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ひるね
2024-08-18 03:12:07
3681文字
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アイノノロイ
うっかりリー指にどハマりしてしまい、現在まだ12章終わったくらいですが勢いで書いてしまいました…。
認識不足・解釈違い・捏造設定ご容赦ください。
※このお話において、指揮官の名前や性別は設定しておりません。
※何でも許せる方向けです。
※「意識伝送が可能である」Ifな世界線です。
リー指は永遠に幸せになる呪いを掛けておきました!!
「おはようございます。あなたが僕の指揮官ですか?」
目覚めた彼の第一声が私の鼓膜に響く。同じ声。指を握って開いて。滑らかに動くか確認する、いつも起き上がる前にする仕草。アイスブルーの瞳が私を捉える。視覚モジュールが音もなくこちらの表情を分析していた。平静を装えない私は多分今、とても酷い顔をしている。
――
彼は本当に死んでしまったのだ。
先の大規模な侵蝕体の掃討作戦で、リーは私を庇って再起不能となった。完全に意識海が破壊される前に、彼は自分自身を強制シャットダウンして意識伝送処置を行った。意思のない兵器となった彼は敵を殲滅することに成功したが、構造躯体は大破。超刻機体の有用性から、数ヶ月かかって修繕が進められた。残存パーツが少な過ぎて、塗装は同じだが新機体に換装したと言っても良いだろう。辛うじてプロテクトされ、残っていた意識海は再構築後移植された。だが、激しい損傷故に
以前のプログラム
以前のリー
を保持したまま目覚めるかは未知数だった。そして今日。私は数ヶ月ぶりの彼の目覚めに立ち会うことになったのだが、不安は的中してしまう。 今、目の前で長い眠りから目覚めた構造体は、私に笑いかけることはなかった。
調整を受け続ける彼を尻目に、私はメンテナンスルームを這うように出た。外の空気が吸いたくて、本来ならまだ勤務時間であるのも構わずあてどなく彷徨った。今どの辺りなのか、どうやってここまで辿り着いたのか、最早どうでも良かった。曇天から降り落ちる人工雨が、容赦なく私の体温を奪っていく。込み上げるような吐き気を覚え、その場に蹲る。
『泣かないで。あなたは生きて』
それが彼の最期の願いだったから、自分は馬鹿みたいにきっとこれからも生き残るだろう。残酷すぎる遺言。私は否応なく、あらゆる手段を使ってでも地球を奪還して生き続ける。生き続けなければならない。 周りの気遣わしな視線も、言葉も。幾重にも重なった真綿のように、じわじわと私の首を絞めていった。
どこからか饐えたゴミの臭いがする。濡れそぼった前髪の隙間から暗灰色の空を眺める。冷えたコンクリートを背に足を投げ出して座り込んだ。泥が跳ね、水分を含んで重くなった制服を更に汚した。こめかみに疼くような痛みが走る。は、は、と浅い呼吸を繰り返す。ずるずると凭れていた背中が滑って、薄汚れた路地で死体のように転がり目を閉じた。
雨足が緩やかになった頃、物音がした。薄目を開けると見慣れた黒いブーツの先が視界に入る。
「全く呆れますね。酷い有様だ。
…
まるで野垂れ死にそうなスカベンジャーだ」
小雨に混じる声。その音は剣呑な雰囲気を孕んでいた。
「
…
悪いけど放っといてくれないか。今は誰かと話す気分じゃない」
視線を上げるのも億劫で、目を閉じたまま答える。
「奇遇です。僕もそうしたいところですが、残念ながらドブネズミのようになっている上官を放っては戻れません。このままでは風邪を引きます」
深いため息と共に、リーが身を屈めて私を覗き込んだ。反射的に私は顔を逸らした。
「
…
頼むから、今すぐ私の前から消えてくれ」
リーは一瞬面食らったような表情をした。傷つけたく無いのに。否、傷ついてしまえばいい。そう残忍なことすら願ってしまう。これは幻で、目の前に佇む構造体も全部幻覚だ。
自暴自棄な私の姿を見下ろして、リーはしばらく思案した。やがて変わらないトーンで私に語りかける。
「あなたがメンテナンスルームから立ち去った後、個人データベースにアクセスしました。あなたと僕
――
いえ、以前の僕は
…
その、恋人同士だったと記録にありました。申し訳ありません。僕の言動は、いささか配慮が無かったことを認めます」
「
…
うるさい、余計な事をするな」
「チッ、こちらが下手に出ているのに。
…
記録より随分と聞き分けの悪い指揮官ですね」
悪態をつきながら、リーは私を起こそうと手を伸ばす。
「触るな
…
。
…
お願いだから」
振り払う気力もなくて、私は消え入りそうな声で言った。リーの指先が少しの逡巡の後、私の頬に触れる。
「ッ、だから、触るなって
…
」
「あなたは大きな勘違いをしている」
リーの手が私の腕を掴み、引き起こされた。無理やり目線が合う。その瞳は湖面のように凪いでいた。
「以前のリーのメモリを全て解放しました。あなたと過ごした時間は全て記録されていた。何十にも厳重にロックがかかっていて解錠するのに少し手間取りましたが、彼にとってとても『大切な記憶』だということが今の僕にも分かりました。あと、ほんの僅かに残っていた彼の意識海のデータも、」
リーは一度そこで言葉を区切った。何か言いづらそうに咳払いした後、私の顔を見据えて告げる。
「彼の残した意識海のデータでは、あなたとの時間はこちらが恥ずかしくなってしまうくらい幸福な波で満ち溢れていました。この機体は高い演算能力故に過負荷状態になり易い。
…
けれど、その状態ともまた違った
…
、言うなれば色とりどりのお花畑だ。あなた、一体彼に何をしたんですか? あんな意識海の状態、信じられません」
クソ真面目な表情で問い詰めてくるその姿に、私は呆気に取られてしまう。リーは構わず言葉を続けた。
「あと、メッセージも添付されていましたよ。あなたは自分にとって命より大切な人だからと。指揮官のくせに、構造体を庇うために身を挺して突っ込んでいく大馬鹿者で。弁は立つのに立ち回りが不器用過ぎるから、自分が一緒についていなければならないのだと」
リーは一度拳を握り締め、また開く。その眼差しはどこまでも柔らかかった。
「
…
彼は、あなたと出会えてあなたの盾として終われて幸せだったのです。少なくとも人間であった頃より、構造体としてあなたのために生きた時間は何よりも代え難かった。彼の本質は誰かを守り、慈しみたいという気持ちで構成されていたけれど、あなたはそれに応えた。いつだってそれを何なく超えてきた。あなたから与えられた愛で、彼は彼の尊厳を最後まで守り、遺す選択をすることが出来た。
…
表現が分かりづらいですか? それともこれだけ言えば、いくら鈍いあなたでもお分かりになりますか、指揮官?」
「リー
…
」
「そうです、この僕もあなたのリーです。
『僕』
彼
は生きています。どうやら僕には初めから拒否権はないようだ。機体は新しくなっても
『僕』
彼
の記憶が僅かにでも残り続ける限り、きっとまた僕はあなたに恋をする。
…
それくらいにあなたは特別な人です」
「
…
はは、まるでタチの悪い呪いみたいだ」
「あなたが許してくれる限り、それは永遠に続く。嫌だなんて言わせませんよ。あなたは僕と一緒に生きて、幸福に満ち溢れて最期を迎えねばならない。そう全ては決まっているんです」
肩を竦め冗談めかして言うリーに、私は返答に窮してしまう。
「
…
あなたに触れてもいいですか?」
その問いかけに、弾かれる様に顔を上げた。彼の真っ直ぐな視線が私を静かに射抜いた。全身に電流が走る。中枢神経がもう観念してしまえと信号を送る。
躊躇いがちに小さく頷いた途端、力強く抱きしめられた。壊さないよう慎重に。私は彼の首筋に顔をうずめた。雨と泥と涙で酷い有様なのに、リーは構わず労うように私の背中をさすった。
「そんな無様なところもあなたらしい」と懐かしい皮肉にも、痛いほど胸が締め付けられる。それは、もう二度と訪れないと思っていた幸せな瞬間だった。
「
…
僕にも教えてください。今すぐには無理でも、少しずつでいい。言葉で言えないならボディランゲージで」
真新しいバイオニックスキンの指先が、悪戯に私の手の甲を滑る。目から流れる水滴をざらりとした舌が舐めとる。
「
…
この味も記録される?」
「そうですね。何一つ忘れたくない」
「私の意向は全て無視?」
「そうです。あなたの寝起きの間抜けな表情も、
…
体にあるほくろの位置も」
あなたの全てを愛しています。そう優しく耳元で囁かれる。いきなりの全肯定に、さっきまで絶望の淵にいた私の思考はまるでついていけない。ああ、リーってこんな人だったっけ? と疑問符が浮かぶ。けれど。どんなリーでもいい。どんな一面を持ち合わせていても、彼は彼だった。リーがそうしてくれたように私も受け入れてあげたい。少しずつ変わって受容して、一緒に生きていく。私が私らしくいられるのは、いつだって大切な存在が見守ってくれるからだ。
私が彼の頬にそっと口付けると、リーは少し不服そうな顔をした。
「ちゃんと唇にキスしてくれないんですか?」
「
…
それはもうちょっと仲良くなってから、かな」
碧い瞳が柔らかく揺れた。それから「上等です」と、口端を上げて挑むように笑った。
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