ユナユナ
2024-08-15 17:09:49
1101文字
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あいのかたち【赤黛】

赤黛ワンライのお題【抱き寄せる】

赤司の愛の形の話。

 赤司にとって愛は、母の腕の形をしていた。ほっそりとした両腕がそっと赤司を抱き寄せて、「征十郎」と母が甘やかな声で呼ぶあの瞬間こそが、赤司にとっての愛だった。
 だと、言うのに。
 赤司は不満げに黛を見る。この男はこともあろうかそれを「熱い」の一言で切って捨てたのである。確かに室内は暖房がかけられていて暖かいが、ちょっとくっついただけで「熱い」と引き剥がすのはどうなのだろう。
 そもそも彼はさっきから赤司に視線を向けようともしない。今日発売の雑誌だか何だか知らないが、初めてのおうちデートくらいはこちらを優先してくれても、と思うのは赤司のエゴなのだろうか。
 そんなことを考えていると、不意に黛が立ち上がった。どうやらキッチンに向かうらしい。赤司は少し考えてから、大人しく座り直すことにした。黛の部屋のキッチンは、高身長の男二人が並び立つには少し狭いので。
 チン、とレンジが鳴った。レンジから何かを取り出す音と、カチャカチャと掻き回す音が聞こえる。恐らくはスプーンをシンクに置いた音がして、それから少し遅れて黛がキッチンから戻ってきた。手には赤いマグカップが握られている。
「ほら。これ飲んで大人しくしてろ」
 黛はそう言って、赤司にマグカップを手渡した。ふわりと漂う甘い香りに誘われてマグカップの中を覗き込めば、できたてのココアがゆらゆらと揺れている。
……ありがとうございます」
 礼を言ってから、舌をやけどしないようにゆっくりとココアを口に入れる。だが口の中に入ってきたのは、赤司が予想していたよりもずっと低い温度のココアだった。赤司が猫舌なのを知っていて、あえてぬるめに作ってくれたのだろうか。
 赤司はなんだかとても温かくなってしまった。今すぐにでも黛のことを抱きしめたいが、それをしたらきっともっと熱くなってしまう。
 ──もしかして、彼もそうだったのだろうか。
 赤司は再び雑誌に視線を落とす黛を見る。黛もずっと温かかったから、熱いと言ったのだろうか。よくよく見てみれば、黛の丸い耳が僅かに赤い。
……黛さん」
 たまらなくなって呼び掛ける。黛は雑誌から目を離さないまま「何」とややぶっきらぼうに言った。
「抱きしめてもいいですか。オレも熱いので、ちょっとだけ」
 それに対する返事はなかったけれど、黛が雑誌を閉じたので、きっと成功したのだろう。赤司は近付いてくる黛をそっと抱き寄せて、黛さん、と甘やかな声で彼の名を呼ぶ。黛は何も言わなかったけれど、離れようともしなかった。それだけで良かった。

 赤司の愛は母の腕の形をしていた。今はたぶん、ぬるいココアの形をしている。