっていた。いくら誤魔化したところでその気持ちに嘘はないのだから。

「オレ……隊長のことが、好き、なんだよなあ……

しみじみと零れた言葉は、紛れもない本心だった。
素面では言えない、けれど常に胸に抱いている想い。
愛しい男の服(残像)に包まれている。そんな状況だからこそ、普段は頑なに秘めている気持ちが綻んで溢れる。
この場には自分一人だと完全に油断していたから。

——まさかこの場に乱入者が来るかもしれない、なんて注意を配るにはまだ彼は若く、青く。

ガサッ。

……そう言うことは、しっかり口に出しても良いんだぞ」
「え……!」
芝生を踏む音と共に聞こえてきた声に、ブロッケンはギクッ!と体を強張らせた。そのまま、ギギギッと油の切れたブリキさながらに声のする方へ顔を向けると、案の定と言うべきか。

「ブロッケン。……随分と楽しそうだな?」

そこには腕を組んでこちらを見つめているアタルの姿があった。
「へ……?」
そして情けない声が漏れたのを最後に、ブロッケンの体はまるで緊急停止のごとく一切の動きを止めた。
「「……」」
沈黙が二人の間に流れる。
一分、三分、五分……

「おい、どうかしたか?」

いい加減痺れを切らしたアタルが訝しげに頭を傾げるまで、ブロッケンは完全に思考を止めていたのか。ハッと我に返った彼は、自分の状況と目の前の男の存在を改めて確認した瞬間ーー

「?!??!!?」

面白いほどに顔を歪めたかと思えば、見る間に首元から順に白い肌を真っ赤に染めていった。

「おい……?」

「ッぁ、う、ええっ……?」

言葉にならない叫びは、その動揺を痛いくらいに表しており。
一体いつからここに居たのか? 
どこから自分の様子を見て聞いていたのか?
ぐるぐる回る記憶と思考に整理が追いつかない。
一方、見るから混乱している部下の元へ一歩ずつ、殊更ゆっくり近付くアタルの瞳は妙に真っ直ぐで、またどこか楽しげで。

「どうした。そんなに気にしなくて良いんだぞ?」

いつの間に距離を詰めていたのか。
優しい言葉と共に頬を撫でられたブロッケンは、自分の羞恥メーターを一気に最大値まで振り切らせた。
「〜〜ッ!?」
そうして最早声にならない叫びを上げながら、彼は己の限界を知った。と、同時にこの場に居るのが無性に居た堪れなく。結果、脱兎の如くその場を立ち去ることしかできなかった。

(見られた⁉︎ 聞かれた⁉︎ あ、あんなこっぱずかしいセリフを⁉︎)

洗濯物の海を駆け抜ける彼の顔は、可哀想なほどに赤かった。ついでに目尻がしっとりと濡れていたのは言うまでも無いだろう。


対して、物干場に一人残されたアタルは、遠ざかる背中を見ながら静かに顎を摩った。
「ふむ。……ああいう真似は、この歳になっても中々グッとくるものだな」
外面は冷静を装いつつも、アタルも内心はかなり動揺していた。
最初は、随分と幼い真似をしていると微笑ましく思っただけで、見て見ぬ振りをして立ち去るつもりだった。しかし、その場でクルリと回ったり、はにかみながら可愛い台詞を吐く彼に黙っていることはできず。

「相変わらず、不意をつくのが好きな男だ」

目元から見える頬は通常よりもずっと赤い。マスクの下では相当に表情を崩していることだろう。
「まったく。無自覚のくせに、俺のツボをよく分かっている……
やれやれと困った風に頭を振る様は、飽くまでも照れ隠しでしかない。本心は今すぐにでも抱き潰してやりたいほど、愛しさで満ちているくせに。

「オレも好きだぞ。ブロッケン?」

早々に気持ちを切り替えたアタルは、遠ざかる年下の恋人の後を追うように足を踏み出す。

今のブロッケンを他のメンバーに見せるのは些か面白くない。

一刻も早く捕まえて、この胸に閉じ込めてやらねば。

何より、服なんかで満足されてはたまらない。

「服ではなく、ちゃんとこの体で包んでやろう」

そう、彼は一人の男の瞳で笑った。