てらだゆ
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ぼくらのサマー・アンサー!

【GS4】本七+モブくんが某校生クイズを目指す友情もの 何でも許せる人向け 未完

「ほ、本多くん。僕と高校生アンサーに出てください!」

 クラスメイトに向かって頭を下げる。汗が眉から鼻へ垂れ、ぽたりと床へ落ちていく。
 神さま、どうか僕に。僕にチャンスをください。

「だーっ……ごめん、オレはやめとくよ」

 あっけない返事。顔を上げると、本多行くんはニコッと笑った。

「君なら他の人と出ても勝てるよ。オレ、応援する!」

 そう言って僕の肩をたたくと、友だちとともに教室を出ていった。僕は頭が真っ白になって、動けない。
 大波 おおなみ直己 なおみ、十七歳。高校最後の夏が、終わった――
 梅雨の合間、珍しく爽やかに晴れた六月某日。生暖かい風がむなしく僕のワイシャツを通りぬけた。

△△△

「なんか珍しいな。ダーホンが断るとか」

 言いながら自販機にコインを入れ、ボタンを押す。ボコッ、とにぶい落下音を聞いてから取りだし口を探る。苺ミルクのパックはひしゃげており、指でぐっと形を整える。

「そかな?」
「キホン、何でも首つっこむじゃん。しかもアレ、クイズだろ。絶対OKすると思ったわ」

 ははっ、確かに、と他人事みたいにダーホンが笑う。こいつはたまに、何を考えてるのかわからないことがある。単純そうに見えて、結構フクザツ。

「だって、ナオくん、真剣そうだったから」
「シンケンならいーんじゃねえの」
「だめだめ、オレ絶対じゃましちゃうね」
「よくわかんねーな」

 首をひねりながらストローを吸う。白い管をピンク色の影が上ってきて、ひんやりとした感触とわざとらしい香料が口の中に広がる。うまい。
 ダーホンも隣でスポドリを口に含んで、考えごとでもしてるみたいに宙を見ていた。暑さのせいか、丸くふくらんだ頬の血色がやけにいい。ごくん、と喉を鳴らしてから話しかけてくる。

「ミーくんは高校生アンサーって見たことある?」
「ない。見ても全然わかんないし」
「そっか。高校生アンサーは、同じ学校の生徒が三人一組で挑戦する大会で、元々は今から五十年くらい前にやってた『アフリカ横断ミラクルクイズ』っていう番組の高校生版として始まったんだけどね……
「待て。ソレ、長くなるヤツか」

 遮ってスマホを見る。

「あと五分で休み終わるから、カンケツに」

 了解!と言ってから、ダーホンが淀みなく話を再開する。
 あ。コレ、終わんないわ。
 直感でわかる。いつもに増して声がデカいし、身振りも熱が入ってる。先々週アマガエルの生態について語られたのと同じくらいのテンション。あのときは確か昼休みいっぱいかかった。

……それで地区大会に勝ちあがると、ゴールデンで放送される全国大会に行けるんだけど、形式が毎年面白くてさ。昨年なんかはカヌーで」
「なあ、ダーホン」
「なになに?」

 本当は大会に出たいんじゃ、と口を開きかける。
 が、遮るようにチャイムが鳴った。

「うわっ、授業が始まっちゃうよ!続きはまた後で!」

 ダーホンが上履きをパタパタ言わせながら、小走りで教室に向かう。
 俺も残りのジュースを一気に飲んで、雑に潰したパックをごみ箱に放りこんだ。

□□□

 本多くんは天才だ。
 改めてそんなことを言ったら笑われるだろう。でも、他の人が思っているよりも僕にとってはずっとずっと、憧れの存在なんだ。
 中学のときに高校生アンサーを初めて見た。衝撃だった。真面目そうなお兄さんがボタンめがけて死にものぐるいで砂浜を走ったり、派手なお姉さんが失格になってメイクの崩れも気にせず泣いたり。普段は接点の無さそうなメンバーが同じ問題に挑んで、お互いを称えあう。あれこそが青春だと思った。
 やっと高校生になって二年連続、クイズ好きの先輩たちと出たものの、地区大会で敗退した。昨年なんかはみっちり対策して決勝まで残ったのに、先輩と全国に行けなかったことが悔しくてたまらなかった。

「気にすんな、俺らの分も来年がんばれよ」

 背中を叩かれても、僕は笑えなかった。今思うと、一番落ちこんでいるはずの人たちに、なに気を遣わせてるんだって頭をはたいてやりたい。そんなことに気づかないくらい凹んでいた。
 やることの無くなった夏休みに、ソファーでだらけながらテレビを点けたとき。

『三人目の回答者は、はばたき学園の二年生、本多行くんです!意気込みをどうぞ』
『はいはーい!今日は楽しみます!』

 クイズ!!ブレイン・インターハイ。もうクイズはいいよ、とチャンネルを変えようとしたけど、手が止まった。
 悠々とボタンを押し、迷いなく答える。誰もがパスした問題を颯爽と拾っていく。どんなジャンルにも詳しくてスキがない。周りがプールのなかを歩いている横で、すいすい背泳ぎでもしているみたいだった。
 かっこいい。
 はば学いちの秀才の存在は知っていたけど、ボタンの前に立つ姿はひときわ輝いていた。
 二学期が始まってから、本当はずっと声をかけたかった。でも勇気が出なかった。クラスが違ったし、接点なんてなかったから。だけど――
 ちらっと斜め前の席で授業を受ける本多くんを見る。
 先生の話に耳を傾けていたかと思うと、どこから持ってきたのか分厚い図録をめくり、ノートにメモをとっている。
 三年で同じクラスになって、絶対に本多くんとクイズをしようと思った。こんなチャンスはない。何とか自分を鼓舞して、やっと声をかけられたのに。
 こうもあっさり断られてしまうとは。
 抜け殻のように午後を過ごし、気がつけば放課後だった。のろのろとリュックにファイルや筆箱を詰め、教室を出る。

「なあ、オーナミ」
「へっ」

 ふいに呼ばれ、ぎょっとする。本多くんといつも一緒にいるクラスメイト――七ツ森くんが壁に背中を預けてこちらを眺めている。
 身長の高い七ツ森くんと向きあうと見下ろされるかたちになり、あまり話したことがないのも相まって変に委縮してしまう。

「えっと、どうしたの」
「クイズのメンバー、見つかった?」
「いや……それがまだ。正直、本多くんありきで考えてたからどうしようか悩んでる」

 七ツ森くんが、ん、と小さく相槌をうつ。眼鏡の奥の表情が読めない。

「そんなオーナミにクイズです」
「え?」

 今、なんて言った?
 戸惑う僕を無視して、七ツ森くんが人差し指を立てる。

「第一問。ダーホンの仲良しの妹が好きなアイドルは誰でしょう」

 続けてゆっくりともう一本、指を立てる。

「第二問。今年の高校生アンサーの地区大会ゲストは誰でしょう」

 七ツ森くんは言いおえると、ぴっと左手に持っていた紙切れを差しだした。今年の高校生アンサーのビラだ。確か昇降口に束で置いてあった。

「え、ちょっと、ええっと」
「俺からは以上。あいつ、興味ないわけじゃなさそうだったから。うまくいくかわかんないけど、もっかいくらいトライしてもイイかも」

 淡々と話すと、そんじゃ、と七ツ森くんは去っていった。
 頭のなかをはてなマークが飛びかう。もしかして、アドバイス?
 渡されたビラのなかで、今をときめく人気アイドルが僕に微笑みかけていた。

□□□

「本多くん、やっぱり僕と高校生アンサーに出てくれない?」
「えーっと……

 本多くんは手を『ごちそうさま』のかたちのまま、まばたきを繰りかえす。目の前のトレイには空のラーメンどんぶり。隣では七ツ森くんがフルーツサンドの最後のひときれを口に放りこんだところだ。
 昨日の今日で、一緒に学食へ行こう、と誘ったから勘づかれていそうなものだけど、本多くんはきょとんとしている。この前断らなかったっけ、とでも言いたげで気が重くなる。

「これ、今年の地区大会にはゲストでアイドルが来るんだ。会場で無料ライブもやるらしいよ」

 例のビラを渡すと、瞳に光が差す。

「このアイドル、妹が好きなんだよ!教えてあげなきゃ、ありがとう」

 せっせとビラを畳んでポケットにしまう。横目で七ツ森くんを見ると、気まずそうに首を前に出していた。大丈夫、次の手は考えてある。

「しつこくてごめん。やっぱり諦められなくて……最後にひとつだけ、提案があるんだ」

 家から持ってきた紙袋を持ちあげ、中身を本多くんに見せる。

「僕とクイズで勝負してもらえませんか。僕が負けたら諦める。でも、勝ったらチームを組んでほしい」

 結局、これが一番わかりやすい。
 本多くんは紙袋の中の早押し機を見ると、ぱっと口を開き、目を閉じ、眉根にしわを寄せて唸った。悩んでいる間も口の端が上がっていて緊張感が薄い。
 長いシンキングタイムの後に、ようやく本多くんが答えた。

「いいよ。やろっか」


 
 昨晩から雨が降りつづき、外は灰色の雲に覆われている。人通りのない廊下は薄暗くて、空き教室の電気を点けると、そこだけが舞台の上みたいに眩しい。
 窓際の机を囲むように僕と本多くんと、立会人の七ツ森くんの三人で座る。当然、僕と本多くんが向かいあわせだ。
 机に早押し機を置く。ティッシュ箱ほどの大きさの本体から数本コードが伸び、その先にボタンの付いた子機がある。コードの絡まりを解こうとすると、プラスチックがからからと軽く擦れあう。

「この早押し機、ナオくんの?」
「うん。昔、一万円くらいで買ったんだ」

 本多くんが子機を一つ選んで押すと、『ポーン』と音が鳴り、ボタンに仕込まれたランプが光る。

「うんうん、いい押し心地だねっ」

 ピンポーン、と正解音を鳴らしてから、僕もボタンをひとつ手繰りよせ、押す。再び安っぽい電子音が鳴りひびく。
 クイズの前にはボタンの動作確認をするのがお約束だ。神聖な儀式のようで背筋が伸びる。

「ねね、ルールはどうする?」
「うーん……ゴマルニバツにしようか」

 いいね!と本多くんが声を弾ませる。傍らで紙袋から適当なファイルを一冊取りだし、七ツ森くんに渡す。

「七ツ森くんは問題を読んでもらえないかな」
「OK。普通に読めばいい?」
「できれば読む前に毎回『問題』って言ってもらえると助かる」
「リョーカイ」
「僕らのどっちかがボタンを押すとランプが付くから、正解のときはこっちを、不正解のときはこっちを押してほしい」

 親機についたスイッチを操作し、ピンポーン、ブー、と実際に鳴らして伝える。七ツ森くんは機械が得意なのか、すぐに使い方を覚えてくれた。

「エー、じゃ、読みます」

 心なしか硬い声色。呼吸を止め、耳を澄ます。
 柔らかな雨音と、前方からほのかな殺気。

「問題。『なぜや――』」

 反射で右手を引く。

『ポーン』

 例の音が鳴り、手元を覗く。うん、僕のランプが光ってる。

「ジョージ・マロリー」
「は?」

 七ツ森くんは片眉を上げ、それから問題集へ再び目を落とし、口を歪める。

「え、正解……

 ピンポーン、と遅れて音を鳴らす。

「『なぜ山に登るのか』という質問に対し『そこに山があるからだ』と答えた、世界で初めてエベレストに登頂したとされているイギリスの登山家は誰でしょう……って問題でした」

 咳払いをして、再び七ツ森くんが問題を読む。

「そんじゃ、次……問題。『フランス語で「いなづm――」』」
『ポーン』

 再び僕のランプが点く。

「エクレア」

 戸惑いつつ、七ツ森くんがピンポンを押す。

「エー……『フランス語で「稲妻」という意味を持つ、細長いシュークリームにチョコレートをかけたデザートは何でしょう』……でした」

 ぎっ、と椅子が動く。本多くんが前のめりになり、ボタンに覆いかぶさる。

「問題。『「国境の長いt――」』」

 二人同時に動き、ボタンをはじく。電子音が鳴るとともに机がガタンと揺れ、七ツ森くんが小さく仰けぞる。ランプは、僕のは光っていない。本多くんが顔を上げる。

「雪国っ!」
「マジかよ……

 引き気味に七ツ森くんがピンポンを鳴らす。

「やった!」

 向かいで本多くんがバンザイし、目が合うとニッと口角を上げる。僕もうなずいて、ボタンに手を置きなおす。

「ハイ、次の問題。『世界三大珍獣と言えば、ジャイアントパンダ、オ――』」

 バン!と前から叩くような音。でも解答権は僕のものだ。

「コビトカバ!」
「うわーっ!それオレが答えたかった」

 本多くんがボタンをかちかちと押す。

「ダーホン、ウルサイ。あとボタンが壊れそう。オーナミのだろ?」
「だー、ごめん。夢中になって……大丈夫?」
「平気だよ。ボタンは僕も強く押しちゃうし」

 ため息をつきながら七ツ森くんが正解音を鳴らす。

「ならいいけど。次の問題行くぞ」

 本多くんが大きく開いたワイシャツの襟をぐっと寄せて汗を拭う。僕も首元から湯気が立っているみたいだ。七ツ森くんがファイルをめくる。

「問題――

□□□

 キャップをひねると、シュッと二酸化炭素が逃げる。きつめの炭酸がのどの奥で弾けて、思わずかはー、と長い息が漏れる。我ながらおじさんくさい。隣からハハッと低めの笑い声がする。

「オーナミ、おっさんじゃん」
「サイダーが染みわたって、つい……
「えー!オレもオレも」

 本多くんが腰を手にスポーツドリンクをごくごく煽り、くーっと声をあげる。

「うんうんっ。勝負のあとの一杯はカクベツだね!」
「フロあがりかよ」

 渡り廊下、自販機の前で笑いあう。いつの間にか雨は上がっていて、クラスメイト越しに鮮やかな青空が広がっている。



 結局、クイズはあっさり僕が勝ってしまった。
 ゴマルニバツ――五問正解で勝利、二問誤答で失格というルールで、本多くんにほとんど解答権を渡さないまま僕が答えつづけたのだ。

「だーっ、やっぱり負けちゃった。でもわかったでしょ、オレじゃ役に立たないって。正直、早押しって苦手なんだよ。いっぱい答えの可能性があるのに、全ッ然絞り切れないんだ」

 決着がつくと、頭を掻きながら本多くんが言った。

「なあ、ちょっと疑問なんだけど」

 七ツ森くんが気まずそうに問題集を差しだす。

「オーナミってこのファイル全部暗記してんの?俺、ランダムに問題選んだんだけど……ほとんど読んでねえのに正解してるのもあったから、さすがにチートっつか、なんつーか」

 言いたいことはわかる。疑念を晴らすために解説する。

「さっきのは全部、クイズによく出てくるお約束みたいな問題で……百人一首の決まり字って伝わる?最初の何文字か聞いただけで、答えがこれだって確定できちゃうものなんだ。まあ、絶対そうとは限らないんだけど。それで……本多くんは博識だから、人よりも答えを確定するのに時間がかかっちゃうのかな。僕が反射で押す問題も、自分の脳内でちゃんと検索して、最後のにヒットするまで待つ、みたいな」
「うんうん、そんな感じ。ナオくんは『お約束』を嗅ぎわけられるくらい、クイズをいっぱいやってきたんだね」

 僕に合わせて本多くんもフォローしてくれる。

「ナルホド……。アイテムがあるほど、その日に一番合うコーデが決めらんない、みたいな感じか」

 七ツ森くんは納得したようにつぶやくと、うなだれた。

「つーか、俺限界。クイズ読みすぎて喉カラカラ」



 そんなわけで僕らはジュースを求めて教室を出た。
 濡れたアスファルトのむっとしたにおいを風がさらって、木々とベタついた髪を揺らす。

「で、どーすんの。クイズ、オーナミが勝ったけど」

 レモンティーですっかり回復した七ツ森くんが切りだす。
 本多くんが「そうだった!」とペットボトルのキャップを締める間に、僕はなるべく自然な表情をつくる。

「ナオくん。オレ、高校生アンサーに出てもいいんだ。楽しそうだし、気になってる。でも、あの大会って簡単めな早押しがメインだよね?さっきのでわかったと思うけど、一緒に出ても期待に応えられないと思う」
「もしかして、それでこの前は断ったの?」
「そそっ。君をガッカリさせたくなかったんだ」

 カッコ悪いでしょ、と眉を下げて笑う。同級生の大人びたしぐさを前に、自分の幼稚さが浮きぼりになった気がする。

「僕は……出るからには勝ちたいって思ってる。ずっと憧れてた番組だし、今年が最後のチャンスだから、なおさら」

 のどがきゅっと狭くなる。
 もしかしたら、僕は心のどこかで本多くんがいれば全国に行ける、いや、連れて行ってもらえるなんて都合の良いことを考えていたのかもしれない。
 なんて失礼なんだろう。本多くんにも、必死に知識を詰めこんでいた僕自身にも。

「だけど、それ以上に僕は本多くんとクイズがしたいんだ。もっと一緒に、楽しくクイズがしたい」

 まっすぐ本多くんを見る。
 問題が読まれる前の張りつめた空気。体を走る電流。正解音が聞こえた瞬間のドーパミン。
 僕たちはクイズが好きなんだ。

「それに結構いいチームになると思うんだ。ほら、僕が簡単な問題をスピードでとって、本多くんが難問をきっちり拾う。役割分担ができてこその団体戦だよ」

 そこまで言って口を閉じる。あとは本多くん次第だ。これで断られても、もう後悔はない。

「団体戦かー……

 転がすように本多くんがつぶやき、胸に手を当てる。

「わかった。オレ、出るよ」

 きっぱりとした口調。瞳は僕を見据えている。本多くんの大きな手のひらがこちらに向けて伸ばされた。咄嗟に声が出ない。

「ほ、ほんとに?」
「うん。君ともっとクイズがしてみたくなった。それにさ、オレって部活入ったことなくて誰かと一緒にってあんまりやってこなかったんだよね。けどさ、高校最後にそういうのもいいかなって思ったんだ」

 本多くんが笑顔ではきはきと答える。僕は震えを押さえながら、差しだされた手を取る。

「ありがとう……これからよろしく」

 お腹の底から熱が込みあげる。本多くんは「うんうん、こちらこそよろしく!」と握った手を左右に振ってみせた。

「なんか、イイな。青春って感じ」

 ずっと黙っていた七ツ森くんが声を出す。一歩引いた位置から僕たちをニヤニヤ、保護者みたいに眺めていたようだ。急に体の芯がこそばゆくなる。
 本多くんは全く気にせずに、むしろひらめいたように手を打った。

「そうだ!ねね、ミーくんも出ようよ!ミーくんもこういう経験、ないでしょ?」
「ハ!?俺!?」

 晴天の霹靂、と言わんばかりに七ツ森くんは眉を釣りあげ、視線で僕に助けを求めた。

「ごめん。実は僕も三人目は七ツ森くんがいいなって思ってたんだ」

 申し訳ない、と思いつつ告げる。僕の裏切りに七ツ森くんはいよいよ固まってしまった。絶望、と顔に書いてある。反対に、本多くんは「君も?やっぱり!」なんて嬉しそうに飛びまわっている。

「ちょ……俺は無理。マジ無理だから勘弁して!」

 七ツ森くんが珍しく声を張りあげるけど、誰も聞いちゃいない。
 手のなかのペットボトルが汗を滴らせ、コンクリートに跡を残す。
 もうすぐ、僕たちの夏がやってくる。