木綿子
2024-08-09 23:58:57
1265文字
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琥珀に沈む金剛石

ワンドロワンライで書きました。
現パロ カフェバー設定。

 しゃくしゃく。さくさく。ざくざく。

 音の出所は炭治郎の眼の前だ。一枚板のカウンター、その向こう側。丁度、身を乗り出して見える位置。
 長くて綺麗な手指が、僅かな濁りもない透明な氷を削り出す。必要最低限な接点で、溶けない内に位置を変え、研ぎ澄まされた出刃包丁が光の屈折を生み出していく。
 オーダーメイドの氷だ。グラスの形にぴたりと合う。今日はウィスキーのための丸いグラスに、ダイヤモンドのような氷が収まった。それだけでもう、芸術品のように美しい。その上から琥珀色の蒸留酒が注がれると、本物の宝石のように色付くのだ。更にもっと濃い色のエスプレッソも混ぜられて、より一層深い色合いになる。添えられた薄切りのオレンジは、さながら金箔だ。
 国産ウイスキーと、オレンジと、エスプレッソ。混じり合う匂いの中に、ほんのりとした山椒。最後に垂らされたシロップは、和三盆と山椒の実からできている。鼻の奥がスッとして気持ちがいい。
「いい香りですね」
「それなら良かった。お前が言うなら安心だ」
 耳に優しい深い声音で言いつつ、氷と戯れていた人がグラスをついと差し出してくれた。
 昼と夜の隙間。二人だけの店は静けさに包まれている。この時間が、炭治郎は堪らなく好きだった。
 仕事の合間ではあるけれど、心行くまで堪能できるからだ。
 差し出されたグラスと、眼前に立つ人を。
 一般的なバーテンダー姿の義勇は、いつもと同じく淡々と削り落とした氷の欠片を片付けている。そんな所作すら美しくて格好いいのはどうしてなんだ、と常に疑問が湧いてくる。流れるように滑らかで静かな動作は、洗練されたなにかの競技のようでも、儀式のようでもあった。そう言うと、当の本人は怪訝な表情になるが。
「味は?」
 訊かれて、慌てて視覚から味覚の方に意識を切り替えた。
 口に含んだ液体は、芳醇なウイスキーのアルコールがコーヒーとシロップで円やかさが増し、爽やかな山椒の香りが鼻腔にまで抜けていき飲みやすい。後口に残るほんのりとした和三盆の甘さが引き立つ。ウイスキー単体はあまり得意でない炭治郎でも、口の中で転がして何の抵抗もなくすうっと喉に落ちていってしまう。
 少し、勿体ないくらいだ。
「おいしいです。これ、一昨日焼いたエチオピアですか?」
「ああ、抽出したら、味と匂いがブラックベリーみたいになった」
「ハンドドリップのときはイチゴ風味でしたね。ベリー系コーヒーとして焼き加減調整してみます」
「うん。頼む」
 一口、二口。宝石を浮かべたグラスから琥珀を味わう。その間、静かな青い視線にじっと見つめられ、炭治郎は首を傾げた。どうかしましたか、と尋ねる前に、すいとグラスを取り上げられ、足の細いカクテルグラスを手に取るように、顎の先にひんやりとした指先が触れた。

「確かに、どう味わってもベリー系だ」
「おれの口の中で味見するの、やめてもらえませんか……

 蒸留酒のアルコールよりも強い酩酊に、取り上げられたグラスの中の琥珀が、陽炎の如くゆらゆら揺れた。