「次はあっちね~」
呑気なハロルドの声に、ジューダスはため息で返した。
ジューダスの片手には紙袋が抱えられている。
「あら、疲れたの?」
多少街を歩いたくらいでそんなわけがないことも、ため息の意図だって分かっているくせにからかってくるのだから、面倒な女である。
そんな女と街を歩いているのは何故かというと。
『また皆と旅がしたい』
そうカイルが言ったのがきっかけだった。
ファンダリア領が拠点になっていたが、それ以外の大陸も見たい。いや、見たことはあるけどゆっくりと見て回ったことはない。だから行きたい。街一杯に花が舞うハルルだとか、人のスピリアに反応するフルエーレだとか。
他にも色々と言っていたが、結局はただその一言に集約されるのだ。
ロニとナナリーは賛成し、ハロルドもサンプル回収を兼ねて承諾し、リアラは言うまでもない。
あれよあれよと言う間に日程が決まり、こうして旅に出ている。もう少し後にはリムルも合流する予定だ。武者修行の合間に同道するとのことだったが、どうせ思った以上の間、巻き込まれることになろだろうとジューダスは見ている。
そして特に依頼されたわけでもない、むしろ首を突っ込みに行った魔物退治が終わり、休息を取ることになった。
ナナリーが食料の買い出しに行こうとし、それを手伝おうとしたリアラをロニが押し止め、カイルと二人で小高い丘の展望台へと向かわせ、そのままナナリーとロニは買い出しへ。
ジューダスはハロルドにマントを掴まれ、『荷物持ちよろしく♪』の一言で付き合わされているというのが顛末である。
「
……そもそも、荷物持ちならお前の開発した機械にやらせれば事足りるだろう」
自律自走する機械を引き連れて奇異の目で見られようと、ハロルドが気にするとは思えない。
「分かってないわねぇ」
呆れたようにハロルドはにんまりと笑う。
自分の意図は伝わっているのに、向こうの意図が読み切れないのは居心地が悪い。この変人の思考回路など理解できるとは思えないが。
「あんた、どうせどこかで静かに休んでるか当てもなくふらつくだけでしょ。少しは遊んだらいいのよ」
「休息時間くらい好きにさせろ」
「夜はちょっかい出さないであげるわよ」
つまり、夜の平穏を昼で買えと。
少々の沈黙の後、ジューダスは再び盛大なため息を吐いた。
「交渉成立ね。
……残念ながら、まだこういう会話が出来る程のものは作れないのよね。材料の問題もあるし」
言いながらハロルドは目についた店の商品を購入する。次いであからさまに怪しいラベルの瓶に伸ばした手を、ジューダスは引っ掴んだ。
「何よぅ」
「よく分からんものを買うな」
「だから分析したいんじゃないの。ま、予想はついてるけど」
「ならますます買うな!」
どうせ被害を受けるのはロニだが、自分にまで矛先が向かないとは限らない。
はいはい、と口を尖らせながらもハロルドはあっさりと手を引っ込めた。
「やっぱりフィールドワークも重要ね。いい刺激になるわ」
振り回されるこっちの身にもなれと言いたい。
「あんたもほら。あそこの菓子屋の商品、見たことないんじゃない?」
言われて目をやると、確かに知らない菓子だった。多種多様な料理や菓子の作り手がいたアジトでも見たことがない。
ハロルドは素早くそれを六つ購入して、ジューダスの持つ紙袋の中に入れた。
「さーて、次行くわよ、ジューダス」
甘い香りが鼻をくすぐる。
「
……まったく。お前は放っておくと先程のような危険なものを買うだろうからな。仕方ない」
こうなってしまった以上、お目付け役を全うするしかないだろう、と結論づける。
ハロルドはからかうような、何かを含むような、けれど何も言わず、ただただ楽しそうに笑った。
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