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溶けかけ。
2024-08-11 13:07:24
1700文字
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ほぼ日刊
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鏡よ鏡よ、鏡さん
白雪姫パロ。
彼女は今日も鏡の前に立つ。
「鏡よ鏡よ、鏡さん。この世で一番美しいのは誰?」
だから私もこう返すのだ。
「それは、君だ。フリーナ殿」
そう言うと、鏡の向こうの魔女
――
フリーナというらしい
――
は安堵の表情を浮かべる。
「ありがとう、鏡。じゃあ、今日も行ってくるね」
手を振って部屋を後にするフリーナ殿。また、目の下の隈が濃くなっていたな、と少しだけ窶れた姿を思い出す。
美しい女王が守る魔法の王国
――
それが彼女の守らなければならないものなのだ。そのために、彼女は鏡の前に立つ。
美しさもまた、彼女を女王たらしめるものだから。
「そんなもの捨ててしまえば
――
」
言いかけて、口を噤む。きっと、彼女は望まない。真っ直ぐと前を向いて立つ彼女を否定してはいけない、と自らを叱咤する。
けれど、もし。
彼女が助けを求めてきたならば
――――
その時は話が別だ。
「鏡よ鏡よ、鏡さん。この世で一番美しいのは誰
……
?」
「それは
―――
……
それは勿論、フリーナ殿
……
だとも
……
」
「
――
ありがとう、鏡
……
いや、ヌヴィレット、だっけ
……
?」
血塗れで、それでも笑みを浮かべるフリーナ。ヌヴィレットにとって一番美しいのはやはり、彼女なのだ。
「フリーナ殿
……
何を
……
」
「今までありがとう
……
ヌヴィレット。僕は、キミを
……
自由に、した、い
……
」
血塗れの指が魔法陣を描く。震える指先はそれでも正確に陣を描く。
「僕
――
魔女、フリーナは
……
ここに
……
彼、ヌヴィレットの封印を破棄することを宣言する
……
対価は
……
僕の魔力すべ、て
……
これで、キミは自由だ」
フリーナが微笑む。
――――
この魔女は何を言っているのだろう
……
?魔女にとって、魔力は命の源と言ってもいい。つまり、彼女は自身の命すら投げ出そうとしているのだ。
「
……
っ、フリーナ殿!」
「僕に、付き合う必要はない、んだよ
……
僕らの一族が
……
今までキミを縛って、悪かった
……
」
硝子の向こうの彼女は常に笑顔を絶やさない。やめてくれ、頼むから、訴えようとしても喉は風の音を鳴らすばかりで役に立たない。
フリーナの背後の扉が開き、屈強な男たちが斧や鎌を手に無遠慮に部屋へ侵入してくる。
「いたぞ!フリーナだ!」
フリーナの長い髪を誰かが引っ張る。鏡の向こうで引きずられていく彼女と目が合った。
さようなら、ヌヴィレット。
フリーナの唇が別れの言葉を形造る。音はないはずなのに、耳元で告げられたような生々しさが耳に残った。
優しい魔女だった。
彼らが言うような悪い女王では決してなかった。
国のため、民のために寝る間も惜しんで働いていたこと。 代々の魔女たちは国を守る結界をヌヴィレットの魔力を用いて維持していたのを彼女は、一切使わずに維持していたこと。
それを民衆は知らない。
当然だ。フリーナは自身の努力をひけらかすことなど一度たりともしなかったのだから。
「愚かな魔女だ
……
」
魔力が満ちるのを感じる。封じられていたものが久しく戻ってきたというのに、このやるせなさは何なのだろう。
「君たち」
既に虫の息の彼女を処刑しよう、と物のように扱う彼らに呼びかける。
「何だぁ
……
」
「お、おい、お前
……
」
傷つけることはしない。それは彼女が守ってきたものを踏み躙る行いだから。フリーナを奪還し、この暴動を扇動した大臣の前に立つ。
「彼女は連れて行く。君は精々、この国を治めるがいい」
魔女の魔法と龍の魔力に頼っていたこの国がそのどちらをも失えば、長くは保たないだろう。
男に背を向ける。彼女との約束を果たすために。
「フリーナ殿。君が来たがっていた場所だ
……
遅くなってすまなかった」
青い花が咲く崖にフリーナを横たえる。傷は癒した。あとは清麗な魔力で満たされるこの場所で彼女の魔力が戻るのを待つだけだ。
――
それがどれほど先なのか、誰にもわからなくとも。
「私はいつまでも待ち続けよう
……
なに、時間だけは有り余るほどあるのだから」
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