椿
2024-08-10 00:09:03
5802文字
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告白は失敗です

物理成功、精神壊滅的な初夜失敗の瀬轟
お酒のやらかし系です
雰囲気小説なので雰囲気を味わっていただければ
すぐ読めます



 見覚えのないカーテンの隙間から差し込む強烈な日差しで叩き起こされた。目に染みる。あり得ないほどぼんやりする。身体が異常にだるい。
 さて、今何時でここはどこだ?
 身体を起こし頭を抱える。
「うえ……
 激しい頭痛と気持ち悪さに再びベッドに倒れそうになるのを堪える。身体がべとついて気持ち悪い。片手で頭を抑えながら辺りを見回す。
 ぐちゃぐちゃのベッド。ベッドヘッドに蓋の開いた正体不明のボトルから液体が漏れている。ドラッグストアのビニール袋。穴が開いた薬のアルミシート。箱からだらしなく飛び出した……スキン、避妊具、ゴム。いわゆるコンドーム。
 そしてシーツに散らばる結構な数の使用済みゴム。どうやらゴミ箱に入れる手間を惜しむほど堪え性がなかったらしい。そして自分以外の体温。
 うっすら気づいていたが、確かめたくなくてわざと視界に入れなかった隣にようやく目を向ける。
 こんもりと盛り上がった寝具からはみ出すほど長い脚が見えた。身に覚えがない、今は恋人もいない、じゃあこれは一体誰だよー! 誰だよー! なんだよー! これはさあ!
 状況的にすげえマズい奴じゃん! お持ち帰り? どこから?
 俺、ワンナイトなんて初めてだよ!
 叫び出したい気持ちを抑え頭痛の中朦朧とした記憶を必死で手繰り寄せる。チラリ、と脳裏に思い浮かぶ可能性に心臓がいやな音を鳴らす。昨夜の緑谷ヒーロー復帰祝い。
 あれか? あの酒か? 酒豪の爆豪が資金調達のため出会ったっていう簡単に酔える開発品のドリンク。
 これ飲んで酔えない奴はいないと爆豪に煽られた。いやいや眉唾もんでしょーと結構な量を飲み干した。そして記憶がない。
 まさか、A組の誰かと懇ろになっちまった? 冷や汗が止まらない。
 異常な喉の渇きに気づく。ひとまず落ち着いてから確認しよう。
 水、水を飲もう。隣の奴を起こさないよう静かに立ち上がる。ここに至り、どうやらホテル内だと気づく。冷蔵庫に手をつき溜息を吐いた。下を向くと吐きそうだし頭痛い。
 視界に入る自分の性器周りがカピカピで、自分が何をしたかいやでもわからせられる。なんてこった。きっと俺がかなり無理をさせたはずだ。ベッドヘッドにあったあの薬は、受け入れる側の負担を楽にしてくれる市販薬だ。俺は使ったことはないが、ドラッグストアでは普通に陳列されている。個性社会で色々な形の性器がある世の中だ。多様な営みの現れの証左だ。
 同意でありますように。酷いことをしていませんように。水をボトル半分以上一気飲みし、手の甲で口を拭う。生臭い。
 確認しないことには始まらない。詫び、話し合い、諸々。
 覚悟を決めてベッドへ戻る。ベッドの端に座り、確認のためこんもりした毛布をめくろうとした途端、もぞもぞと中身が動いた。
 そして、ぴょこっと頭が出た。紅白のめでたい髪の毛。
 心臓が一瞬変な音がした。強く叩きつけるように打ち鳴らされる。ザーッと血の気が引く。
「うっそだろぉおおおおお……
 自分の声かと疑うほど絶望と情けなさが混じった声を上げた。
 紅白の髪なんて、そんな奴知り合いにひとりしかいない。
 ああ、神様、仏様、マイヒーロー! 誰に祈ればいい! なんてこった! どうしてこうなった! 決してワンナイトして良い相手じゃないだろ! 待って俺何やっちゃってくれてんの? は? どうして? バカなの?
 こいつもあの酒めちゃくちゃ飲んだ……飲んでたなあ。轟本当に大量に……アレを……! ベロベロに……
 痛む頭で必死に思い出して泣きそうになっていると目を極限まで見開いた轟が俺を見ていた。
「瀬呂……瀬呂、なんだこれ、動けねえ」
 うつ伏せになったまま顔をこちらに向けて真っ青な顔で訴えられる。
「と、とどろき、その」
「ここどこだ、なんで瀬呂がいる」
「いや、その、多分だな、ホテル」
 類推出来る情報をそのまま口に出す。
……ホテル……?」
「っぽい、多分」
 思わず顔を見合わせる。轟の顔は相当むくんでいた。
「あ、水飲むか?!」
 飲みさしのボトルを差し出す。
「のむ」
 轟はうつ伏せに寝そべったまま手を伸ばして小さな悲鳴を上げた。
「瀬呂……
 泣きそうな声で名を呼ばれ、激しく動揺する。
「はい、なんでしょうか」
「腰と背中と、その、なんかケツがすげえヤベエ……
「その、どのようにヤバいのでしょうか」
「なんか挟まってる」
「挟まって……
「爆発してる」
 伝えられた真実に耐えきれず俺は顔を覆って天を仰いだ。これ、やっぱ俺が突っ込んだ方か。そうだよな、俺のケツ無事だもん。
「おい、瀬呂、おまえ背中から血が出てる」
「え?! 血?!」
 焦った声で轟に言われ、思わず肩越しに背中を覗く。
「なんかすげえ引っ掻いた跡が……あっ、あ?」
 轟が自分の爪を確認して呆然としている。
……あっ、あー……あー……俺か? 俺がおまえ引っ掻いたのか?」
 轟が信じたくないとでもいうような頼りない声を出して呟いた。
 だめだ。物的証拠も状況証拠も揃ってる。そしてどうやらお互い記憶はないときた。嘘だろ、なんで覚えてねえんだよ。
「俺、瀬呂とセックスしたのか」
 逃れられない身体情報で轟は一足飛びに正解にたどり着いたらしい。それにしても轟の口から飛び出た単語の不釣り合いさに目眩がする。
……どうやらそうみたい……だね……
「は? 覚えてねーのか」
「その、今、徐々に記憶を思い出している最中でして、正確には……
 チッと舌打ちがならされた。
「その、轟は?」
「まったく思い出せねえ」
 そのまま沈黙が落ちる。轟はうつ伏せで動けないまま、俺はベッドに全裸で座ったまま。同時といっていいほどお互い深い溜息が出た。
「あの酒のせいか」
 轟が口を開いた。
「そうみたい」
「おまえなんで俺とセックスしたんだ」
 轟の質問に答える言葉を俺は持ち合わせていない。何せ覚えていない。しかし酔っていたからでは済まされない。どうやって答えようかと混乱する頭をなんとか持ち直そうと努力する。
 おそるおそる轟の方へ視線を向けると片付けもせず散らばったまま放置していた枕元の使用済みゴム、推定俺の精液がたっぷり入ったものを恐るべきことに轟は摘まんでいた。一瞬で肝が冷えた。
「ちょ! おまえ、それなにかわかってるの?! ダメ、触んないの!」
「瀬呂の精液だろ? それにしてもすげえ量出してんな、俺相手に。相当気持ちよかったんだな?」
「ぎゃーッ!」
 轟の行動と言葉に頭痛も吐き気も吹っ飛んだ。
「何言ってんの?!」
「瀬呂、うるせえ、頭に響く」
「ごめ! でも!」
「俺のケツの状態からいっておまえが俺に突っ込んだんだなってわかる」
「アッ! ……ハイッ!」
 顔を押さえて頭を下げる。全裸で。
「おまえ俺で勃つんだな」
「はい……!」
「すげえな」
 呆れたような感心したような声で言われ身の置き所がない。
「いつもこんなことしてるのか?」
「は?」
「俺で勃起するってことは、そういうことだろ?」
「は?」
「瀬呂って、精力有り余ってるのか? それともよっぽど溜まってたのか?」
「は?」
 これは、俺の素行を疑われている?
「どういう意味でしょうか、しょーとさま」
「誰でも大丈夫ってことじゃねえのか?」
「嘘でしょ、ちょっと待って、そんな勘違いはさすがに轟にして欲しくない!」
 衝動的に叫んだ。これは確実に疑いを晴らさねばいけない。慌てて立ち上がる。絶対違うと否定しなければ。
「確かにこんな有様で言い訳してるって思われても仕方ないけど! でも違うから! 絶対違うから!」
「へえ……
 興味なさそうな声色に、ますます焦りが募る。ベッドヘッドにあったスマホを手に取り眺めつつこちらを見もせず呟く。
「ねえ、轟! 俺そんな下半身緩くもねえしだらしなくもないからね?! 俺こんなの初めてだよ!」
「俺で勃つくらいなんだから、他でも良かったんだろ」
 その言い草に驚くほど腹が立った。カーッと燃え上がり、一瞬で頭に血が上る。我を忘れた。
「は?! さっきからなんだよ! 俺は下半身でモノ考えてるような男じゃないからな! つか、そもそも好きな子相手だったら酔ってたって勃つわ! ふざけんな!」
 轟が手からスマホを取り落とす。俺を見る目に最大級の驚きが表れている。
 その表情に「あ」と己の失言に気づいたがもう遅い。
「瀬呂、もう一回言ってみろ、俺を、なんだって?」
 轟は腕を使って上半身を起こした。しばらくその姿勢でプルプルと震えながら耐え、それからまた力なくベッドに沈む。
 俺もへなへなとベッドに腰掛け膝に顔を埋めた。
「やっちまった……
「なにをだ」
「全部」
 もうすべて。すべてが大失敗で大失態。酒飲んでへべれけで轟をしっちゃかめっちゃかに抱きまくり、そのくせ記憶はないのに衝動的に好きだと叫ぶ。これがやっちまったじゃなけりゃなんなんだ。
「俺、おまえのこと好きだったんだ……
 己の自分勝手な欲望ついでに俺は懺悔まがいまで衝動で口にした。
「もう俺は最低だ。ひと思いにやってくれ、ごめん、俺は轟が好きだった」
 せめてトドメを刺してもらおう。
「瀬呂おまえ最悪」
「ごめん」
「タイミングが酷すぎる」
「ほんとだよ」
 情けなくて涙が出そう。
「言うつもりなかったんだよ、マジで。ごめん、ほんとにおまえのこと好きだったけど軽はずみで身体だけ繋げといて後付け告白感半端ないよね」
 これじゃまるで身体目当てで好きだ愛してるって囁く奴と変わらない。
「まったくその通りだな」
 轟の同意に言葉もない。言えば言うほど嘘っぽい。辛い。俺は自分の大切なモノを自ら壊した。
「まあ俺もだけどな。ほんとお互い最悪なタイミングだ」
 轟がイテテと呻きながら横を向いた。
……何が? 俺も?」
 轟がふ、と唇を歪めて笑う。スマホをの画面を見せられる。
「ドラッグストアで金出してんの俺だ」
 轟が見せてくれたのはコード決済の支払い済み画面。ベッドヘッドにあるドラッグストアの袋の店名と同じだった。
「少なくとも俺が積極的に同意したってことだ。つまりそういうことだろ」
「そういうこと? どういうこと? なんで? 購入履歴がそういうことになるの?」
 俺の疑問に轟は枕に顔を埋めて呟いた。

「好きでもねえ相手と俺がするわけねえって話だ。ほんと最悪なタイミングだな、瀬呂」

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 ふわふわと泡が空中を舞う。まるで今の俺の気分と似ている。
「はあ……ケツヤベエ……
「ごめんな……
「あの薬、よく効くんだな」
「効き過ぎは身体に毒だよな……
 市販薬の使用方法は、受け入れる性器に錠剤を入れ待つこと三十分。まあ前戯であっと言う間に過ぎる時間だ。性器を傷つけないためのコーティングや柔軟性を与える。
 挿入が楽にできる分、やり過ぎ注意ともオブラートに包んで使用方法に書いてある。俺たちはやり過ぎたのだ。使用済みのゴムの数が教えてくれる。
 脚の伸ばせる広めのバスタブに轟をお姫様抱っこで優しく運んだ。ぬるめの湯に刺激の少ない入浴剤を投入。轟を浸けて隅から隅まで洗ってやっている。一緒に入ってるけどまったく色気のある会話や雰囲気にはならない。ただただ轟の身体を丁寧に扱うことに気を配る。 
 十中八九振られると俺は思っていた。轟の視界からなるべく消えようとも思っていた。
 髪を洗ってやる。泡を流すと気持ちよさそうにうっとりと目をつぶる轟の表情に後悔の念が怒濤のように押し寄せる。
 昨夜の轟の顔も身体も反応もなにひとつ覚えていないなんてそんなむごいことがあろうか、いやない。昨夜の俺に嫉妬さえ湧き上がる始末だ。何やってんだよクソ野郎。ちょっとくらい覚えておけよ、好きな子との初めてを覚えていないなんてどうしようもないバカだろ。もし振られていたらその一夜だけで生きていけるほどの思い出なのに。
 ただそんな余裕のあることを思えるのも両思いになれたからだ。
 いまだ信じられないが轟も俺を好きだったと言った。だから俺とセックスしたんだと言った。
 轟を濡れたままバスローブに包み、再び抱っこして、ソファにそっと横たえる。濡れた髪を柔らかく拭って、バスローブに包まれていないつま先などの雫を丁寧に拭く。
 ソファに寄りかからせて、背を支えて水を飲ませる。
 急いでゴミやらシーツやら片付け、轟を休ませるべく体制を整え、ベッドに優しく丁寧に置いた。ベッド脇に立って眺める。
「よし! 轟おつかれさま、ゆっくり休んでよ」
 笑って毛布を掛ける。轟が眉根を寄せた。
「あれ、どったの?」
「作業みてえでつまんねえ」
「え、なにが」
「さっきから、世話してくれてるけど全然、恋人っぽくなかった」
 少し唇を尖らせて頬を染めながら呟いている。
「助かったけど、ありがとな」
 轟が付け足したように礼を言う。その様子に胸が急激に鷲づかみされたように痛んだ。
……あらあ……
 轟の思わぬ言葉に顔が熱くなる。
「そのお……恋人扱いしていいの? そんなこと言われたら、俺、すげえ浮かれちゃうよ」
「むしろなんでしてくれねえんだよ」
「わあ」
 轟って、こんな顔してくれるの? すげえ、みたことない表情でこれ、俺に甘えてくれてんのかな。ヤバい。どうしよう。
 おそるおそる手を伸ばし、髪を撫でる。轟が目を細めて満足げに笑う。
「もっと」
「はい」
 轟が望むままに何でもしたくなっちゃうな。
「ね、キスしていい?」
「ん、してくれ」
 目を瞑って少しだけアゴを上げてはにかんだようにキスをせがむ轟に、どうしようもなく胸が乱れる。そっと触れる唇は柔らかく、湿って潤んでいた。
「それから」
 轟が唇に触れたまま話す。唇に振動が伝わる。吐息が濡れている。
「うん、なあに?」
「告白のやり直しと、初めてのおまえとのセックスのやり直しをしてくれ」
 轟は頬を染めた。
「こっちからお願いしたいくらいだよ、轟」
 自然と涙が滲んだ。
「うんと甘いので頼む」
「喜んで」