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溶けかけ。
2024-08-14 00:41:43
1954文字
Public
ほぼ日刊
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ただいま、おかえり
何らかの理由で囚われの身になったフリーナを助けに行くヌヴィレットのお話。
友情出演:クロリンデ
とある貴族の屋敷にて
――
「フリーナ殿に会わせてもらえないだろうか?」
ヌヴィレットがフリーナの夫に願い出る。
「ええ、構いませんよ。
――
おい、呼んでこい」
数分して、従者に連れられてフリーナが会場にやって来た。ヌヴィレットの記憶よりも些か窶れたように見えるが、この屋敷の者たちは気づいていないのだろう。その証拠に彼女の夫である男は饒舌にフリーナについて招待客に語って聞かせている。
「息災であっただろうか?」
「勿論だとも。キミは
――
少し寝不足かい」
ヌヴィレットに伸ばされた手が不自然に止まる。それから何事もなかったかのように下に降ろされた。
「僕はもう、戻らなくてはね。ごゆっくり、ヌヴィレット」
フリーナが淑女の笑みを浮かべてカーテシーをする。上げた顔がほんの少し苦しげに歪んだかと思えば、それは一瞬のことで。
彼女はドレスの裾を翻して、軽やかにその場を後にした。
考えるヌヴィレット。その隣にはクロリンデがいる。
「以前より、細くなられましたね」
ヌヴィレットも頷く。
「あぁ
……
」
そもそもこの結婚自体、仕組まれたものだった。男はフォンテーヌにとっては有用な人物で、商品の売買や流通に深く関わっている家の現当主である。ロシやその他の違法薬物の流通にも関わりがあるとは言われているが、最近まで明確な証拠を掴めていなかった。それどころか、こうしてフリーナまで掠め取られてしまっている。男にとって彼女は戦利品のようなものであり、ヌヴィレットたちにとっては人質のようなものだ。
「いかが致しますか?」
ヌヴィレットにクロリンデが問いかける。フリーナの一年の献身により、証拠は揃った。
「あのような顔をさせるくらいなら連れて帰ろう。摘発の予定が少しばかり早まってしまうが致し方ない」
ヌヴィレットが懐にある1枚の紙をクロリンデに見せる。中身は見ない。それが何かを知っているからだ。
「それがよろしいかと。
……
ナヴィアを含め、皆喜ぶでしょう」
クロリンデが愛用の銃を取り出すと、撃鉄を起こす。ヌヴィレットが歩き出すのと同時に背後で雷鳴が轟いた。
「みんなが元気そうで良かった
……
」
ベッドの上で膝を抱えて、先程のパーティーの様子を思い返しながら髪をかき上げる。伸びた髪が視界に入って鬱陶しい。
「誰か
……
」
助けて、と言いたい気持ちを押しつぶす。理由はどうあれ、あの男の妻になると決めたのは自分だ。だからこそ、弱音は吐けない。吐いてはいけない。
――
例え、夜が怖くとも。
「
……
?」
不意に聞こえた音に顔を上げる。音は鉄格子の嵌った窓から聞こえてきていた。
「ひっ
……
!」
鉄格子が揺れる。ここは2階だ。誰がこんなところまで入って来られるのだろうか? 夫である男はフリーナを逃さないためにわざわざバルコニーのないこの部屋を選んだというのに。
窓の向こうの人物は鉄格子が嵌まっていることに気付き、去っていく。
――
ように、思えた。
「フリーナ殿、夜分にすまない。私だ」
「ヌヴィレット
……
?」
何故、彼がここに? というフリーナの疑問を遮るようにヌヴィレットの声が届く。
「詳しい話は後でしよう
……
すまないが、窓の側から離れてくれないか?」
ヌヴィレットの指示通り窓の側から離れる。どう、と水の奔流が押し寄せて、窓も鉄格子も全てを押し流していった。
「はっ
……
」
月明かりに浮かぶのは大切な
――――
「フリーナ殿。長きに渡る務め、ご苦労であった。
……
君の帰りを待っている者たちがいる。無論、私もその一人だ」
ヌヴィレットが手を差し出す。
――
ああ、終わったんだ
……
フリーナの体から力が抜けて、床にぺたんと座りこむ。色違いの双眸からは大きな雫が止め処なく零れ落ちては頬を濡らす。
「う、あ
……
うわああああん
……
」
ヌヴィレットが部屋に降り立ち、この一年で更に華奢になってしまった身体を抱きしめる。
「
――
感謝する、フリーナ殿」
腕の中のフリーナは子どものように泣きじゃくり、しゃくりあげる。
「遅、いよ
……
僕、ずっと、待ってて
……
」
「あぁ
……
待たせてしまって悪かった
――
帰ろう。フォンテーヌ廷へ」
フリーナが頷いたのを確認してヌヴィレットが彼女を抱きかかえたまま立ち上がる。
「そういえば、まだ君に伝えていなかった言葉があった」
ヌヴィレットの言葉に首をかしげるフリーナ。彼はフリーナと目線を合わせると優しく微笑んだ。
「おかえり、フリーナ殿」
フリーナは瞠目したあと、目元を和らげ、彼の額に己の額を押し当てた。
「
――
ただいま、ヌヴィレット」
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