haru_haru0704
2024-08-06 23:48:07
4144文字
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彼の影

カカロ×忌炎 全年齢
この2人は恋人ではなく、セフレです
※カカロの人型のアレについて、公式ではない設定(CBT時点の設定)を採用しています

それは、夜帰軍と幽霊猟犬の共同作戦中のことだった。

北落野原から押し寄せてくる残像を迎え撃ち、そして全て殺す。いつも通りと言えばいつも通りの作戦だ。
本日の戦果は上々で、兵士の損害は軽微。
目につく残像は全て滅ぼした。敵の増援が来る気配もない。
「そろそろ引き上げるか?」
カカロは忌炎に尋ねる。
忌炎は、「ああ」と頷いた。そして、兵士たちの方へ振り返り、号令を出すために大きく息を吸う。
その瞬間だった。
唐突に雷鳴が轟き、巨躯の人型残像が出現する。
「総員、戦闘態勢!」
カカロが長刃の柄に手をかけたのと、忌炎の号令が飛んだのは、ほぼ同時だった。
残像までの距離は、僅か100mほど。
既知の残像であれば、すぐさま斬りに向かう距離だ。
これ以上接近を許せば、背後にいる兵士たちが危ない。
しかし。
「忌炎、どうする。見たことのない奴だが」
「ああ。未知の残像、おそらく怒涛級だ」
雷鳴と共に現れたことから、雷の力を持つ残像の可能性が高い。
であれば、ここは忌炎のサポートに回るべきだろう。
カカロが言葉を発さずとも、忌炎は承知したという顔で頷いた。
「援護を頼む」
「ああ」
短いやり取りの後、駆け出す。
カカロは忌炎のやや後方に位置取り、忌炎と残像の出方を窺う。
ぴかり、と忌炎の音痕が光った。
まずは青龍で遠距離から攻撃を仕掛けるらしい。
相手の手の内が不明な以上、接近戦を挑むのは危険だ。
「風に乗れ!」
忌炎の背後に、大きな青龍が現れる。
青龍は咆哮を上げ、うねり、残像へと食らいついた。
青龍──高密度の風の刃が残像を斬りつけて怯ませていることを確認しつつ、残像の背後に回る。
青龍に触れないように注意しながら、残像の背を斬った。
「はっ!」
肉を斬る感触。だが、浅い。
何度か同じように斬りつけるが、なかなか刃が深く刺さらない。
残像が身を捩る。
そして、ふっと消えた。
「!」
背後に気配を感じ、咄嗟に身を屈める。
頭の上を残像の拳が掠めた。なかなか速い。
更に身を屈め、足払いをかける。しかし、残像は跳躍でそれを躱した。
その隙に体勢を立て直し、忌炎の隣に並ぶ。
「硬いな」
「ああ。だが」
忌炎の言葉を遮るように、残像が腕を振りかぶり、雷を放つ。
地面を這うようにして迫る雷撃を、飛び退いて躱した。
会話は遮られてしまったが、忌炎が言いたいことはわかった。
『だが、まったく刃が通らないわけではない』。つまるところ、もっと強く鋭い攻撃をすればいいだけだ、ということを言いたいのだろう。
忌炎が再び残像に飛びかかっていく。
残像は腕を振りかぶり、攻撃の予備動作に入った。
そのタイミングを見計らい、残像に向けて雷を落とす。
あまりダメージは入っていないだろう。だが、残像を怯ませ、隙を生む役には立った。
「はぁっ!」
忌炎は長刃と槍で攻撃を仕掛ける。
斬り、突き、抉り・・・と一方的に攻めるが、やはり決定的なダメージは与えられていない。
そろそろ、敵の方から仕掛けてきそうだ。第六感が警告を放つ。
カカロはぐっと腰を落とし、上半身を捻った。
・・・来る。
読み通り、残像が動いた。先ほどと同じ瞬間移動で、忌炎の背後に回り込む。
カカロは共鳴能力を解放し、周囲に雷を散らした。
「──斬る!」
残像に向かって、思い切り踏み込む。
狙うは、膝の関節。
上半身の捻りを戻し、その勢いを刃に乗せる。
確かな手ごたえと共に、血飛沫が舞った。
果たしてカカロの長刃は、残像の右膝関節を切断した。
その瞬間。
尋常でない頭痛に襲われ、カカロは前後不覚に陥った。
「っ・・・!?」

「あ・・・?」
カカロは一瞬の気絶から覚醒した。
景色が90度右に傾いている。気絶している間に、地面へと倒れ伏したのだ。
すぐに起き上がろうとするが、身体が痺れていて動かない。
残像は片脚だけになりながらも、執念深くカカロへ襲い掛かろうとしていた。
前のめりに倒れ込みながら、その鋭い牙を突き刺そうとしている。
カカロには、それを避ける方法も、防ぐ方法もなかった。
「カカロ!」
視界に、忌炎と青龍が映った。
ゴウ、と強い風が吹く。
彼は残像とカカロの間に割り込み、カカロを庇ったのだ。
「・・・う、ぐ・・・」
カカロは低く呻いた。
忌炎が敵を食い止めている間に、なんとか身を起こす。
カカロは自らの周波数の異常に気付き、それの修正に努めた。
周波数が整うにつれ、頭痛が治まっていく。体の痺れもとれた。
「忌炎、もう大丈夫だ」
残像から少し距離を取り、忌炎に呼びかける。
彼は残像を蹴り飛ばすと、カカロの隣へとやってきた。
その右腕には、カカロを庇った時に受けたと思しき裂傷がある。
「周波数を乱された。奴の能力かもしれん」
怪我に対する謝罪は後だ。今はまず、あの残像を倒さねばならない。
「俺も少し異常がある。状況が悪化する前に、とどめを刺したい」
忌炎は利き手に怪我をしている。
やるなら、自分がやった方がいいだろう。カカロはそう判断した。
「お前の青龍で、空から落としてくれないか?奴の脳天をブチ抜いてやる」
「それはいい考えだ」
その作戦にあたって、気を付けるべきは残像の瞬間移動。
今までの動きから見て、連続での瞬間移動は不可能なはずだ。
忌炎が一歩、前に出る。
「俺が引きつける。後は頼んだ」
「ああ」と頷くと、忌炎は再び残像へ飛びかかっていった。
彼の背から大きな青龍が現れ、カカロの腹を咥えて上空へと飛び立った。
「もう少し丁寧に運んでほしいものだな・・・」
母猫に運ばれる子猫の気分になりながら、カカロは戦場を俯瞰する。
忌炎の攻撃。雷による応戦。回避。攻撃。応戦。
やがて、残像が瞬間移動した。
「頼むぞ、青龍」
上昇を続けていた青龍が、残像に向けて下降を始める。
カカロは左手で長刃を逆手に持ち、右の手のひらで柄頭を包むように構えた。
そのまま、落ちる。雷のように。
青龍の推進力を借りて、より速く。
残像の脳天目掛けて、一直線に。
バチ、という音がして、長刃の切っ先が残像の頭部に触れる。
そしてそのまま、残像を貫いた。
残像は断末魔を上げ、やがて塵となって消えていった。

*
「ふう・・・やったな、カカロ」
地面に座り込んだカカロに、忌炎が近付く。
「ああ。・・・さすがに衝撃で手が痺れたぞ」
「はは、かなりの速度だったからな」
忌炎は笑いながら、カカロに手を差し出した。
その腕には、裂傷がひとつ。
カカロは「1人で立てる」と遠慮しようとして──目を見開く。
「!」
忌炎は反射的に風の槍を掴んだ。
彼の隣に、カカロが使役する人型の影が佇んでいたからだ。
「カカロ?なぜ今、こいつがここに・・・」
「っ・・・く、ぅ・・・」
カカロは頭を押さえた。
頭が痛い。
先ほどの頭痛よりは軽いが、何かが妙だ。まるで何かが捻れている、ような。
「忌炎、離れ、ろ・・・また、頭が・・・」
「っ・・・」
忌炎は距離を取ろうとした。
しかし、影は『許さない』とばかりに詰め寄る。
不用意に動くのは得策ではないと判断したのか、忌炎は立ち止まり、影の様子をじっと観察していた。
「はあっ・・・クソ、おい、やめろ・・・!」
カカロは影に呼びかける。
影は反応しない。
こんなことは初めてだ。
影と共に在るようになってから、もう何年も経つというのに。

*
バチ、という音がした。
影が、雷をまとった刃を構えている。
「おい、やめろと言っているだろう・・・!」
カカロの焦った声が聞こえる。
先ほどちらりと見た彼の音痕は、僅かにだが歪んでいるように見えた。
おそらく、残像の何らかの能力で周波数に異常が出ているのだ。
忌炎は油断なく槍を構えながら、思考を巡らせる。
もし、影が仕掛けてきたら。暴走が止まらなかったら。カカロの容体が悪化したら。
最悪の場合は。
・・・それはまだ、考えるには早いだろうか。
そんな思考を、バチバチという音が中断させる。
影は、刃を振り上げた。
「・・・!」
襲ってくる。
忌炎はもちろん、防御するつもりだった。そして、反撃するつもりでもあった。
しかし。
「やめろ、兄弟ッ! ! 」
叫んだカカロの声が、あまりに悲痛で。
『兄弟』という呼び方に、何かとても重いものを感じて。
一瞬、躊躇した。
「っ・・・!」
その結果、脇腹を刃が掠めた。
皮膚がほんの少し裂けただけだが、傷口がびりびりと痺れて痛い。
夜帰の兵士たちがどよめいたのが聞こえて、忌炎は左手を上げた。
まだ何もするな。まだ大丈夫だ。そんな意味を込めて。
カカロの影は、追撃をしてくる様子がないのだから。
「カカロ。周波数を整えろ」
「やってる・・・!っ、おい、兄弟!いい加減にしろ!戻ってこい!」
カカロの呼びかけに、影がぴくりと反応を示す。
そして、刃を振り上げていた腕が、ゆっくりと下ろされた。
「ああ、そうだ。それでいい。ほら、こっちに来い」
カカロは子供に言い聞かせるように、影に話しかけた。
影は忌炎に頭を下げると、カカロの方へ走っていった。そして、すうっと溶けるように消える。
「・・・はあ・・・すまない、俺のせいで2つも傷を負わせたな・・・」
「いや、いい。むしろ、未知の怒涛級相手に傷2つなら上出来だ。それほど深い傷でもないしな」
「・・・・・・」
カカロはバツの悪そうな顔をしながら立ち上がった。
普段はカカロの方が積極的に敵の注意を引きつけて怪我をしているのだから、お互い様だ。忌炎はそう思ったが、口には出さない。
代わりに、不敵な笑みを浮かべる。
「どうしてもと言うなら、今夜ベッドで償ってもらっても構わないが?」
「・・・怪我をしているくせに、か」
「深い傷ではないと言っただろう?それに、そういう気分なんだ。今日は」
「はあ・・・分かった。誠心誠意、償わせてもらおう」
カカロは渋々といった様子で頷いた。
「今夜が楽しみだ」
たまには、しおらしい彼とするのも悪くない。
忌炎は珍しく、高揚した気分だった。
それが残像の影響によるものかどうかは、彼自身にも分からなかった。