倉木
2024-08-13 21:27:18
2273文字
Public Rot
 

LD

Rot
季節外れにもほどがある


結局のところ空気の循環というのは外から繋がっているものだ。
ルートを辿ればどうあっても外での作業というのは発生してくる。
突如背筋を滑った水滴に悲鳴を上げる、どうやら溜まった結露が落ちてきたようだ。
しばらくそこを睨みつけるも意識のない悪戯に反応する程不毛なもことはないので溜息と共に苛つきを精一杯逃すことにした。
舞い上がった埃のせいでゴーグルの視界も悪くなり、忌々しくレンズの汚れを払う。

「あれ、まだやってんの?」

強風の隙間聞こえた呑気な声。
建物の間にある狭い空間、背後がうっすらと光った感覚にドナテロは振り返ることもなく溜息を吐いた。

「邪魔」

上から覗き込んでくる顔は視界を圧迫してきて、レンチの握ってない手でその顔を押しやった。
どことなく入るようになった隙間風を必要以上にミケランジェロが寒い寒いと言うから来てみれば、空気の出入り口が埃が詰まっていたというオチだった。
どうやったって劣化は進むものだけど最近は作っているものに夢中になってメンテナンスを怠っていたのはドナテロの過失だった。
天候の良くない今行う程緊急度が高いものには見えなかったので後日、とするつもりだったのに今は湿った壁に背をついて作業している羽目になっている。
よりによって父の部屋直結のダクトだったようでいつもはふんぞり返った態度のスプリンターが縋ってきたからだ。
久しぶりに向こうから声をかけてきた内容がこんなことだったことに不満はないわけじゃないけど、ラファエロの後押しもあってしょうがなく工具をそろえて外に出たのだ。
お陰でこんなコンディション最悪な場所に腰かけて作業することになったわけで。
助言したラファエロもこんな状態で作業するなんてきっと思ってもいないだろうが、その短絡さが腹を立てていた。

「えー、まだ何もしてないのに酷くない?」

呑気に声をかけてくるレオナルドもまた同罪だ。
だからって誰かに変わってもらおうものなら被害が大きくなることは目に見えていたので、ドナテロはこうしてできるだけ此処に過ごす時間を短縮させようと頑張る方に切り替えることにした。
その直後、一層吹きつけた北風でおおきなくしゃみが飛び出す。
ほんと、終わったら皆拍手喝采で迎えてくれなきゃ割に合わない。
ただし、今聞こえるのは背後で不満げな声だけでずっとひとりで喋り続けている。

「何ここ危なっ!なんでこんな所に作ったんだよ」

「そんな所だからバレないんだろ」

これ以上付き合ってる暇もないと再びゴーグルを装着する、一度外して拭いたお陰で多少視界は良くなった。
劣悪な環境にあるのに違いなく、好きで此処に長居をしたいわけじゃないからさっさと終わらせてしまいたい。
そんな心は突然頭上を包み込んだ感覚を予想できず、小さく悲鳴を上げて首を引っ込めた。
掴もうとした不躾な手はそれよりも早くぱっと離れ、両手で降参のポーズに変わる。
離れた手の代わり、頭全体を覆うふわふわとした感触は、毛糸の帽子のようだった。

「次、これ外さない?」

器用に洗濯紐の上に立ったレオナルドは、背中の装備をこつこつと叩く。
うまいこと自分の場所を確立したらしく、いつもの小馬鹿にした笑みを浮かべていた。
手に持っている同じ素材のものを見てなんとなく察したドナテロは、ちょっとバツが悪くて視線を目の前の埃溜まりに集中させた。
そういう親切心は心臓に悪いんだ。

「なんで?」

「寒いじゃん」

「温熱機能ついてるからずっとあったかいけど、レオと違って邪魔しないし」

事実そうだったし取り繕う理由もない。
しかしレオナルドからそれ以上言葉が返ってこず、ドナテロが彼を見ようとしたタイミングで光と共に気配が消えた。
煩いくらいの風の音がけが耳障りな静けさが戻って来る。
どうやら正論に言い返す言葉が思いつかなかったのかもしれない、嫌なことが続いた中でちょっとだけ気持ちが良い。
そういうことだと、自分に言い聞かせた。
別に急にいなくなって淋しいとか感じる方がおかしいのだし作業を再開するために再度レンチを握り直す。

「う、わ、っ!」

そして突然、足元がなくなり突然の浮遊感に襲われた。
ばたついた身体は誰かの手で支えられ、下からの光源は真下に見えるのは家のどこか。
若干薄暗いそこは、おそらくレオナルドの部屋近くの廊下だ。

「さっむ、早く終わらせよーぜ」

立てられた脚立のてっぺんにいるレオナルドは落下したドナテロを支え、ポータルとフィルター前の小さな段差へ再度腰かけさせた。
一見優しいように見えるけど、円状のワープゾーンがなけなしの腰かけスペースを3割ほど侵食していて目測見誤ったようにしか思えない。
お陰で座ってみても収まりが悪いし、腰に回ったレオナルドの手がなければそのままずり落ちてしまいそうだった。

「意味あるの?これ」

満足そうに笑うレオナルドは特に応えず、そのまま腹甲に頬を押し付けた。
後ろに回った手が悪戯に尾を掠めて身を強張らせるも、それからはぎゅうと抱きしめられるのみ。
睨みつけていた目は上機嫌な姿をずっと映していてそれ以上は本当に何もする気がないようだった。
ただでさえ時間のロスを重ねているのだし、ドナテロは引き離すのを諦めて目の前の作業に集中することにした。
なんだかすごくあつくて、吹きつける風すら熱砂を連れてきているように感じる。
程なくしてにモーター音が聞こえると、片付けする暇もなくそのまま階下に引きずり込まれた。