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イーシスの児
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イーシスの児 プロローグ
はじまりの、
レーゾンデ コーリング
黒聖の国の頂点に位置する不動の天体___太陽は燦々と輝きカーテンの隙間から室内を照らす。時刻は大体午前7時を過ぎたころ、4月上旬新たに新学期を迎えるこの時期は春休み明けということもあってかいつも以上に少女を怠惰にさせる。
そろそろ起床しなければ学校に遅れてしまう時間だが魔法少女になり早2年、小学生としても2年生へ進級したトコタは未だに惰眠を貪っていた。「もう7歳になったのだからいい加減ひとりで起きなさい」と言いながら毎朝起こしに来るママも夜勤明けで呼びに来る様子はなく、誰も文句をいわないならまだ寝ていても良いか
……
と寝惚けた頭のまま夢の中へ戻ろうとすると隣からギイギイと目覚まし代わりの耳障りな音が鳴り響く。五歳の誕生日を迎えた日、突如現れた''それ''は今やそこにいるのが当たり前となり、遂には己の保護者面をする様にまでなってしまった。煩わしい同居人
………
ただし人ではないが、の姿が見える。
「うるさいなぁ
……
起きるってば
…
」
成長期の少女である為いくら寝ても足りるわけが無く、本当は「もっと寝ていた〜い」と文句を言ってやりたかったが、これ以上このうるさく鳴くかめいちを放っておいてはきっとママを起こしてしまうので仕方なく意識と身体を強引に叩き起こしリビングへ向かうことにした。平日の朝は憂鬱だ、早起きしなければならないし、何より料理下手のママのご飯が待っているから。
さて、作り置きのご飯をなんとか食べ終え。急いで歯を磨いたら、制服に着替えて学校に向かう準備は万全だ。忘れ物があったとしてもかめいちが何とかしてくれるから問題はないだろう。
「まま、いってきまーす~!!」
「あ、そうだ 靴はまた隠しておかなきゃ」
そう言い残しトコタは学校へと向かった。今日も一日平和な日々を過ごすのだと疑わずに。
家から学校へ向かうための道はいくつか存在し、トコタは駅までもっとも近道な裏路地を通るルートを使うことが多い。その裏路地は太陽が登っている時間だというのに暗く、目を凝らさないと近くのものすら見ることはできないほど。当然正規の通学路ではなく、本来なら使用を禁止されている危険なルートであるのだが、その忠告を7歳の子供が聞き入れるはずもなくトコタはずっとを使い続けていた。周囲をキョロキョロと見渡しながら進み、後少しで駅まで辿り着ける所まで来たはずだったのに
突然暗闇から現れた黒いソレはトコタの胴体を真っ二つに切り裂き真っ赤な液体でその身を染めていく。
「え、」
「、ぅして いま ここに」
本来ならばこの時間にいるはずのない敵の存在が虚ろに染まり行くトコタの目に映った。昨夜警備をしていた魔法少女達が逃したものがこの裏路地に逃げ込んだのだろうか、よくみると鳥のような形をしている。どうやらそれまでは影と一体化していたようで、お供の魔法生物でも察知出来なかったらしい。トコタの身体を切り裂いた嘴を使って丁寧に自分の翼を整えていた。こんな状態で助けを呼べるわけもなく、このまま死んじゃうのかなぁとぼんやり考えながら最期の望みを掛けるようにかめいちに手を伸ばしかけたその時、
「見つけました 昨夜逃した敵と同じ形です 」
「ヒメちゃん先輩、シャンパンお願いします」
「ああ、任せてくれ」
「遂に僕達の練習の成果を見せる時が来たみたいだねっ、と」
上空から空気を切り裂くように現れたモノクロの魔法少女__ユララとユウマは返り血にまみれた敵に向かって素早くボルドー形のボトルを投げつける。ボトルは巨体の皮膚を通り抜けていき、ユララが発した「解除」の一声によって数秒も経たないうちに悶え苦しみ始めた。
「とどめはお姫様、君に任せても?」
「はい、任されました。ユズ ナイフを貸してください」
コウモリの姿をした魔法生物からナイフを受け取ったユララは先ほどと同じように固有能力"幽霊ごっこ"を使い、荒れ狂う敵の核に向けて投げ込んだ。刃は見事に核を貫いたようで、暴れていた敵はボロボロと形が崩れて行き、破片だけを残して姿を消した。トコタの意識も自らの上部で消えた敵を見届けたのを最後に途切れてしまった。
・ ・ ・
「」
「ー?」
「 」
・ ・
「~ぃ
…
おーい」
「聞こえてる~??」
「ぅん
……
」
「あっ反応あった! ヒメちゃんが治してもなかなか起きないんだからぁ〜心配したんだからね!」
「トコタちゃん、起きました?身体は大丈夫ですか?さっきの傷はヒメちゃん先輩の魔法でなんとか塞げましたが
……
」
ぼやけた視界の先には自分を心配そうな顔で覗き込む2人の少女の姿があった。かめいちが場所を伝えてくれたのだろうか、どうやら間一髪のところで助けられたようで腹部から漏れ出ていた内臓もツルツルとした白い肌の中に戻され綺麗に修復されている。
「うーん
……
頭がぐらぐらする」
「貧血ですかね
…
とりあえずここは暗くて危険なのでもう少し落ち着いたら学校に向かいましょうか。」
「賛成~こんな陰気くさいところにいたらヒメちゃん達にも移っちゃう」
「それにトコタちゃんがこーんな路地にいた理由も聞かなきゃだしね、もししょーもない理由だったら叱りつけてやるんだから!!」
学校に着いたらきっと、いや、絶対叱られてしまうだろう一難去ってまた一難。自分の過失が原因とはいえヒメとユララからの説教を受ける未来を想像し、ちょっとの反省と諦めの気持ちを抱いて大人しくヒメの背中に引っ付いて学校へ向かうのだった。
・ ・ ・
学校には様々な設備が整えられており、図書室もその内の一つである。幼い子供から自立した学生まで幅広い年代を収容する空間としての役割を果たすべく、ここ、図書室も存在しており、本棚には絵本から小難しい自己啓発本まできちんとジャンル分けされた本達が棚一面に並んでいた。それらの隙間を縫うように配置されている長机には本が山積みにされているからか、いくつもの谷が形成されていた。その中心部には車椅子に座った少女と少女を見守る青鷺の影が一つ。長い間ページを捲る音だけが響いていたが、新たにパンプスがカーペットを叩く音が遠くから混じった。
ティアの隣に立ち足を止めた少女_____ハディラは楽しげな表情を浮かべると、穏やかな口調で話し始める。
「ごきげんようティアさん。元気にしていたかしら?」
「確か君は
……
アザリー君だったな」
「ふふっ覚えていてくれて嬉しいわ」
「君とここで会うのは2回目だ、今日も図鑑を探しにきたのか?」
「いいえ、今日は絵本を探しにきたの、といってもここにあるものは大体読んでしまったのだけど
…
何かオススメはあるかしら」
その問いに対し、ティアは寸刻考えた後顔を上げ答える。
「そうだな、絵本の類いはあまり詳しくはないが、たしか向こうに新刊がまとまっていたから新しい絵本であればそちらにあったはずだ」
「あら、それは知らなかったわ! 以前もだったけど図書室のことはあなたに聞くのが一番ね。ありがとうティアさん」
ハディラが喜びと感謝を隠すことなく伝えると、ティアは少しばかりの気恥ずかしさを覚える、幾ら知識を付けようとも齢14歳の少女。素直に感情を受け取ることはまだ難しいのだ。
「べ、別に僕が持ちうる知識がたまたまアザリー君の求める知識と合致しただけだ!わざわざ感謝されるほどのことはしていない」
「それでも教えてくれたことが嬉しいの、ねえ、もしよろしければ今度一緒にお茶会をしない?あなたのことをもっと知りたいの」
「
………
お茶会よりも勉強会の方が好ましいが
…
今回は君に付き合ってあげよう」
仕方ない、といった風に装っているが肯定的な態度を見せるティアの様子にハディラは微笑みを浮かべると早速本を探しに行きましょうかと軽く会釈をしながら目的の場所へ歩みを進める。読書の邪魔をしてしまわないように、それでいて彼女ともっと仲良くなれるように、今日は隣に座って本を読むことにしよう。
・ ・ ・
「ふぁああ
………
眠い
………………
ほんとにこっちであってるの
…
?」
「あってる!こっち こっち!!」
春の夕は薄い色合いの青と赤のグラデーションが天を覆い地上を包む。天の魔法少女達はあの空の先に手が届くのだろうか、淡い色合いともち米みたいな雲の形が桜餅みたいで食べたら美味しそうだ。せっかく天の魔法少女の元へ行くのだからこのプリントを届けに行く時に聞いてみるのも良いかもしれない。
「うーん、あ あの家?見るからにって感じ」
「ここ!ユウカいる?いる?」
「ピンポンあるし呼んだら誰か出てくるんじゃないかな」
水の魔法少女であるポポとエメリーがハヅキ家を訪れることになったきっかけは数時間前に遡る。学校が始まったというのに学校に来ないままでいるユウカに大事なお知らせが書かれたプリントを渡すべく、誰かがハヅキ家に向かわねばならなかったのだが
……………
ユウカはあまりにも友人がいなかった。そう、いなかったのだ。クラスメイトらはだれも家の場所を知らず、わざわざ届けに行くほど仲がいいというわけでも無い。何なら怖い人達が出入りしているともっぱらの噂が流れている為例え知っていたとしても寄りつきたく無い人間がその場の大半を締めていた。そこで他学年ではあったが、遊びに行った経験のあるポポとそれに興味を示したエメリーが向かう事となり、現在に至る。
(え!?えぇぇえぇ
……………
なんか、誰か家の前にいるんですけど
……
)
といってもその事情を本人が知る事はなく、少々パニック状態になりながらもインターホンから見える映像を眺めていた。自室で引きこもっていたら何も気付かずにやり過ごせたのに運悪く玄関付近にいたのだ、いつものように人に任せていればよかった
……
と後悔してももう遅い。
「む、無理
……
学校の人とかうちに来ないでほしい」
(しかもあれエメリーさんとポポさんじゃない?、なんで2人でうちに来たの
…
?全然分かんない、私何か悪い事しちゃったのかな、学校にも行ってないし
……
だからかも)
(よし、ここは体調不良ってことにしてお兄さんに出てもらおう。うん、きっとそれがいい)
「誰か-------!!!!!!!!!!」
…………………………………………………
結果としてハヅキが2人の元へ出る事はなく、呼び寄せた“お兄さん”に対応してもらうことで何とかプリントをもらうことができた。その事に安心していたが、せっかくここまで来てくれたのだから自分の口からお礼くらいいえばよかったと今度はまた別の後悔に襲われて沈んだ気持ちになりながら自室へと戻るのであった。
・・・
「もしもし〜ヤヨヅカちゃん?」
「もしもし
…
えっと、ちゃんときこえてるよ」
わたしのことを気にかけてくれる大切なお友達との楽しい電話。話す内容は最近は敵が多いことだったり、次の警備の話だったり、わたしとは別世界の日常のお話だったり、
カスミちゃんから色んな話を聞いていると今日はトコタちゃんが敵に襲われて大怪我を負ったらしくてとても動揺してしまった。あの子のことはちょっぴり怖いけれど、わたしの友達だから絶対に居なくならないでほしい。ぐるぐると頭の中を回る嫌な妄想を掻き消すように、カスミちゃんはトコタちゃんが元気だったと教えてくれて、不安な気持ちは消えないけれど少しだけ気が和らいだ気がした。これ以上カスミちゃんに心配をかけないよう名残惜しいけれど電話を切り、下を見つめると昔身に付けていたシュシュが見える。
「
……
きょうはもうねよっか」
電話中膝に乗せていた自身の魔法生物を腕に囲い、埃と本が積み上がったわたしだけのお城の中で明日を想って目を閉じた。大変な事も多いけれど警備中わたしは本当の姿に戻ることができるのだからきっといつもより頑張れる、カスミちゃんにも褒めてもらえるかな
…
?
ヤヨヅカは自身が認めてもらえる未来を、誰もが気付かない世界を空想し眠りについた。夢の中ではもっと鮮明にみることができるだろう。
そうして少女達の日常は過ぎ、また次の朝がやってくる。平穏を守る為、そして使命を果たすその時まで
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