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shirajira
2024-08-18 06:49:48
6991文字
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笑っていてほしいので
2024.8.17ビマヨダワンドロより。お題「百王子」(「祭」と「笑顔」も少し)。百王子にちょっとだけ体を貸してやることにするビマの話。捏造百王子が出ます。
ドゥリーヨダナによる百王子祭開催! マスター待望のボックスガチャ! 集え勇敢なる戦士たちよ! その手に栄光を掴むのだ!
そんな謳い文句でドゥリーヨダナが百王子祭という名の、いわゆるボックスガチャイベントを開催したのが七日前のことである。祭りは七日間に渡って行われ、最終日、フィナーレを終えたドゥリーヨダナは
――
。
ハチャメチャに怒られた挙げ句にビーマというお目付け役付きで謹慎処分にされ、反省文の提出を強いられていた。
「何故だ!? わし様何も悪いことしとらんではないか! 気前よく素材もQPもじゃんじゃん放出したし、みんな喜んどっただろ!?」
「お前が参加者の体を弟の物にするとかわけわかんねえこと企もうとするからだろ。いいから早く書け」
眉を八の字にして騒ぐドゥリーヨダナに、ビーマはため息をついた。
百王子祭。ドゥリーヨダナによる祭り。参加者には百王子たちが被っているのと同じ仮面が配られ、それを身につけて戦うよう求められていた。
その仮面が、ドゥリーヨダナの霊基に内包された弟たちが体を乗っとるためのものだと、誰が思おうか。
「いいではないか、体の一つや二つ、ケチケチせずに貸してくれても! ずっと貸してくれと言うわけではないのだ! ほんのちょっと、二、三日くらい貸してくれればいいのだ! ちゃんと汚さず傷もつけず返すし、礼金も弾むつもりであったのだぞ!?」
「いいわけねえだろ。誰がロクデナシに体を貸したがるんだよ」
謹慎処分と反省文の提出で済んだのは、ドゥリーヨダナの企みが未然に防がれ被害は出なかったこと、その性格から晒し者にするような罰は逆効果であると判断されたこと、素材やQP、隠し持っていた聖杯は全て没収となったこと、動機にマスターが同情しドゥリーヨダナを庇ったことなど諸々理由はあったが、てんで反省する様子のないドゥリーヨダナに、もうちょっと重い罰にした方がよかったんじゃないかと、ビーマなんかは思う。
反省しないにしても、行動に移す前に躊躇わせるという意味で、罰というのは有効だ。
「だいたいお前、誰かが二、三日お前の霊基を貸してくれって言ったらどうすんだよ。貸すのか?」
「は? 貸さんが? 何でわし様がどこの馬の骨ともわからんやつに霊基を貸さなきゃならんのだ?」
「その言葉、そっくりそのままお前らに返すぜ」
呆れて物を言う気もなくすような問答だ。思いながら、ビーマはそれとなくドゥリーヨダナの様子を伺った。顔を赤くしてわめき散らしているが、徐々に声音から元気がなくなっていっている。
多分、落ち込んでいるし、傷ついているんだろうな。それがわかるようになったのは、ここ最近だ。
カルデアで再会して、肉体関係を結んでから。魔力のやり取りをしているからか、それとも間近で顔を突き合わせているからか、何となくだが相手の感情が以前よりわかるようになった。
やったことを考えれば落ち込んだり傷ついたりできる立場じゃねえだろとは思うが、マスターからできれば優しくしてあげてほしいと言われている。
一応ビーマもそのつもりで、監視役を買って出たのだ。
「いいから、とにかく反省文を書け。いくらお前でも、やったことが怒られるようなことだってのは理解してるんだろ? 反省文と謹慎で済むんだ、感謝しろ」
ビーマの言葉に、一応手に取りはしたペンをくるくる回しながら、ドゥリーヨダナが口を尖らせた。
「
……
ふん。どうせお前にはわし様の気持ちはわからん。アルジュナがいるお前には。なんか尻尾の生えたやつまでおるし」
このカルデアには数多の英雄がおり、ビーマの弟のアルジュナと、その別側面だというアルジュナ・オルタもまた、召喚に応じていた。
一方でカルナやアシュヴァッターマン、ドゥフシャーサナやヴィカルナなどの百王子、カウラヴァの主だった面々はドゥリーヨダナを除いて誰一人として召喚されていなかった。
ドゥリーヨダナの宝具は弟たちを呼び出し、時には友をも呼び出す強力なものだが、カルデアの電力で供給される魔力量では、常時発動し続けることはできない。会えるのは戦闘時だけ。一言二言、言葉を交わすのが精々で、それ以上のやり取りは難しい。
自分も弟たちと話したり、一緒に何かしたかった、そのために幻霊程度の力しかない弟たちの依代にする体が必要だった、というのが、ドゥリーヨダナの今回の凶行の動機だった。
寂しかったのだそうだ。
生前ほど、周りをたらしこめてはいないようなのはビーマも知っていた。たまにぽつんと、むすっとした顔で所在なさげにしていることもあった。ここには数多の英霊がいて、マスターも全員を気に掛けるのは難しい。
元々ビーマとドゥリーヨダナの肉体関係も、酒をしこたま飲んだドゥリーヨダナがお前ばかりずるい、独り身のわし様に申し訳ないとは思わんのか、申し訳ないと思うならわし様が寝て起きるまでここにいろとうるさかったので、黙らせるつもりで俺が夜を共にするのはそういうことをする相手だけだと答えたら、まあ、そういうことになってしまって、そのままずるずるとここまで来ている。
寂しがりやなのだ。自分を殺した男に体を許してしまうくらいには、参っている。知ってしまったから、見てみぬふりを続けるのは難しかった。
最近少し落ち着いたのかと思っていたが、恐らく百王子祭の準備で忙しくしていたからだったのだろう。
一向に渡された原稿用紙に手をつける様子のないドゥリーヨダナを見下ろす。ビーマは小さく息を吐いて、ドゥリーヨダナの顎を掴んだ。無理やりこちらを向かせて、唇を重ねる。
「
……
何だ急に。盛りおって」
「どうせこのまま机に向かってても、何も書かねえだろ、お前。
……
気分転換、させてやる」
ドゥリーヨダナは何も言わなかった。ただ、机にペンを置く音が、やけに大きく響いた。
「
……
毎回毎回、すごいもんだな。さすがビーマ殿。うちの兄貴が貪欲でよかったね。俺ならあんたの絶倫には付き合えないよ」
意識を失い、寝台の上に投げ出されていたはずの体が、緩慢な動きで身を起こすのを、ビーマは静かに見守った。
「ヴィカルナか」
ビーマの問いかけにドゥリーヨダナが
――
ヴィカルナが、にこりと笑う。拠り所とするドゥリーヨダナ本体の意識が落ちている間だけ顔を出す百王子はランダムで、それも決まってビーマがドゥリーヨダナを抱いた後に現れた。
初めて顔を出した百王子はドゥフシャーサナだった。彼が口汚くビーマを罵りながら説明したところによると、かつてビーマがドゥフシャーサナの血を飲んだことによるものらしい。
その気はなくとも、ビーマにも百王子の一部が内包されている。ドゥフシャーサナに言わせれば、ビーマは本来ドゥリーヨダナのものである百王子の一部を奪い、持っている。それが交合により、一時的にドゥリーヨダナに返還され、百王子は僅かながらこうして顔を出すことができる、とかなんとか。
詳しいことはビーマにもわからない。そもそもドゥリーヨダナはこのことを認識していない。教えないというのがドゥリーヨダナを除いた百王子たちの総意だったから、ビーマもそれに倣っている。
顔を出す百王子は毎回違ったが、今回ヴィカルナが出てきたのは、ビーマにとって幸運だった。下着すらつけないままにビーマが居住まいを正すと、ヴィカルナが目を細めた。ドゥリーヨダナがあまりしない表情で、それだけで目の前の相手は「違う」のだと、そう認識させられる。
「話がある」
ビーマの言葉に、ヴィカルナが「何?」と片眉を跳ね上げた。ドゥリーヨダナと少し似た表情。
「お前らに体を貸してやるための仮面。あれはまだあるのか」
ドゥリーヨダナが参加者に配布したものは全て回収済みだ。九十九枚。ビーマの問いに、ヴィカルナが眉を寄せる。
「俺たちの分はしっかり全部奪われたけど? まだあるんじゃないかって疑ってるわけ?」
「ああ。数が中途半端だし、それに
……
妹の分が、足りてねえだろ」
ドゥフシャラー。百王子の唯一の妹である彼女もまた、ドゥリーヨダナと同肉である。ドゥリーヨダナの霊基の中に内包されているのかは知らないが
――
可能性はあった。
ビーマの言葉にヴィカルナはゆっくりと瞬きをすると、間延びした声で「あるって言ったらどうするの」と小首を傾げた。
「って、聞くまでもないか。回収して処分。それしかないもんな」
「いや、俺が使う」
「は?」
ぽかんと眉を八の字にして、ヴィカルナが口を開ける。そうしているとドゥリーヨダナとよく似ていた。
「ビーマ殿が? 使うって何。どういうこと」
「俺が、お前らに体を貸してやる。ちょっとだけだし、少しでも変なことしようとしたら幻霊だろうが英霊だろうがぶち殺すが
――
」
「待って待って待って。え? 何? ビーマ殿が俺たちに体を貸す!? 何で!?」
困惑しきった顔を、ビーマは見下ろした。同じ顔でも中身が違うと思うと、口付けする気にはならないなと、そんなことを考えながら口を開く。
「他のやつらがどうか知らんが、俺ならお前らに体を好き勝手されることはねえだろうからな」
「そう言われると好き勝手してやりたくなってくるな
……
ってそうじゃない、俺が聞きたいのは、何で俺たちに体を貸す気になったのかってこと! あんたにメリットはないだろ」
メリットは、ある。
「お前らに会えたら、喜ぶだろ、こいつ」
ビーマはヴィカルナの
――
ドゥリーヨダナの胸を指差した。自分の胸に視線を落としたヴィカルナが、ゆっくりと顔を上げ、囁くような声で尋ねてくる。
「兄貴を、喜ばせたいの?」
「いや、喜ばせたいっつーか
――
笑顔にさせてやりてえだけだ」
落ち込んだ顔や寂しげな顔より、そちらの方がずっといい。ビーマはそう思う。
「俺じゃ、こいつを笑顔には
――
満足させてはやれなかったみたいだからな。それなりに、満たしてやってるつもりでいたんだが」
寂しさを、埋めてやっているつもりだった。最初はぎこちなかった距離を自然と詰められるようになって、時々屈託ない笑みを向けられるようになって、自分はうまくやっているのだと、そう思っていた。
でもそれも、自惚れだったのだと、今回の事件で知った。当たり前だ、ビーマではドゥリーヨダナの弟たちや友人たちにはなり得ないのだから。
「あんまり笑わねえとな、笑い方、忘れちまうって言うし。こいつが笑顔になれるなら、このくらいのことはしてやってもいい。満足すれば、妙なことも考えなくなるだろうし」
「ビーマ殿ってさあ
……
いや、いい。俺が言うようなことじゃないわ」
何故だか呆れた声でそう言って、それからヴィカルナが仮面の予備ならそこの二番目の引き出しだよと、サイドチェストを指差した。
引き出しを開けると、確かに百王子の揃いの仮面が一枚、入っていた。未使用だとわかる綺麗な仮面を手に取る。
「これつければ、お前らの誰かに体を貸せるのか? 相手は選べるのか?」
「選べない。それをつければ俺たちの誰かが、あんたの体を借りるだろう」
「そうか。
……
じゃ、俺は仮面をつけるから、お前もその体をドゥリーヨダナに返せよ」
「はいはい」
どこか面倒くさそうにそう言って、ヴィカルナが目を閉じる。それを見届けて、ビーマは仮面を被った。途端に意識が足を引くように奥底に引きずり下ろされる。
「
……
ん? ビーマ?」
ドゥリーヨダナが瞬きをした。ビーマが何かを思うより先に、ビーマの舌は勝手に「兄貴」と喜色に満ちた声を紡いでいる。ぼんやりした顔をしていたドゥリーヨダナの顔が、はっと鋭いものに変わった。
「お前
……
ドゥフシャーサナか!?」
「そうだよ! 兄貴の一番の弟の俺だよ!」
よりによってドゥフシャーサナか。まあ予想はしていたが。ビーマは思い通りにならない体の中で、意識としては顔をしかめた。ビーマの命令を受け取らない体は、何もなかったかのように機嫌よく言葉を紡ぎ続けている。
「今回はうまくいかなくて残念だったね、兄貴。英霊たちもケチだよなー。ちょーっとくらい、体貸してくれたってバチ当たらねえだろうに」
「
……
うむ」
何故だか神妙な顔をして、ドゥリーヨダナが頷く。嬉しいには嬉しいがはしゃいでいいのかわからない、そんな顔に見えた。ドゥフシャーサナも微妙な表情に気づいたのだろう、「兄貴?」と心配そうな声を上げている。
「どうしたの? 俺と会えて嬉しくない?」
「いや、そんなことはない。こうしてお前と会って話せて、わし様はとても嬉しい。
……
ビーマからお前の気配がするのは、その、変な気分だが」
「それなー。俺も今、牛野郎の体にいるのかと思うと
……
オゲーッ! ってなもんだぜ」
うるせえな、文句があるなら追い出すぞ。ビーマは念じてみたが、届いたのかどうかはわからなかった。ドゥフシャーサナが言う。
「あのさ兄貴。兄貴が俺たちに会いたくて頑張ってくれたの、すげー嬉しいけどさ。やっぱその辺のやつらの体より、兄貴の体が一番居心地いいし、それに兄貴の中にいる限り俺たちずっと一緒だろ? 俺らとしちゃ、そっちの方が嬉しいよ」
ドゥフシャーサナにしては随分まともなことを言う。余計なことを言おうものならすぐ体を取り返してやろうと思っていたのに。ビーマが様子を伺っていると、ドゥフシャーサナが付け足した。
「だから無理はしないでくれよ、兄貴。無理してここから退去なんてことになったら、次はいつ兄貴と一つになれるかわからないからな」
言い方が気持ち悪いな。ビーマがそんな感想を抱いていると、ドゥリーヨダナが笑った。気の抜けた、肩の荷が降りたような、柔らかな笑み。
「まったく、仕方のないやつだなお前は。その歳になっても兄離れできんとは。これもわし様の凄まじい兄力の力か
……
なーんで他のやつらには効かんのだろうなあ、わし様の兄力」
「歴史の浅いやつらばっかだからじゃねーの? 嫌だねえこれだから紀元後生まれはよ。兄貴の魅力がわからねえとか脳ミソ退化してんじゃねえの」
とは言え、あのマスターは見所あるけどな。呟いたドゥフシャーサナが、ポンと手を叩く。
「そうだ兄貴! マスターに頼んでカルデア内でも宝具打てるようにしてもらおうぜ! なーにあんなガキならちょっと凄めばすぐ言うこと聞いだだだだだ」
潰すか。思いながらビーマはドゥフシャーサナの霊基らしきものを握りしめた。突然目の前で苦しみだしたドゥフシャーサナに、ドゥリーヨダナが「ど、どうした!?」と慌てた声を出す。
「うえーん兄貴ぃ! ゴリラが苛めてくるぅ!」
「なんだ、ビーマもそこにおるのか」
いるに決まってるだろ。俺の体だぞ。思いながらビーマはドゥフシャーサナの意識を通してドゥリーヨダナの顔を見る。ドゥフシャーサナが苦しむ理由がわかったからか、どこか安心したような顔だった。
「ドゥフシャーサナ。そろそろわし様のところに帰ってこい。ビーマにお前を預けとくのは不安だ」
「りょーかい。俺も兄貴の中に早く戻りたいし。
……
あ、待って、その前に」
ドゥフシャーサナが両腕を広げた。それを見たドゥリーヨダナが、笑みを浮かべて体を寄せてくる。
親しいもの同士の、優しいだけの抱擁は、夜間にビーマがドゥリーヨダナと行うそれとはまるで違った感覚を与えた。居心地の悪さに似たものを感じながら、ビーマは体の主導権を取り戻すタイミングを伺う。
「じゃあな、兄貴。
……
じゃあなっていうのもおかしいか。俺らずっと一緒なんだから」
「
……
ああ、そうだな。ずっと、一緒だ」
掠れた声にビーマがぼんやり耳を傾けていると、急に意識が押し上げられるように浮上して、視界が開けた。ドゥリーヨダナが、ビーマの仮面を取ったのだ。
「ビーマ?」
「おう」
抱擁したままの距離感に、何故だか落ち着かない気分になりながら、ビーマは応える。ドゥリーヨダナはまた神妙な顔をしていた。
「どうした?」
「いや、うむ
……
その、霊基に変なところはないか?」
「特にねえな」
「そうか」
そうか、ともう一度呟いて、ドゥリーヨダナが笑った。花が綻ぶような、あどけなさのある笑みだった。
その笑みを見て、心に火が灯ったような気持ちになって、ビーマは思わずドゥリーヨダナの背に回ったままの腕に力を込めた。
「
……
この程度だったら、また体を貸してやってもいいぜ」
喜ぶだろうと思っての言葉だったが、ドゥリーヨダナは首を横に振った。
「いや、いい。
……
他人の霊基を間借りする作戦はやめだ。もういい」
「やけに物わかりがいいじゃねえか」
諦めの悪さに定評のある男らしくない発言にビーマが瞬きをすると、ドゥリーヨダナは唇を尖らせ、こう言った。
「わし様はなあ、欲しいもののために、手に入れたものを手放すようなことはせんのだ。粗末にするようなこともな。両方手に入れるし、大事にする。
……
だからお前はお前のまま、わし様の側におれ」
ビーマはしばし、ドゥリーヨダナの赤くなっていく頬を見つめた。何と言葉を返そうか、暴れまわる胸の内を抑えながら。
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