溶けかけ。
2024-08-15 21:04:44
841文字
Public ほぼ日刊
 

全ては水底へ

ねえ、一緒に堕ちてくれる?

「ねえ、ヌヴィレット。僕と一緒に天理を殺そうよ」

 フリーナが手を差し出す。濁った瞳には何も映らない。諭示機は止まり、フォンテーヌは水底に沈んだ。残ったのは不完全な龍たる私と神の呪いで死ねなくなったフリーナとメリュジーヌだけだ。

「フリーナ殿……

「ああ、ごめん。キミはそんなことしないよね」

 胎海の混ざった水をかき混ぜる。その度に彼女の手は溶け、再構成を繰り返す。

 にこにこにこ、彼女はこんな風に笑う女性ひとではなかった。本来のフリーナは胎海が満ちた時に溶けて消えてしまったのだろう――この国の民と一緒に。ここにいるのは、そんな彼女の残り香だ。

「フリーナ……

 この国の真実を暴いた探偵は呆然とその様子を見ている。旅人は優秀だった――否、優秀過ぎたのだ。

……君の望むものはここにはない。立ち去るがいい」

 ヌヴィレットは壊れたフリーナを抱きしめる。彼女は何がおかしいのか、彼の腕の中できゃきゃっと幼い子供のようにはしゃいでいる。

 あと少し――あと少し、答え合わせが遅ければフォカロルスは消えず、フリーナは人に戻れたかもしれなかったのに。

 そう思っても、もう遅い。

 神座を壊すための装置は未完成で、フォカロルスは天理によって処された。遺されたフリーナは呪いで死ぬことすら出来ずに壊れてしまった。

「ごめん、ごめんなさい……

 旅人の咽び泣く声が聞こえる。この国の結末はバッドエンドだ。

「いや……君は悪くない……ただ、やるべきことをしたまでだ」

 フリーナを抱きかかえ、別の場所へと移動する。旅人には悪いが、今は顔を合わせたくなかった。



「ヌヴィレット、考えてくれた?」

 元、パレ・メルモニアの屋上でフリーナが微笑んで手の甲を差し出す。ヌヴィレットは跪いてその手を取って口づけた。

「あぁ……君の望むままに―― yes, your majesty.」



 その日、フォンテーヌの公平と正義は永遠に失われた。