ボツネタ

シナリオネタバレなし
※自探索者と刀/剣乱/舞とのクロスオーバー

それはとても、とても鮮やかな────



襖の奥でしゃがみ、彼は必死に息を殺している。栄優エイユと名乗るその審神者、その管轄にある本丸は現在襲撃を受けていた。護衛の刀を無視して審神者だけに殺意を向ける時間遡行軍たちを倒すのは簡単であったが、その数が問題であった。ただの本丸にこんなに手間をかけるのかとエイユが思うほどに、敵は膨大な数湧いて出てきた。

近侍のへし切長谷部は、すぐ近くの襖の外で戦っていた。しかし審神者の場所を察せられることを防ぐため、少し離れた庭に戦場を移したらしい。エイユはその判断を後で褒めようと、嫌に冷静な部分で考える。


……ッ!!」


襖一枚隔てた向こう側で、バタバタと足音がする。親しんだ刀のそれとは違う唸り声で、時間遡行軍が自分を探しているのだと知る。途端に溢れる、不安と恐怖。自分の刀はどうなった? まさか、破壊されたのか? 次は自分が殺される? 自分の本丸で? グルグルと、身の内を不吉な予感が支配する。呼吸する度に跳ねる心臓の音が煩い。

ゆっくりと、襖が開く。目の前に居たのは、予想通り時間遡行軍。赤い煙を纏う太刀は、自分を見つけた瞬間ギラリと鋭く光る。小さく隠れていた審神者を見つけ、容赦なくその殺意を膨らませた。死を目前にしたエイユは、小さく悲鳴を漏らす。

振り上げられた太刀が恐ろしく、審神者は強く目を閉じる。次に襲い来る激痛を見ていられず、大きな叫び声とともに太刀が振り下ろされ


「────圧し斬るッッ!!!!」


その咆哮で、時間遡行軍から赤色が飛び散る。太刀はそのまま横真っ二つに裂けて倒れ、その背後から一振りの刀剣男士が現れる。死を覚悟した瞬間、その死を斬り捨てた自分の刀。焦りと安堵の表情で、へし切長谷部はエイユに駆け寄った。


「主! お傍を離れて申し訳ありません!」

「はせ、べ」

「はい! 貴方の長谷部です!」

……よかった。折れてない。よかった、本当に」

ええ、『生きて帰れ』という主命ですから」


一つ深呼吸をしてから、エイユは状況を二人で整理する。破壊された刀はおらず、重傷を負った時点で蔵へ逃げ込んでいる。今は打刀と太刀を中心に防衛戦を張っており、へし切長谷部はその案内をするためにエイユを迎えに来た。短刀とこんのすけは政府へ連絡、救援もすぐに来るだろう。となれば、やはり蔵へ向かうのが一番だ。長谷部は既に中傷ほど、ここで彼一振りに負担をかけ続けるのは非常にマズい。


「よし、蔵へ行こう。そこまでの護衛を頼む」

「承知しました、こちらへ」


外へ出ることが、怖くないわけではない。しかし死の恐怖と同様あるいはそれ以上に、エイユは自分の刀たちを失うのが怖かった。蔵ならば、簡易的な手入れ道具もあるはず。最悪長期戦になっても、まだマトモに耐えられる。

長谷部が先導し、エイユは後を追いかける。なるべく接敵そのものを避けながら、本丸から少し離れた蔵へ急ぐ。幸運にも時間遡行軍は本丸の中を調査しているらしく、蔵へ続く庭付近には見当たらない。二人で頷いて、慎重に庭に出る。

ギラリと、背後で何かが反射した。


「主ッ!!」


長谷部に抱き寄せられたと認識した頃には、既に強い衝撃で二人諸共吹き飛ばされていた。横に倒れた長谷部は、折れていないのが奇跡なほどの重傷だ。反射の元を探れば、苦無丙の遡行軍が妖しく立っていた。あの急所を狙った一撃から、長谷部はエイユを庇ったのである。刀としては当然だが、すぐ目の前で従者を失う恐怖は審神者をその場に縛り付けた。

光と間違うほどの速さで、遡行軍がエイユに迫る。主人として間違っていると理解しながらも、意識を失った長谷部を強く抱きしめ庇う。今度こそ刃は振り下ろされ、空気を切って刀の破壊音が庭に轟く。







「無事か、青年」


知らない男の声で、ハッと前を見る。それはとても、とても鮮やかな朱色だった。声をかけてきたのは、朱色の長髪を靡かせる男。その手に握られた刀は、加州清光。顕現せず刃のまま振るわれる彼は、美しい刃を輝かせている。先程の破壊音は、男が遡行軍を叩き斬った音だったらしい。

カタカタ、男の持つ加州清光が僅かに震える。審神者のエイユは、それが言葉を発していると気が付く。何かを話しているか理解できなかったが、男はそうではなかったようだ。


そうか。ありがとう、キヨミツ。
 青年。もうすぐ救援が来る、蔵へその男士を運ぼう」

「えっ、あ、はい?」


男は腰に加州清光を携え、へし切長谷部を抱え上げる。顕現が解けそうなほどに重傷だが、下手に刀に戻すのも霊力が不安定になり悪手だ。そのため、この状態で蔵まで駆けなければならない。未だ混乱するエイユを置いていかぬよう、男は偶に立ち止まっては走る。










この後なんやかんやで消えたシュウを探すエイユヒロとか