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小椋
2024-08-04 00:37:59
2849文字
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【kiis】きみは光ってみえるから
kiis版ワンドロライに参加したもの。
BM所属未来if。夜のプールで月を見るkiisのお話。
第6回目のお題「水着」「満月」「ボール」をお借りしました。執筆時間は約2hです。
プールサイドに腰かけて、光のもとをたどるように夜空を見上げる。照明を絞られて宵闇に染まったプールを、満月がやわらかく照らしだしていた。まんまるの光をぼんやりと眺めているうちに、自然と口元をほころばせてしまう。
まさか客室露天風呂つきの旅館を利用する前に、プライベートつきのホテルに宿泊することになるなんて。人生どうなるかわからないものだ。
ミヒャエル・カイザーによるバカンスの計画を知った潔世一が最初に行ったのは、スイムウェアを見繕うことだった。渡独に際して日本から持ちこんだ荷物の中に水着の類など含めているはずもなく、実家を頼ったところで見つかるのは学校の授業で用いたスクール水着しかない。せっかく新調するのならと、潔はトレーニングに使用することも考慮してフィットネス用のスイムウェアを購入した。
新しい水着は早速、ホテルにチェックインした夜から有効活用されている。ウエストから太腿を覆うスイムウェアは、久方ぶりにプールへ入った潔に一切の負担や抵抗を与えていない。プロのサッカー選手として鍛え上げられている足腰に、ぴったりとフィットしていた。
穏やかな水音が近づいてきて、水に浸けた脚に寄り添うように水面が揺れる。
「世一」
さざなみのように潜められた声音に、潔は天上から視線を落とした。軽く開いた脚の両脇に濡れた掌が置かれる。それを支えにプールから上がったカイザーが迫ってくるのに任せて、後ろに身を横たえた。むっと寄せられた柳眉を認めて、潔はつい笑みを零してしまう。
ブルーグラデーションに染まるプラチナブロンドと、しなやかでありながらも強靭な筋肉に覆われた体躯から、潔の胸元や腹部に転々と水滴が垂れ落ちる。その光景をなんともなしに見下ろしていると、すっとおとがいを掬われた。
乾いて温まった唇へ、濡れて冷えたそれが押し当てられる。ついばむようなキスがくりかえされたのちに、ちいさな溜息で蓋をされた。
「お前の眼に、月が見える」
「
……
そりゃ、見てたからな」
反射したものが虹彩に映っていたのだろうと片づけようとすれば、そうじゃないとばかりに首を振られた。
「お前の眼は、満月の夜に似てる」
単に色の話をしているだけではないことくらい、さすがの潔にも察しはつく。不用意に口を挟むことはできずに、カイザーがぽつりぽつりと落とす言葉のかけらを受け止めていった。
「正面から見ているはずなのに、夜空を見上げているような気持ちになる。金色の光が月のように輝いていて、いまにも吸いこまれそうなのに、手が届かないほど遠くに感じられるんだ」
珍しく胸のうちを打ち明けてくるカイザーの表情は、陰が落ちていて不明瞭だ。だが、ろくでもない表情を浮かべていることくらい容易に察しがついた。
相変わらず、カイザーが揺らぐきっかけが潔には掴めないままだ。いつまで経ってもどこかに拭いきれない飢えと際限なく焦がれる心を抱えていて、それがふとしたときに顔を覗かせる。たいがいは飼い馴らせるくせに、ときたま呑みこまれてしまうようだ。
苛立ちを持て余して乱暴な行動に出る前に、こうして言葉にできるようになったのだから、カイザーも変化を遂げているといえるのかもしれない。それがよいことなのか悪いことなのか、潔には判別がつけられずにいる。だが少なからず影響を与えられていると思えば、気分は悪くないものだ。
潔は己に覆いかぶさるカイザーを静かに見上げる。きっとその背の向こうには、さきほどと同様に満月が浮かんでいるのだろう。だが、いまはカイザーによって視界をさえぎられているから、姿を捉えることは叶わずにいる。
だから、この眼に金色のなにかが映っているというのなら、それは月じゃない。
「日本だと『月が綺麗ですね』って言葉があって。確か『好きなひとと見る月はいつもより綺麗に見えます』っていう、アイラブユーの訳し方なんだけど」
話が掴めないとばかりに怪訝そうな気配を漂わせるカイザーに、わからなくてもいいよ、と告げる代わりに手を伸ばす。たとえ理解が及ばなかったとしても、自分なりにわかることを伝えるだけだ。そんな気持ちで、カイザーの頬に両手を添えた。
「俺はそんなに月見てないから、お前と一緒のときに月がいつもより綺麗に見えるかはわかんないけど。でも、だから、俺が見てるのは月じゃなくてカイザーだよ」
「あ?」
「お前が俺を見ると、俺の眼に月が見えるんだっけ? だったらそれ、カイザーを見てるからだろ」
「
……
は?」
「俺がいつも見てる金色なんて、お前の髪くらいだし。お前のこと見てるから、それが反射してるんだって」
「
――
だが」
「光って見えるなら、それは俺がお前を好きで、お前が俺を好きだからだよ。好きなひとは輝いて見えるとか言うじゃん。それじゃね?」
な? と言い聞かせてみても、釈然としないとばかりに唇を引き結んでいる。「さっき、あの満月見てた俺が、なに考えてたか教えてやろうか」
往生際の悪い相手に、とっておきの秘密を打ち明けようとささやきかける。素直に耳を傾ける姿勢を見せたカイザーに、潔はにんまりと口角を持ち上げた。
「あー! サッカーしてぇ!」
周囲にひとけがないのをいいことに思いきり声を張ってやれば、眼前のカイザーが無防備に目を丸くする。潔はたまらず噴きだした。
「あの満月見てたら、ボールみたいだなって。そしたらもうサッカーしたいなって、そればっかりだよ」
ようやく驚きを消化できたらしいカイザーが、潔の手をそのままに顔を上げる。月明かりに照らされた相貌には、皮肉めいた笑みが浮かんでいた。
「せっかく俺とバカンスに来たってのに、もうフットボールに浮気か?」
いつもの調子を取り戻してきたらしいカイザーへ、潔は挑発するように目を細めてみせた。
「浮気っていうより、俺たちふたりの本命だろ?」
「はっ、このイカれたエゴイストは、いつでもどこでもフットボール馬鹿ときた」
潔の戯言を、カイザーは鼻で笑い飛ばしてみせる。それでいて、ひとたび感じた不快感を捨てきれず、機嫌を損ねていることを隠しきれていなかった。
俺だけ見ていろ。
そう言外に乞われていることに、潔は途方もない昂奮を覚えた。浮き立つ心のおもむくままに再び口を開く。
「気に食わないっていうならさ」
すっと伸ばした手で、後ろ髪を掴んで引き寄せてやる。
「奪ってみろよ。
……
得意だろ?」
見え透いた挑発だと知りながら、煽られるままに噛みついてきたカイザーに気をよくする。スイムウェア越しに太腿を撫で上げる不埒な手に、たまらず熱のこもった吐息を紡いだ。
なにもかも奪い尽くしてやるとばかりに襲いかかってくるのなら、どこまでも喰らいついてまるごと呑みこんでやる。
潔はカイザーの背中にすがりつく。そうして唯一無二でありながらも、月と違って手の届く金色を腕の中に閉じこめた。
小椋@OgrYtk
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