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匣舟
2024-08-14 14:37:31
5453文字
Public
WB
勝負の行方はいかに
名前を呼び合うかめさくを全面的に出したかったのですが、なぜかオセロの方へと話が進んでしまいその話になってしまいました。何故?
※単行本未収録の話が少しだけあります。注意してください。
「あ、」
ボウフウリンと獅子頭連のシマの真ん中にあるショッピングモールに今夜お泊まりするために必要なものを揃えに恋人である十亀と一緒に来ていた桜は、とあるコーナーの一角で足を止めた。手を繋いでいるから当然、桜が止まれば十亀も足を止めるわけで、いきなり立ち止まった桜に、なに?どうしたのぉ〜?と声を掛けていた。
「あれ。」
桜が指を指したコーナーには将棋やトランプ、そしてボードゲームやカードゲームなど数々の卓上ゲームが陳列されている。もしかして何か欲しいのかもしれないなぁ。と思った十亀は、なにか気になるものでもあったぁ?と聞いてみると、桜はもう一度あれだ。と人差し指をそのものへ指した。
桜の指が示されている方向へゆっくりと顔を向けてみると、そこにあったのはオセロだった。
(よりにもよってなんでオセロなのぉ
…
?)
驚いて二度見をしてしまった十亀だったが、桜が示しているのはオセロで間違いないようだった。あの日のことを思い出してしまい、少し苦い顔をする十亀とは対称的に桜は少しソワソワした顔をしている。そんな桜の表情も露知らず、十亀は記憶の奥底で眠っていた記憶が徐々に蘇っていた。
オセロと言って思い浮かぶのは、あの日のこと。あの日というのは、桜と十亀が初めて出会った日だ。
初対面にしては最悪な出会いで、しかも桜がかいっとう嫌いな弱いものいじめと彼の容姿を揶揄したのだからこのまま嫌われてもおかしくなかっただろうに、彼は喧嘩をしている中で信仰で雁字搦めになって、最早なにをしているのか、何を守っているのか分からない自分に不器用ながらも喧嘩で手を差し伸べてくれたのである。
あの時のことは今でも鮮明に覚えているが、初対面の時のことは十亀にとっては記憶から消したいほどの苦い思い出であり、記憶の片隅に消し去っていた苦い思い出を桜という張本人から掘り起こされてしまった十亀はいろんな感情が混ざり合って結果、過去の自分がしでかしてしまったことに対して自己嫌悪と葛藤している十亀は、桜がなあ、おい。おーい。と自身を呼んでいることに気づいてない。
「おいってば
…
っふ、なんだよその顔。」
ずっと袖を掴んで十亀を呼んでいた桜だったがこれじゃ埒が明かないと十亀の顔を見て呼ぼうと彼の方に顔を向けると、やっとひとりで百面相をしている十亀に気がつく。十亀の顔を見てふにゃり、と笑う桜に人の顔を見て笑うなんてひどいなぁ。と同じように十亀もふにゃりと笑った。
「ひとりでいろんな顔してんのが悪い」
「だってぇ
…
」
その顔を俺にさせてたのはキミがオセロを指さしたからなんだけどなぁ。と言いそうになってしまったが、慌てて十亀はキュッと口を閉じた。危ない。記憶の片隅に抹消していたあの最悪な出来事をまた呼び起こしてしまう所だったと、十亀はひとりでふぅ。と息を吐く。
「なんだよ、勿体ぶんなよ」
「なんでもないよぉ〜」
「んなことあるか!」
十亀がキュッと口を閉じてどうして百面相をしていたのかを言わなかったのが気に食わないのか桜は両頬をぷくっと膨らませて俺は怒っている!という感情を出して、十亀に反撃をし始める。
「
…
隠し事はなしなんじゃなかったのかよ?」
「
…
ヴッ」
お前がそう言ったんだぞ。忘れたのか?と桜本人は最大限怒っていることをこれでも全面に出しているつもりなのだが、十亀目線で桜を見てみると上目遣いでこっちを畳み掛けようとしているようにしか見えない。実際のところ、もう十亀はその表情に畳みかけられようとしている。
話を戻すが、隠し事をするのをやめようと約束したのは桜が怪我や体調が悪いことを隠すことがよくあったからだった。
そもそも、桜と十亀は通っている高校も違えば所属しているチームも違うため、何時どこで何があったかなど、本人たちが話に出さなければ分からない。
特に桜は、今までの境遇から怪我や体調が悪いことを隠してしまうという悪い癖があった。
それを知ったのは付き合い始めてから、そういう雰囲気になった時、不意に桜に触れようとすると呻き声を挙げられたりしたことがあって、ばっと服をめくると打撲痕などを発見したことがあった十亀。
これ、なにやったのぉ?といろんな感情を抑えながら桜に聞いて、それでやっと他チームとの喧嘩があって怪我をしてしまったと度々明かされることがあり、これからはそういうのもちゃんと言うこと!と一方的に桜に取り付けた約束を十亀はすっかり忘れていたし、まさか自分がそれを逆に言われるなど思っていなかった。
「なーあ、早く言えって。」
まだ周りに誰もいないことが不幸中の幸いというか、傍から見ればじゃれ合ってるバカップルにしか見えない。誰もいないことを盾にして桜はずいずいと十亀に無意識上目遣いをしながら近づいている。チョット、マッテクダサイ
…
という片言で喋る十亀のこともお構い無しだ。
「そんなに言いたくないことなのかよ
…
?」
「いや、そんなんじゃなくてぇ、なんていうのかな、」
隠し事をされて少し悲しそうな桜とは裏腹に十亀はこの心の内をどう伝えればいいのか混乱しているところだ。言ったところでこれは過去の自分がしでかしてしまった事だし、それで幻滅されても嫌だから本当は言いたくないのだけれど、桜が悲しむようなことはしたくないからなんて葛藤している。
先程までバカップルみたいな雰囲気を醸し出していたふたりは一転、別れる寸前のカップルみたいな雰囲気になってしまっている。これを見ている人が居たならば、きっと温度差が凄くて風邪を引いてしまうかもしれない。だが、周りには誰もいないのでこういった影響はないが。
「じ、じゃあ、幻滅しないで聞いてくれる
…
?」
本当は言いたくないけれど、どうしても桜を悲しませることが嫌だった十亀は葛藤しながらも心の内を桜に打ち明けることにした。
おずおずと桜を見つめる十亀に、桜はおう。と返す。
「あのね、さっき、オセロのこと指さしたじゃんかぁ、」
「おー、」
「
…
それで、その、初対面のことを思い出してぇ
…
。」
視線を逸らしながらそう発言する十亀を見て、桜はやっと彼がどうしてそんなにも隠し事をしたかったのかに気がついた。オセロと言って思い浮かぶのはあの出来事しかない。ああ、だからか。という納得と共に、桜は一つ笑みを零した。
「
…
っふはは、そんなことかよ、」
腹を抱えながら笑い出す桜に、十亀はなんだかひどく拍子抜けしてしまった。思ってた反応と違ったからだ。そんなに笑うことじゃないでしょうよ〜、こっちだって真剣に悩んでたのにさぁ〜。と少し不貞腐れてみると、そんなもん、知らねーもん。と桜が言った。
「まあ、確かにあれは傷ついたし、ムカついたぜ、オセロくん発言はな?」
「
…
ヴッ、」
「でも、お前は変わったろ、あれから。」
記憶から消したいほどのあの出来事を蒸し返され、しかも傷ついた発言を桜から受けてしまって十亀は大ダメージを負ってしまって自信をなくして下を向いてしまったが、桜が次に発言した一言でパッと反射的に顔を上げると、こちらを貫くように真っ直ぐ自身のことを見つめる桜の瞳と目があった。
「前のお前は俺の大っ嫌いなことばっかしてて、すっげぇダセェ奴だったけど、今はそんなことしねぇし、なにより、俺の名前をちゃんと呼んでくれてるだろ。なあ、」
オセロくんじゃなくて、ちゃんといつもみたいに俺の名前呼べよ。と桜が言ったので十亀はいつもみたいに反射的に彼の名前を紡いだ。
「は、るか」
彼の名前を呼ぶと、桜の花びらが綻ぶように綺麗に笑う姿が十亀の瞳に映る。
「ふは、顔真っ赤だな、条。」
十亀の顔を見ながら、してやったり。とでも言うように、にたりと笑った桜を見た十亀はズルズルと腑抜けたみたいにその場にしゃがみこんだ。あんな桜の笑顔を至近距離で向けられてしまったら自分だけでなく他の人だってこうなるだろう。まあ、こんな笑顔自分にしか向けて欲しくないが。
「
…
やっぱりはるかはかっこいいなぁ。」
自分に不器用ながらも喧嘩という名の対話で手を差し伸べてくれた時だって、自分や柊が二人がかりで戦っていても攻撃を凌ぐこおで精一杯だった棪堂のことも、一度は勝つことを諦めていたことはあったが、級友からの檄でなんとか立ち上がって一人で退けた桜。いつだって彼は出会った日から変わらずにかっこいいままだ。そう言うと、な、なんだよ!いきなりそんなこと
…
!と赤面する桜。そんなかっこいいところだけじゃなく、ちょっとのことで赤面するかわいいところも変わってないみたいだ。
「それじゃあ、オセロ買いますかねぇ〜。」
赤面する桜をずっと堪能していたかったが、流石にここにずっと立ち止まっている訳にも行かないので、桜が欲しがったオセロを棚から手に取りそそくさとレジに行ってお会計を済ませる。
途中、俺が欲しいって言ったんだし、俺が!と言っていた桜をなんとか俺に払わせて?と言い、レジ前で待ってて。と置いていったことに対して桜は納得いっていないみたいだったが、まあそれは年上としての矜恃というか、昔の自分がしでかしてしまったこととか色々あるので不貞腐れている桜には申し訳ないが、買わせていただいた。
「というか、なんであんなに色んなゲームの中でオセロが良かったのぉ?」
不貞腐れている桜の機嫌を取ろうと話をすり替える作戦を決行した十亀は、ずっと気になっていることを桜へと問いかけた。
最近のボードゲームは色んなものがあるし、カードゲームの種類だって凄まじいものだ。個性的なゲームから懐かしいもの、そして定番的なものまで揃うボードゲームコーナーの中から、どうしてただ白と黒をひっくり返して遊ぶオセロが桜の目に留まったのか十亀は疑問だった。
先程までそっぽを向いて十亀の方を見なかった桜が、あー、と少し顔を赤らめ、頬を掻きながら口を開く。
「
…
最近、クラスでオセロが流行ってんだよ、」
だから、いつの間にか口に出ちまってた。と少し照れながら発言する桜にちょびっとだけ嫉妬心が出てしまっている十亀はへぇ、そうなんだなぁ。とだけ返した。級友たちと桜が仲良くしているのはいい事だけれど、桜とのはじめてのオセロをする機会が取られたことに関しては恋人として面白くないのだ。
桜は、過ごしてきた環境のせいもあって普通の人が体験しているようなこともしてないことが多い。自分が体験しているようなことでも桜はしたことが無いから、桜のはじめてを一緒に体験できる瞬間を十亀は密かに楽しみにしていた。はじめての銭湯とか、マッサージ機だとか、 いちご狩りとか、大食いだとか。
色んな桜のはじめてを一緒に体験してきた十亀にとっては、ひとつの機会を奪われたことでさえ嫌なのである。でもまあ今回は桜の級友たちということで仕方なく引き下がってあげるしかないのだが。はじめてオセロをするはるか見たかったなぁ。絶対表情コロコロ変わって可愛いんだろうなぁ。
…
てことはその表情を級友たちに見せたってことかぁ、
…
ちょっと引き下がれなくなってきたなぁ
…
。なんて脳内で考えていると、だから、と桜が言葉を紡ぐ。
「
…
だから、じょうと、してみてぇって思って
……
。」
だめか
…
?と上目遣いで見つめてくる桜を見てしまったら、さっきまでの醜い嫉妬心はどこか彼方へと消え去ってしまった。こういうことを無意識で彼はしてくるから心臓に悪い。
「なら、お手並み拝見と行こうかぁ。」
クラスの子たちとやってるならそれなりには強いんだよねぇ?と少しだけ桜を煽ってみると、桜の顔が喧嘩をする前みたいなソワソワ感に包まれたのがわかった。まるで、あの喧嘩をしたときのようなギラギラした瞳をして。
「
…
言ってろ!俺は負けねーし。」
クラスメイトと実践を積んでいるせいか自分の実力に自信があるらしい桜は、十亀のことを負かそうとやる気満々だ。そんな桜に十亀はひとつ提案をすることにした。
「それなら、負けた方が勝った方のお願いとか聞くのはどう?」
「は?」
「だってぇ、桜は負けないんでしょお?」
そう言って桜のことをもう少しだけ煽ってみると、やってやろーじゃねえか!とこっちの煽りに乗ってきた桜。まあ、勝つかどうかは分からないけれど、勝てたら桜になにかお願いをすることができるんだしいいかぁ。と呑気に考える十亀。
途中銭湯へ行って、桜のオンボロアパートに到着すると、 すぐさまオセロが十亀の目の前へと置かれる。
「
…
勝負だ。」
桜のギラついた瞳に十亀はゾクゾクとしながら、お手柔らかにねぇ。と微笑む。両者とも勝ちだけをただ見つめながら、今、戦いの火蓋が切って落とされた。
「はるかぁ、そこしてもいいのぉ?」
「だーッ!うるせぇ!黙ってろ!」
「あーあ、そこ置いちゃ俺に角取られちゃうよぉ
…
?」
「
…
ふん、取られねーもん」
桐生にその戦法は教わったからな。と自慢げに喋る桜にふぅん、と無表情で返す十亀。抑えられていた彼の嫉妬心がふつふつと燃え上がる。色んな駆け引きをしながら対戦するふたり。さあどっちが勝ったのかは本人たちだけが知っている。
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