溶けかけ。
2024-08-12 20:48:14
1359文字
Public ほぼ日刊
 

掌のキスは懇願

昼間の呟きより、フリーナの世話を甲斐甲斐しく焼くヌヴィレットのお話です。
わりとほのぼのですが、ヌヴィレットがちょっと悪い男してる気がします……



 まだ早朝のフリーナの家の扉を叩く音がする。

「ふわぁ……おはよう、ヌヴィレット」

「ご機嫌よう、フリーナ殿」

 ネグリジェを着たまま、寝ぼけ眼を擦るフリーナとは対照的にきっちりと正装を着こなしたヌヴィレットはなんだかチグハグな印象を受ける。

「じゃあ、今日もよろしくね……

 うとうととしながらヌヴィレットを招き入れるフリーナ。初めの頃は小言を言っていた彼も今では当たり前のように後に続く。

 フリーナはベッドに上がるとプクプク獣のぬいぐるみを抱きしめ、座り込む。大きなぬいぐるみは彼女が座ったまま眠るのに一役買っていた。

「今日はどのような髪型かね?」

 ふわふわとした髪を梳けば、よく手入れをされた髪は難なく櫛を通す。

「ん……編み込み……

 フリーナの要望に合わせて髪を編み込む。机の上に置かれていた青いリボンで留めれば完成だ。

「ヌヴィレットの権能は便利だね……

 フリーナの前に回り込み、水の元素力を使って洗顔と保湿を済ませる。いつものようにメイクを施せば、眠そうな瞳がゆっくりと細められた。

「ありがとう。ヌヴィレット」

「なに、私も君の世話を焼くのは嫌いではないのでな」

 ネグリジェのボタンを外し、脱がせる。近くに掛けてあったブラウスを着させれば、フリーナが立ち上がる。

「下もかね?」

「うん……だめ……?」

 小首を傾げてフリーナが問う。いつの間にそのような手練手管を覚えたのだろうか。

「構わないとも。たが、君の協力が必要だ」

 フリーナがスカートに足を入れる。ヌヴィレットはすぐさまスカートを引き上げ、ホックとチャックを閉めた。

「ご協力感謝する、フリーナ殿」

 ヌヴィレットの手がフリーナの頭を撫でる。フリーナは顔を上げるとふにゃり、と気の抜けた笑みを見せた。

「こちらこそ、ありがとう。ヌヴィレット」




「キミがこうやって身支度をしてくれるのはありがたいんだけど、負担に感じたりしないのかい? ほら、いい歳して小さな子どもみたいだろ? ……本当はもう少し自立したいと思ってるんだけど」

 フリーナの質問にヌヴィレットは頭を振った。

「君の世話を負担などと思ったことは一度もない。――寧ろ、それほどまでに心を許されていることを恋人として誇りに思う」

 ヌヴィレットの顔が僅かに明るくなる。なんとなく気恥ずかしくなったフリーナは思わず顔を逸らした。

「ならいいんだけど……いや、良くない! このままじゃ僕は、君がいなくては何も出来なくなってしまう!」

 フリーナの顔が強張る。くるくると表情が変わる彼女は愛らしい。

「そうだろうか? 恋人に頼るのは世間一般では普通のことだと聞くが」

 ヌヴィレットがさりげなく「恋人」を強調して言っていることにフリーナは気づかない。それどころか、「そうなんだ」と納得すらしているようだ。

「それに、私がいなければ何も出来なくなるというのも悪くない」

 ヌヴィレットの言葉にフリーナの顔が瞬時に朱に染まる。
 あぁ、そんな姿も愛おしい。
 ヌヴィレットはフリーナの手を取ると酸素を求めて喘ぐ彼女の掌に口付けた。

「私に依存して欲しい、と言ったら君は怒るだろうか?」