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溶けかけ。
2024-08-05 15:00:32
1973文字
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ほぼ日刊
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次はふたりで
―――共に歩もう。
転生して水元素生物になってヌヴィレットの側にいるフリーナとずっと寂しかったヌヴィレットのお話。
最高審判官ヌヴィレット。
彼がフォンテーヌで権力者として辣腕を振るい始めて数千年。
彼の周りには人とメリュジーヌが集う。街を歩けば、お裾分けで両手がいっぱいになることも少なくない。ヌヴィレットはフォンテーヌの人々にとってなくてはならない存在なのだ。
それ故、フォンテーヌの人々は神を知らない。
今では水神という言葉も遠くなり、神が見たければスメールに行け、と言われるようになった。ここフォンテーヌで神が君臨していた頃のことを知るのは彼と彼の眷属であるメリュジーヌの中でも更に一部だろう。
え?彼は寂しくないのかって?
――――
さあ、どうだろうね?
「フリーナ殿」
ヌヴィレットが書類から顔を上げて、虚空に呼びかける。視線の先では、水元素の魚がふわふわと鰭をはためかせて宙を泳いでいた。
「どうしたの?ヌヴィレット」
空気を震わせるその声は、ヌヴィレットには馴染み深い水神であった女性のものだ。
「いや、呼んでみただけだ」
「ふふっ
……
なんだい?それ」
魚はヌヴィレットの差し出した手にキスをする。
「寂しくなった?」
「
……
かもしれないな」
「仕方ないなぁ
……
」
魚はぐにゃぐにゃと形を変えると人の姿をとる。その姿は手のひらサイズの人魚
――
とでも言う方が正しいだろう。
「キミ、本当にこの姿が好きだよね」
フリーナが呆れたように言いながらヌヴィレットの手のひらの上にちょこんと座る。
「それは誤解だ、フリーナ殿。空を泳ぐ魚の姿も人の姿の君も私にとってはどちらも好ましい
……
」
「そ、そうなんだ
……
まあ、いいけど」
満更でもなさそうに頬を染めたフリーナはヌヴィレットから視線を逸らした。
「
…………
」
「
………………………………
」
「
…………
あぁ、もう! 言いたいことがあったらはっきり言ったらどうだい!?」
沈黙に耐えきれなくなったフリーナがヌヴィレットを見遣る。
「やっと、こちらを向いたな
……
」
ヌヴィレットがゆっくりと目元を和らげた。
「〜〜〜〜っ! もう! ヌヴィレットの卑怯者!」
ポカポカとフリーナがヌヴィレットの胸を叩く。小さな手が彼にダメージを与えることはない。
「な、撫でるなぁ
……
! それより、僕に用事があるんだろう!?」
ヌヴィレットが人差し指の先でフリーナの頭を撫でれば、彼女の顔は林檎のように赤く染まっていく。あぁ、そう言えば、彼女を呼び寄せたのは自分だったと思い出す。
「急に君を愛したくなったので呼んだ」
顔色一つ変えずに言い放つヌヴィレット。フリーナが羞恥に耐えられず、わなわなと震えた。
「なっ、なっ
……
」
「な? あぁ
……
猫の鳴き真似だろうか?」
ヌヴィレットの手がフリーナを撫でる。
「だ、だから
……
!撫でないでくれぇ!」
ヌヴィレットの手から勢いよく脱出したフリーナは彼の手が届かないところまで高く飛び上がった。
「フリーナ殿」
何度かヌヴィレットが呼びかけるがフリーナは顔を逸らして知らん振りを決め込んでいる。
「
…………
」
やがてヌヴィレットの声が聞こえなくなり、フリーナは横目で彼を盗み見る。机に戻って仕事をしてはいるが、明らかに筆が遅い。
「
……………
本当に嫌味な奴だな、キミは!」
フリーナはヌヴィレットの顔の前に降り立つと彼の鼻先へキスを落とす。
「
――――――
これで
……
満足かい?」
真っ赤な顔のままもじもじと体を捩らせるフリーナ。
「あぁ
……
ありがとう、フリーナ殿。
……
これでフリーナ成分が補充された」
「それなら良かった
……
って、ちょっと待て!?
――
なんだその『フリーナ成分』って!」
「あぁ
……
パレ・メルモニアの職員に聞いたのだ。疲れているときは推しを摂取することによって元気が出るのだと。推しとはその人物にとって一番好ましい人間を表す言葉らしい。その理屈なら、私にとっての推しは君になる」
フリーナは、頭を抱えて呻る。
「もう、何から突っ込んだら良いかわからないよ
……
」
「なに、難しく考える必要はない。君は今まで通り、私の側にいてくれればいいのだから」
ヌヴィレットが微笑む。フリーナも彼に釣られるかのように微笑んだ。
「ずっと前からそのつもりだよ。まあ、キミが年々、図々しくなっている気はするけどね」
一度は別れた僕らだけど、今度はキミと歩むと決めたから。
「約束は守る主義なんだ。今更、返品なんて受け付けないからね?」
「それはこちらの台詞だ、フリーナ殿」
やあ、おかえり。どうだった?
人魚?
――
あぁ、フリーナ様のことだね。彼の側にはいつだって、彼女がいるんだ。だから言っただろう?寂しくないって。
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