鬼躯(おにく)
2024-08-15 19:55:02
965文字
Public
 

妖ノ爪紅

設定:にじさんじ妖怪万化 
時空:パラレル 
主要登場人物:👻🔪・💡 
要注意描写:── 
ジャンル:お仕事コメディ 
あらすじ:仕事の腕は確かだが接客が足を引っ張り客足の伸びないネイリスト👻🔪の元に久しぶりの施術予約が入る 






ネイルテーブルに載せられていたのは、猫とも犬ともつかない獣の前肢だった。

……

無言で目頭を押さえる。
独立して一年。
コミュ障を拗らせて爪ばかり見てきたが、今日初めて客の顔が見たいと思った。
なんだっけな、昔こういう童話を読んだ気がするわ。

再度ネイルテーブルに目をやる。
今度は人間の手の甲が見えた。

「すみません間違えました」
「ああ、大丈夫です」

我ながらよく分からない応答をし、脳内を仕事モードに切り替えてざっと現状を確かめる。
ネイルサロンは初めてと言っていたが、一言で言い表すなら野生的な爪をしていた。
おおよそネイルケアとは無縁の人生でした!とむしろ誇らしげですらある。
それはまあ、別段珍しいケースでもない。
爪を整えることは生きていく上であまり必要のない、謂わば贅沢な行為。
通常通りまずはプレパレーションから。
長く伸びた爪の形を整え、
ささくれや角質をケアし、
甘爪処理を施し、
ジェルネイルのため軽く表面を傷付けて、
余計な油分を取り除く。
一旦休憩を挟んで、ジェルネイル施術に取り掛かる。
とはいえ、ここからは塗っては乾かすの繰り返し。
最後にツヤのあるトップジェルで覆われ、濃紺のネイルが輝きを放つ。

「うわぁ」

嬉しそうに高揚する声が聞こえた。
その声を聞く度に釣られて嬉しくなるのがこの仕事。
にやけそうな気持ちを隠して冷静を装い、バリ残りの確認と指先のオイルケアまで抜かりなく済ませてゆく。




お見送りの後の達成感に浸っていたが、重要な見落としに気付き慌ててカルトンの上を改めた。

「木の葉じゃないよな?」

思わず透かしを確認する。
本物の紙幣だったことに一先ず安心するが、疑問は残った。
不思議な客だったな。









山奥の住処に戻った雷獣は、ピカピカの爪を嬉しそうに何度も見ていた。

「なんやそれ」
「へへ、良いでしょ」
「きれいやな」
「ネイルサロンってとこでやってもらったんだ」
「ニンゲンとしゃべったんか?」
「うん。でもそんなに話し掛けてこなかったよ。
 オレがうっかり雷獣の前足出しても驚かなかったし」
「へえ」





ネットには載らない口コミを聞き付けて、以降様々な人ならざる客がサロンへやって来るようになるのは、また別の話。