jwds_20240809

jwdsで十二国記パロの続き
根底はjwdsですが、CP要素薄めのジェイとミンジョンが出てくる日常ほのぼのです
なんでもOKな方向けです

玉座に座ったからといって、王になるわけではない。
この国では麒麟が跪いたら王であることは絶対ではあるのだが、ドンシクは王であっても王足る者ではないと自覚している。
未だ朝廷に蔓延っていたハン・ギファンの権威は燦然と輝いていて、彼が王であることの方が何かと都合の良い官吏から、ドンシクは疎まれている。
複数の官吏からの陳情を鑑みるに、ドンシクはつくづく王位とは何かを考えさせられる。
自分のような、地位になんの興味もなく座位する王もあれば、例え天に背く行いだとしても、偽王としてその地位にしがみつく者と。
善い国をつくるのはそのどちらの王だろうか。どちらが相応しいのだろうか。
それは全て、自国の麒麟の手を取ってしまった時点で始まってしまった。ドンシクと黒麒麟──ジュウォンが始めてしまった。
ドンシクは覚悟を決めざるを得なかったわけで、ジュウォンが宣った通り、ドンシクはオ・ジファ以下、彼女の部下達を引き連れて読んで字の如く、ハン・ギファンを玉座から引きずり下ろした。
ドンシクはその場でユヨンの仇であるギファンの首を刎ねるつもりでいたが、ドンシクの麒麟が大層血に弱いことを思い出してやめた。
言い訳にもならないそれは、ハン・ギファンの首に刃をあてた時に、オ・ジファやその部下たちがドンシクを止めなかったからだ。
恐怖だった。王になるとはそういうことだ。
〝俺の麒麟が血を厭うのでやめます〟
迸る殺気は一気に霧散した。
ジュウォンから護衛にと引き続き命じられ、今はドンシクと一心同体にも近く、身のうちに潜んだ〝かまろ〟が荒れ狂うのを宥めながら、ドンシクは刃を収めた。
それらの行動を、都合よく慈悲と捉える官吏もいただろう。
そうしてドンシクは遂に玉座についた。
白雉が鳴いて、数日のうちに国中に新王の触れが回り、側位の儀式と賓客の対応に追われたのだが。

「玉座が痛いんだよ」
「痛い?」
「一本木から削り出された上に、幅広くて細かい意匠が施された代物のくせに、冷たくてかたい。あんなもんに座るやつの気がしれないね」
「それに座る人なんてこの国では今はおじさん以外にいないじゃない。あ、今はもう人じゃないんだっけ」
……ジェイヤ、俺を妖魔みたいに言わないでくれ」
「存在としてはあんまり変わらないんじゃない?畏れ多いとことか」
ジェイは笑いながら煮込んだ肉と野菜の入った腕をドンシクに差し出す。ドンシクはそれを受け取ってひと口含んだ。
「あぁ、やっぱりジェイヤの料理が一番うまいし安心して食える。なぁ、考えてくれたか、例の件」
「だから、私は王宮には行かないってば」
ドンシクが王位についてから、もちろん国事に奔走する日々が続いているのだが、目下、些事にも頭を悩ませることとなった。
ハン・ギファン以下の臣達が多い王宮で、誰にどの役割を与えるかの人選だ。いくら偽王の元にいたからといって、全員を王宮から追い出すわけにはいかない。それこそ最短で国が滅ぶ。
そもそもギファンが仮王として擁立されなければならない状況となったのは、前王の振る舞いのせいでもあったし、国を立ち行かせるための最善の手段と崇めていた者も多くいるのだろう。
そこに対しては、ドンシク個人の遺恨ある相手という感情は別物だ。
そうした場合、当時のギファンの臣下達に対して、ドンシクはその心持ちの善悪の区別がつかないのだ。
辛うじてオ・ジファが王宮務めをしていたお陰で、彼女の部下達──即ち禁軍とその周囲の者達は信が置けると確証している。
そんな中で、食事も頭を悩ませる些事のひとつだった。
食を些事と言ってしまうのは憚られるが、衣食住はそれこそ最重要で、ドンシクの食事に懸念を示したのは麒麟のジュウォンだった。
それこそジュウォンは数人に毒味をさせてからドンシクに食事をさせようとするのだから、断固としてドンシクはそれを拒否した。
自分の食事の毒味をさせて、万が一があったならと、ドンシクは毒味役が在ることなど以ての外だと考えていたし、そもそも、麒麟の選んだ新王が即位したばかりで、食事に毒を混入させて王を狙うなどというあからさまな手段を講じる者はいないだろう、というのがドンシクの考えだ。
しかしジュウォンはそれに納得せず、ドンシクが信頼できる料理人を探すことを条件に、毒味役の継続を申し出た。
ジファは味方とはなってくれず、中立を貫いている。ジファの立場からすれば、麒麟の言動は最もで、何より彼女は禁軍将軍であり、その第一使命は主上のドンシクを守ることだからだ。
ドンシクは悩みに悩んで、市井で親しくしていた料理屋を営むジェイに助けを求めた。宮中の厨房を預けたい、と。
なによりもジェイは、ドンシクが王となっても以前と変わらずに接してくれる貴重な友人である。
「信の置ける人物に厨房を任せたいんだ」
「そんなこと言われても。ここのお客さん達を置いて王宮に上がれないよ。それにミンジョンにはまだ言ってないんでしょ?」
ミンジョンはジェイの店で働きながら、大学に通う、ドンシクの姪にも等しい少女だ。
元々海客だった彼女をひょんな縁からドンシクが拾い、育てた経緯がある。
そのミンジョンには、ドンシクは自分が王になったことを未だ告げていない。
……ミンジョンも王宮に連れて行きたいんだが……女御か女史として働かせるのもなぁ。ミンジョンは数年かけて大学受験頑張っただろ。そこを俺が召し上げちゃうっていうのはなぁ」
将来的に官吏として王宮に入り、何某かの要職についてもらいたいというのはドンシクの個人的な事情だけでなく、事実ミンジョンは海客であることから、言葉と文化に不慣れな中、幾度目かの大学受験に挑み、見事合格した。
後見人心としては、彼女の実力と能力を高く評価し、身分に関係なく自ら王宮へと望んでほしいと願っている。
「あ、いたいた、やっぱりここだった」
「ジファヤ」
「ジファさん」
ドンシクとジェイが声がした方を振り返れば、ドンシクと似たような粗末な衣を着込んだジファが店の入口にいた。ジファはそのまま店の中へと進み、ドンシクが座る卓の前に腰を下ろした。ジェイがすぐに厨房に立ち、鍋を温め直す。
「ドンシガ、あんたが戻ってこないから台輔が探しに行くって聞かなくて」
「ジュウォナが?一緒に来てんのか?」
「来てない。そんなしょっちゅう台輔を出歩かせるわけにいかないでしょ。一旦私が降りて様子を見てくるって伝えた」
外にはジファの騎獣が繋がれており、その毛並みの美しさと飼い慣らされた様子から、物珍しさに近所の子供が集まっている。
「随分心配性なんだね、おじさんの麒麟は」
「我が国の麒麟殿は、早い段階で主上を見つけておられたけれど、迎えに行きたくても行かれなかったから、今は少しでもそばにいたいみたい。麒麟の性」
「ふぅん、愛されてるね、おじさん」
……あのな、ジェイ」
「ジェイの言うこともあながち間違ってなかろ。前王で辛い思いした分甘やかしてあげなよ。あんたの麒麟なんだから」
ドンシクが頭を抱えるのを尻目に、ジェイとジファは自国の王と麒麟の関係を酒のつまみかのように扱う。
そうして他の客がまばらな中、三人で頭を突き合わせて再び王宮内の厨房と人選の話しに戻るも、それは唐突に終わりを告げた。
「ちょっと、ドンシクさん!」
高く響く甲高い声で、ドンシクの名が店内に響き渡る。ミンジョンが飛び込んできた。
「おぅ、おかえり。大学帰りか?」
ドンシクが常と変わらずゆったりとした慣れた口調で返す。手を上げて、椅子を引いてミンジョンを呼ぶ仕草に、頬を膨らませて怒りの表情で店内に飛び込んできた少女の勢いが一瞬だけ和らぐ。
「ただいま……ってそんなのどうでもいいんだけど!なにあいつ、なんなの!?」
しかしすぐに店の入口を指差し、眉をきりりと持ち上げて怒りの表情でドンシクに詰め寄る。
「なに、なんなのってなにが?」
「あいつ、店の外から中伺ってるし、頭から外套被ってるから怪しくて。声かけたら〝ドンシクさんはいますか?〟って。あんた誰?って聞いたら、あいつ、〝僕はドンシクさんの下僕です〟って言ったの!」
「待て待て本気で待って。なに、誰?しもべ?誰がそんな」
「ねぇドンシクさん!あいつドンシクさんのなに!?やたら顔の綺麗な男!浮気!?」
「ミンジョン、落ち着けって。いや、誰がそんな」
「ドンシクさん」
唐突に割り込んできた声には覚えがありすぎて、ドンシクは振り返る前に思わず声を荒げた。
「お前かよ!」
虚を突かれたような顔で、ジュウォンがこちらを見つめている。ミンジョンの言う通り、ドンシクの麒麟は長い外套を頭から被っている。はたから見たならば不審者と間違われても仕方ない。ミンジョンが誰何を投げかけるのも無理はないだろう。
「迎えに来ました」
「ジュウォナ、あのな、たかが数刻出かけるくらい、」
「あなた行き先告げずに姿眩ますの本当にやめてください。僕がどんな心地でいたと」
王と麒麟は一心同体だ。ジュウォンの無表情にも思えるかんばせに、悲哀が込められているのを察せられるほどに、今のジュウォンとドンシクの絆は深い。ドンシクは責めるような自らの言葉の続きをおさめ、頭をかいた。
見えない繋がりと二人だけの空気感を察し、且つ、養い親の知らない顔を見たミンジョンが肩を震わせる。
ジェイとジファは完全に傍観者に徹し、ジファが二杯目を頼み、ジェイが煮込んだ汁をよそいに立ち上がる。
ミンジョンが再度怒りの咆哮を挙げようと口を開く前に、ドンシクの頭の先から足の先までを一瞥したジュウォンが眉を顰め、先に口を開いた。
「それに、あなたまたそんな格好で。きちんとした装いを心がけてくださいと何度言えば。帰りますよ。新しい誂えの職人を呼んであります。今度はあなたに似合う、紫の装衣を作らねば」
……ドンシクさんに紫?あんた親しそうに見えて、ドンシクさんのこと分かってないのね」
……聞き捨てならないな。僕がドンシクさんのことを知らない、と?」
「ドンシクさんに似合うのはねぇ、白よ。あとね、薄紅も似合うの」
「白に薄紅?まぁ確かに似合うとは思いますけど。黒もいいし、なによりも紫が似合います。これは譲れません」
……ちょっと。お前達なんの話してんの」
「ドンシクさんはちょっと黙っててください」
「ドンシクさんはちょっと黙ってて」
当事者を置いてけぼりに、互いの身分やドンシクとの関係性さえも脇に置いたまま、ジュウォンとミンジョンは、ドンシクに似合う色についての言い争いを始めた。半ば呆然としたまま、ドンシクは二人を眺める他ない。
半身である黒麒麟と、養い子の談義が白熱するのを止めることも出来ず、ドンシクはジェイとジファに目で訴えるも、友人達はそれを楽しげに眺めるだけだ。助けは求められそうにない。
ジェイとジファからすれば、たかだか装衣の色で言い争える日常に感謝の念しかない。平穏であることの象徴だ。

結局この日から数年を経て、今日もジュウォンとミンジョンは、王宮でドンシクの装衣の色について白熱した談義を繰り広げるのだ。
繊細な意匠の施された玉座には、通いで厨房預かりの料理長を務めるジェイの助言で、今は大分古くなってしまったが、毛氈が敷かれている。
ドンシクは着せ替え人形よろしく、今日もジュウォンとミンジョンが選んだ、重く豪奢な色どりの装衣を代わる代わる身に纏う。
重い衣にうんざりしながら、ドンシクは玉座に斜めに腰掛け、行儀悪く足を組んだ。
なんだかんだ気の合うらしいジュウォンとミンジョンの口喧嘩を、仕方なし笑って眺めながら、幾度目かのため息と共に、ドンシクは相変わらず背面はかたいままの玉座に静かに背を預けた。