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いまち
2024-08-08 01:31:04
3212文字
Public
右ぴよ
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宵闇の落とし物
ふっ飛んじゃって見つかったやつ
身体が動かない。目が覚めたような感覚があるにも関わらず、指一本動かせなかった。たまにあるよね、身体より先に頭が起きて思うように動けなくなるの。今の状態はまさにそんな感じだ。
どうにか動けないかと指先や足先に力を込めようとしても、まるで手ごたえを感じない。なんだか糸の切れた操り人形にでもなった気分かも。おまけに瞼も開かないものだから、こうなってからどれ程の時間が経ったのかも分からない。けど、光は感じないから夜になってるんだろうなって気はする。
(うーん)
というか、私、今倒れてるんだ。遅れて気付いたものの、いまだ指先一つ動かせる気配はない。感覚的には麻痺とかとは違う感じだから、やっぱり頭だけ覚めてる状態なのかも。そんなふうに今の状況を考えるうちに頭はすっかり覚めた気がする。
頭だけが覚めて、動けなければ瞼も開けないこの状況をもどかしく思っていると、近くに妖精族のひとの気配があるのに気付いた。向こうがこっちに気付いてくれたら助かるかも。
……
とはいえ、気付いてもらえるかは分からないんだけど。
(あれ?)
今さらになって、倒れているここがお外なのだと気が付いた。木や草の匂いが濃い中に土の匂いが混じってる、そんでもって工房の床はこんなにふかふかしていない。
……
そんな感じから察するに、今いるのは森の中のよう。さっきまで工房にいたはずなのに、なんでそんなとこに私は倒れてるんだろ?
まるで意味が分からないし、相変わらず動けないしで頭がごちゃごちゃしてきた。せめて目が開けばここがどこだか分かるかもだから、早く動けるようになってほしい。
……
そう強く思っても、やっぱり動けない。こうも動けないとなると、こここそが夢の中なんじゃないかって気がしてきた。
「
……
?」
「
……
、
……
」
離れたところから話し声みたいなのが聞こえてくる。古い妖精さんの言葉のようだけど、ぼんやりしている頭ではなんてお話ししてるのかまでは聞き取れない。
というか、また頭がぼーっとしてきた。考えてること、感じることのなにもかもがモヤがかかってるようにぼやけた感じ。
どう考えてもよくない状況だ。けども、危ない感じはまるでしない。それどころか、うーんと疲れてる時にベッドに横になったような、身も心もとろけるような心地よさが全身に染み入った。
意識を手放す直前、腕を強く握られた気がした。
+++++
眠っていたのか気絶していたのか、ぼうっとしていた頭が覚めていくのを感じる。
「
……
ん?」
誰かが起こしてくれてるのかな? 左腕を捕まれて持ち上げられてる感じがする。ちょっと苦しい。重たかった瞼がようやく開いた。けど、目がかすんでよく見えない。それでも、ここはお外で、街中ではなさそうで、ついでに明るい時間帯でなさそうなことも分かった。
ということは、意識を失う前に感じてたあれそれは夢ではなかったらしい。何がなんだか分からないことには変わりないけど。
「う?」
うまく身動きがとれないから目だけで辺りを見回すと、何人かの人たちに囲まれているのが分かった。お城の兵士さんたちが履いてるような靴とすね当てが目について、どんな状況なんだって疑問に思うと同時に一気に目が覚めた気がした。
この人たちはなんだろう? 動き辛さを覚えながら改めて回りの人たちを見上げる。目も慣れてきたのかかすんでいた視界はさっぱりしている。
私の真正面にいる人以外はみんな同じ鎧を着て、それぞれに動物のような、魔物のようなお面を着けている。雰囲気からするに正面の人が一番偉いのかな? 近すぎて顔までは見えないけど、他の人たちと違う鎧を着けているのはなんとなく分かった。そして、その人の胸当てには、お城の旗のマークが刻まれていた。
「?」
たしか、あのマークを身に付けていいのは近衛隊に属しているひとたちだけだ。
……
と、マレウスさんから聞いている。
だから、この人たちはお城の兵士さんたちのはず。
……
なんだけど、このひとたちが身に着けている鎧に見覚えはない。そもそも、お城の兵士さんたちが私をこうも雑に扱うのは考えづらいかも。
となると、このひとたちはなんなんだろう。妖精族ではあるようだけど、お面を着けているのもあって、まるで正体が分からない。身に着けている物が物だけに、近衛隊のひとたちと偽っているんじゃないかとすら思えてきて、危なそうな気配に喉の奥が詰まった感じがした。
「へ? えと」
「黙れ人間!!」
「ぴゃっ!?」
おかしい状況にヒヤヒヤしていると、目の前のひとが大声で怒鳴ってきた。それに合わせるように、後ろから両腕を押さえられて、すごい力で地面に押し付けられてしまった。
「むぐ
……
んぐぐ」
「大人しくしろ。そして答えろ」
正面の人の声はお面のせいかくぐもっていた。そのせいで低く唸っているように聞こえるものだから、いやに恐ろしく感じる。その人は手に持っている鉈のような形をした魔法石の塊を私に向けた。
翡翠に似た大きな魔法石に銀のような金属で植物の装飾がされた、ぱっと見た感じでは芸術品のよう。どこかで見たことがある気がするけど、何がなんだかわからない状況で、ごちゃごちゃしてる頭では思い出せそうにない。
……
というか、魔法石を突きつけられてるなんて、のんきにしていい状況じゃないんじゃない? 危ない予感に後ろ頭がピリピリするのを感じていると、頭を捕まれて、無理やり正面のひとに顔を合わせられた。
「ひうっ!?
……
うえ?」
正面のひとは他のひとたちよりずいぶん背が低かった。コウモリのようなお面をしていて、他のひとよりも軽そうな鎧には小さな魔法石が贅沢に組み込まれている。
お面で顔は見えないけど、その気配にはものすごーく覚えがあった。髪の長さも色も違うのにはなんで、って思うものの、気付いてみれば持ってる魔法石の塊の正体も思い出した。たしか、魔石器っていうんだっけ。いつだか見た覚えがある。あれと同じやつを持っているひとといえば
――
「リリアさん!」
「はァ!?」
たしか、リリアさんのおうちに行った時、シルバーさんがあれと同じ物で薪割りをしているのを見たことがある。その時シルバーさんから「魔石器」っていう昔の兵士さんが使っていた武器だって聞いたんだっけ。そして、シルバーさんが使っていたのはリリアさんが昔、お城で働いていた時に使っていた物だって聞いたんだ。
そんでもって、魔石器ってその人ごと使いやすい形で作られるから、同じ物はそうそうないのだそう。特に、右大将さまくらいになると最前線で戦うから、人よりも多くの魔法石を使って作るそうで、それはそれは贅沢な物になる。と、セベクくんがなんかの折りにそんなことを言ってたのも思い出した。
ついでにバウルさん
――
セベクくんのお祖父さんが使っていたものは斧の形だったっていうのも思い出した。けど、今の状況には全然関係ないかも。
ともあれ、突きつけられてる魔石器はシルバーさんの家にあるものと同じ物だってことを考えれば、今のこの状況はリリアさんのイタズラかなんかだと想像がついた。今までにないくらい悪趣味だし、他の人を巻き込んでまでこんなことする理由は分からないけど、危ない状況じゃないと気付けてひとまずはほっとした。
「あの、なんですか、コレ? イタズラにしては
――
」
やりすぎじゃないですか? そう言いかけると、目の前に魔石器が突き立てられた。よっぽど力が籠っていたのか、勢いよく土が跳ねて顔にかかった。
「ぴゃっ!?」
「テメェなんざ知らねぇ」
「
……
え」
冷たい声で私に吐き捨てると、その人はお面を外した。眉間にぎゅっと皺を寄せて、やたらと険しい顔で睨みながら私を見下ろしている。
その顔は、どう見てもリリアさんに違いなかった。
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