雪成はす子
2024-08-05 20:55:26
3397文字
Public 🐧🐬
 

本能

ノベロ軸、屋敷から逃げた直後の🐧🐬🔞
『ツガイゴロシシンドローム』の前日譚に当たる、二人が初めて番になった日の話
⚠オメガバース設定、🐧α🐬Ωです

小屋に戻った途端、ぶわりと立ち込めた濃厚な甘い香りに脳髄が痺れていくのを感じた。
森で集めた薪木がばらばらと落ちる、けれどそれよりも目の前で蹲るシャチの方が俺にとっては重要だった。
小屋の床に蹲ったまま、シャチは荒い息を吐いている。
「ペン、ギン……たすけて……
俺を見つめて切なそうに縋るシャチの手に、涙に濡れた瞳に、俺はあまりにも容易く理性を手放してしまった。







シャチがΩだという事を知ったのは、俺たちの両親が死んで、シャチの叔父だというあの男に引き取られてからだった。
最初は同じ仕事をやらされていた俺たちが、次第に別々の仕事をさせられるようになっていた。
おかしいと思った時には、もう遅かった。
仕事を終えて戻って来たシャチから漂う、微かな甘い匂い。
首に残った、注射針の痕。
そして何より―――マフラーを取ってみれば、そこには夥しい数の鬱血痕と、まるで犬にするような首輪が嵌められていたのだ。
シャチに問い質してみれば、シャチは泣きながら俺に言った。

自分は、Ωなのだと。

叔父さんが何故かそれを知っていて、番の居ないΩは利用出来るからと叔父に連れられ、本来ならばまだ起こる筈の無いヒートを無理矢理引き出す誘発剤を打たれたのだと。
両親がまだ生きていた頃、通っていた学校でバース性についての授業があった事を思い出す。
ヒートを無理矢理起こす誘発剤は違法だと、先生は口酸っぱくして言っていた。
乱発されれば、Ωの人格が壊れてしまう―――それくらい、危険な薬なのだと。
それを、シャチに使われた―――それを知った途端、俺の中に臓腑が燃え上がる程の怒りを感じた。
けれどそれ以上に、シャチをこんな場所にこれ以上居させてはいけないのだと悟った。

『逃げるぞ、シャチ』

戸惑うシャチの手を引いて、俺は雪の森を駆け出した。
あの屋敷を出て、どうやって生きていくかなんて考えていなかった。
ただ、これ以上あの場所に居たらシャチが壊れてしまう―――それだけが、とても恐ろしい事のように思えたのだ。







ぱちん、と薪が爆ぜる。
「あっ、あ、っは……ぁ、いい、もっと、もっとぉ……
うわ言のように「もっと」と繰り返すシャチに口付けて、シャチの唾液を啜る。
理性はもうとっくの昔に灼き切れていた。
シャチのズボンを乱暴に脱がせ、女のように濡れそぼったそこに指を突き立てれば、シャチは甘い声で啼いた。
本来シャチの年齢では起こる筈の無いヒートは、あの誘発剤の所為で完全に周期が狂ってしまったのだと後で知った。
けれどその時は、何故シャチがヒートを起こしてるかなんてどうでも良かった。
目の前のΩを孕ませろと、俺の中の本能が叫ぶ。
その本能に抗うには、俺もまた―――αとしては幼すぎる、αの自覚が無かった俺には不可能に近かった。
前戯もそこそこに、俺は服を脱ぎ捨ててガチガチに張り詰めた自身をシャチのナカに埋めた。
シャチのナカは熱くてキツくて、それなのにもっと奥へと誘うように蠢く。
たまらなく気持ち良くて、俺は夢中になって腰を振った。
「ぁあ―――っ!!!!」
幾度目かの熱を放つと、シャチもまた体を大きく撓らせてイった。
ずるりとシャチのナカから自身を抜いて、シャチの体をひっくり返す。
シャチが巻いていたマフラーが首から落ち、あの首輪が現れた。
まるでシャチを犬扱いするような首輪―――それが気に喰わなくて、俺は持っていたナイフでシャチを傷つけないように首輪を切る。
「あっぐ」
首輪を切る際に少し締まったようで、シャチが苦し気に呻いた。
やがてぶち、と音を立てて首輪が切れる。
ずる、とシャチの首から首輪が落ち、うなじが露になった。
ごくり、と我知らず喉が鳴る。

ぐらり、とまた脳髄が揺れた。

シャチの腰を掴み、俺は再びシャチの後孔に自身を宛がうと一気に腰を突き入れた。
―――っふぁあああっ!!」
堪らずシャチが声を上げ、喉を反らせて喘いだ。
力無く床をひっかくシャチを抱き寄せ、何度も何度も揺さぶりながら、シャチの後ろ髪に鼻を埋める。
すん、と鼻を鳴らすと、またあの甘い匂いがシャチから香った。


―――ソレはお前のΩだ。


本能が告げる、その声に抗えない。
俺は大きく口を開き、シャチのうなじに思い切り噛みついた。
「ひぁっあ、あぁ~~~~!!!!」
ひと際大きくシャチが啼いて、シャチの体が大きく跳ねた。
同時に、俺はシャチのナカにまた熱を放った。
それからもまた何度も何度も熱を放ち、何度も何度もシャチのナカを穿つ。
イってもイっても止まらなくて、本能が求めるまま、何度も何度もシャチを求めた。








「生存本能だったんだろうな、恐らくは」
ローさん達に助けられ、数か月が経った頃、シャチは再びヒートを起こした。
その時のシャチのフェロモンが俺にしか作用しなかった事―――聞けば、ローさんもまたαなのだという―――を受けて、俺はローさんに事情を説明した。
一通り話した後に、ローさんは成程なと頷きながら言う。
「そもそもバース性ってのは人間が持つ生存本能から生まれたものらしい。種を保存しようとする、生物としての本能とも言うべきか。だから本来の性別とはあり得ない性だとしても子を為す事が出来る訳だ」
……それと、俺たちの事と、何の因果があるんだ?」
「あの屋敷から逃げて、あの小屋に居た訳だろう?あの屋敷に居た時も、あの森の小屋に居た時も、お前たちはマトモな栄養も摂れず、常に飢えと戦っていた。それにより強いストレスが掛かり、種の保存という本能が働いた―――そういう事なんじゃないか?」
……でも、子供は出来なかったよ」
「そりゃそうだ。子を為せる体と言っても、男のΩの着床率は低い。それに、お前ら二人は番としては若すぎるからな」
読んでいた本に栞を挟み、ローさんは俺に向き直った。
「そもそもお前たちが今、番である事。それ自体がイレギュラーなんだ。ペンギンは十五、シャチは十四だろう?」
「まあ、そうだけど」
「バース性ってのはそもそも、本来の性別とは違う役割を無理矢理与えてるような状態にある。だからバース性が確立する年齢ってのは、基本的に二次性徴より遅い傾向があるんだ。概ね早くて十六、平均は大体二十歳前後って所か。体が本来とは違う役割を持ったとしても、全う出来る程度に体が成熟した齢だな。シャチの場合、誘発剤で無理矢理ヒートを起こされて無理矢理Ω性を確立させられただけだ。だからだろうな、まだ卵巣は未成熟だった」
………そうか」
「何残念がってるんだ」
コツン、と額にローさんの拳が落ちる。
「あんなに美容院に行くの楽しみにしてるシャチから仕事を奪う気か?とりあえず、誘発剤の後遺症が無いかドクターとちゃんと検査した上で、ヒートの抑制剤を処方する。ヒートってのはそもそもΩにとっては大きなデメリットでしか無いからな」
「そうなのか?」
「考えてみろ。Ωが発するフェロモンと、発情したあの状態―――しかもそれを発散させなければ数日間もその症状に苦しむ事になる訳だから、明らかに体に大きな負担がかかるだろ。実際、Ωの寿命は平均より短い。それもこれもヒートの所為だ。だから抑制剤があるんだ」
「そう、だったのか……
寿命が短い、という言葉に心臓がどきりとし、俺は思わず胸を押さえた。
ローさんの言葉通りなら、シャチの寿命は俺より短いって事になるのだ。
―――つまり、シャチは俺より先に死ぬ可能性が高いという事だ。
胸を押さえて黙りこくった俺に、安心しろ、とローさんが告げる。
「ヒートを抑えればその分Ωの負担は減る。実際、抑制剤が開発されてからはΩの寿命は格段に延びてるんだ。だから心配しなくていい。俺が必ず、シャチに合う処方の抑制剤を調合するからな」
「そうだね……ありがと、ローさん」
「礼には及ばねえよ。俺はお前らの主治医なんだからな。どんな事があっても、俺はお前らを助ける。必ずな」
俺の瞳を真っ直ぐに見てそう言うローさんに、俺は酷く安堵した。
この人に着いて行けば、きっと俺たちは大丈夫なのだと。



俺たちの命を預けるに足る場所を、俺は漸く見つけたのだと。
俺はそう確信し、ほっと息を吐いたのだった。