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usauta777
2023-01-16 22:32:35
2897文字
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傳が膝枕してるだけの話
おで傳。
ヒマなのでボツ導入を供養。おつまみ程度にどうぞ。
傳ジローはおでんの前にドンと紙の束を置いた。
錦えもんと一緒に作った、おでんに目を通してもらいたい書類の束だ。おでんは案の定嫌そうな顔をした。
こんなとき、嫌なのを我慢して何でもないような顔をするというようなことはこの人にはできない。なんでも顔にでるのだ。
傳ジローはとりあえず、「仕方ないなあ」という顔をした。おでんの前に積み重なった書類を三分の一だけ取って、残りを「これでどうですか?」と差し出し直した。
おでんは三分の二が残った書類を前に、また嫌そうな顔をした。
傳ジローは、困ったような顔をして「じゃあこれがほんとうに最後ですよ」と言ってもう三分の一の書類を取って「これだけどうぞ」と言った。
おでんの目の前には最初に積まれた書類の束の三分の一の量が残った。
するとおでんは「ほんとうか?!」とでも言いたげに顔を明るくした。
真っ赤なウソである。
ほんとうは最初からその量しか見てもらう必要はない。
おでんが座業を嫌がるのなんてやらせる前からわかっている。だから、書き損ねだとか不要な紙も重ねて三倍の量の紙束に見せかけていただけだ。
朝三暮四とはこのことである。
この主がアホでほんとうによかった。喜ぶおでんを見て傳ジローはにっこりと笑った。
「ではお願いします」
傳ジローはおでんの前から取った紙束を抱えて部屋に戻った。それでもやはりあのおでんのことだ。すぐに様子を見に戻ろうかと思った。
おでんは隣にいられると見張られているようで嫌だというが、見張っていないと逃げ出すのは間違いない。見張られるようなことをしているのがいけないのだが、おでんはそもそもこの国からすら外に出たいのだ。こんな城の一室で書類と何時間もにらめっこするなんて猿に逆立ちさせるより何百倍も無理な話なのだ。
傳ジローは偽の紙束をまた使うときのために大事にしまって、おでんの部屋に戻った。おでんは一見真面目に書類に向かっていて傳ジローは「珍しい」と思った。
だいたい少しでも目を離すと遁走しているか、横になっている。一瞬で休憩していることもある。
だが、そんなときも怒ってはいけない。
猿に逆立ちさせるのの何百倍の根気が必要なのだ。
「やれ」と叱って素直にやるなら何の苦労もない。
しかし子どもでもないのだから下手に褒めそやすのもなんだかおかしい。傳ジローは真面目に仕事をしているおでんを認めて自分の仕事に戻ろうと廊下に続く障子を開けた。
すると、顎に手を当てて考え事をしていたおでんが傳ジローの背後を見て大きく口を開けた。
何かを見つけて驚いたみたいな顔だ。
傳ジローは自分の後ろに何かあるものと思って後ろを向いた。
何もない。
おでんの方を振り返ってみると、今度は頬を膨らませながら頬杖をついて書類に目を落としている。かと思えば額に指を当てて困ったような顔もしている。
わかった。と傳ジローは思った。
これは飽きてきている。
すこぶる飽きてきているけれど、逃げるに逃げられず、休むに休めず、とりあえず精一杯頑張っている姿だけ見せているという感じだ。
傳ジローが観察していると、おでんはそのまま「もうこれ以上は無理だ」とばかりに顔を顰め、そればかりか大袈裟にもがき苦しみ始めた。そして苦しみながら自分が座っている隣をトントンと叩く。
傳ジローは「はいはい」といいながらおでんの横に正座した。
息絶えたおでんは座った傳ジローの膝に頭を預けて横になった。
「ふぅ~死ぬとこだった!」
「何を言っているんです。どこまで目を通されたんですか」
「最初の真ん中くらいだな!」
傳ジローは頭痛を覚えた。少しも終わっていない。始まってもいない。
おでんはとにかく肉体的にも精神的にもなんにでもいつまでも耐える人なのに、これだけはいけなかった。
「傳、代わりにやってくれ
……
」
「それじゃ意味ないでしょ」
「じゃあここで聞くから読み上げてくれ
……
」
「めんどくさっ!」
しかしどちらにせよ、ここで見張っていなければいけないのであればそれもありかと傳ジローは思った。こんな様子では終わるものも終わらないだろう。いや、どう考えても確実に終わらないに決まっている。だがこのまま膝枕でこの量を読み上げろというのかとも思った。
甘やかし放題甘やかしている気もする。
でもこの人が何かに甘えるというのは稀なことだった。
これはよっぽど困っている。
「じゃあ、少しだけですよ。全部はダメです」
「おう!」
傳ジローは譲歩した。ギリギリこれ以上は一歩も譲れないというところである。文字通りの殿様仕事だが仕方がなかった。どことも知れない所に逃げられて城のみんなで探しに出るよりは百倍マシだ。
「それでは
……
『一、乙に当たる者の処遇について
――
』」
暫くそうして書類を読み上げて行った。
「なるほどなあ」
おでんはやたらと納得していた。
傳ジローは膝が痺れてきていた。
「なにがなるほどなんです」
「わかりやすい!」
「それは何よりです。この続きはご自分で
――
」
「眠くなってきた
……
」
おでんは膝の上でウトウトしはじめた。幼子の面倒をみるより面倒くさい。
「待ってください。寝るなら枕を持ってきますから。おれもう膝が
……
」
大きなおでんの頭を乗せ続けた膝は限界だった。しかしそう言い終わる前におでんは白目を剥いて寝ていた。いびきまでかきはじめている。
うるさいし、寝顔も全然かわいくない。
書類はいつの間にか三分の二くらいまで読み上げてしまっていた。残りはあと三分の一だ。傳ジローはそれを眺めて思った。
(まあ、いいところかなあ
……
)
膝は痛いし、喉は疲れた。でも苦労した甲斐もあって進捗はまずまずだ。
そして寝ているおでんを眺めながら思う。
(まったく
……
『馬鹿な子ほど可愛い』っていうけど、こういうことなのかな
……
)
「どいてくれないと困るんですが
……
おでんさま
……
?」
図体のでかいおでんは頭だけでも余人と比べ物にならない。
重いには重いが、居なければこの九里は柱がないも同然だ。そう思ったら居るだけでだいぶマシかと傳ジローは思った。
この人に居なくなられると皆困る。困るけれども、この人は別に皆がいなくても困らないのだなと心のどこかで思った。
だから、きっと根無し草のように、それこそ海の外にでもどこにでも行ける。
こんなふうに金だ政務だと自分が頼られるのも、寄ってたかって皆でおでんをここに閉じ込めて置いているからだ。
傳ジローは、毎日のことが忙しいばかりで海の外を夢見るなんてことはできなかった。そんな余裕などない。いつかおでんが海の外に行ってもいいようにとか、何かに備えるなんてことはできなかった。
でも、そんなときでもこのおでんの頭の中はどこまでも自由で、広い世界が広がっているのだ。
「いつか
……
行けるといいですね
……
」
そんなことは夢物語のようにも思えた。
しかしできるなら、夢物語にしておきたいとも思った。
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