usauta777
2022-01-19 19:58:12
1815文字
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もらった百両がすぐさま消えていく話

おで傳。ギャグ。明けの別れのおまけ。今相撲一月場所やっててなんか…やりそうだなと思ったから。傳が🍢さまの傍に居たかったのって、傳が🍢さまが好きってのもあるけど、🍢さまも悪いと思うんですよ…

 百両である。こんな金が手元に残るのは、康イエから金を受け取って以来だった。
 傳ジローはその額を帳面につけてほっと肩を撫でおろした。これで今月はどうにかなるかもしれない。
 それに、この九里に繰り越しができる。貯蓄である。積金、貯え、預金だ。そんなものおでんがこの大名となってからひとつもできたためしがない。
 もちろん百両そのままを残すことはできないだろうが、少しでも貯えがあるというのは安心するものだ。
 ああは言ったものの、おでんには少し高い煙管を買おうか、いやそれでは貯えが目減りする。
 ああでも――そう思いながら傳ジローは少し多めの金を持って城の虎口を出ようとした。
 すると菊之丞が犬猫と一緒に向こうから歩いてくるのが見えた。楽しそうだ。
「あ、傳ジローさん」
 こちらに気づいた菊之丞が駆けてくる。
「おかえり」
「さっきおでん様と行き会ったんですよ」
 傳ジローは海へ行くと言っていた主を思い出して言った。
「ああ。この寒いのに海に行くって言って……
「え……
「え? どうかした?」
 菊之丞は傳ジローの言葉に少し首を傾げて、口に手をあてた。傳ジローは何か嫌な予感がした。
「それが……町にいってきたんですが、お相撲さんがいっぱいいて……
 相撲の巡業である。正月からこの九里で巡業など珍しい話である。
「おでん様、『そりゃあおもしれえ』って……それで……
 傳ジローは、しばらく寝ていて鈍った身体の下ならしよろしく褌一丁になって四股を踏むおでんを思った。
 それはいい。
 かっこいい。
 かっこいいだけだ。
 少なくとも傳ジローはかっこいいと思う。
 でもそうじゃない。
 問題は、小正月を十日も過ぎたというのに、土俵から打ち出され、吊り屋根を突き抜けて次々と投げられ、神棚からまろび落ちた鏡餅のごとく町に転がる力士たちの姿である。
 力士だって人間である。傳ジローから見てもまるで小山のような大関、横綱ならともかく――いや大関だって横綱だって変わらないのだ。
 おすもうさんは、百回殺しても死なないようなあの馬鹿とは違って、ちゃんとした人なのである。
 しかも今は昼を過ぎてまだ一刻ほどだ。取組が始まっているとしたらまだ相撲を取っているのは序ノ口の相撲取りである。読んで字のごとくそれは序ノ口の力士である。大関、横綱などよりもただの人に近いのだ。
 山で大猪相手に大立ち回りするおでんになど簡単に投げられるだろう。
 きっとつきたての餅より簡単に投げられる。
 だって、つきたての餅は粘って熱いもの……
 あの馬鹿だってつきたての餅とぶつかり合ったら、投げる前に「あちち」と悲鳴くらいはあげるだろう。
 餅も餅でもし四ツに組んだらだいぶ粘りつくだろう。身体に。
 そうではない。
 違うのだ。
 餅を投げる話はしていない。
 傳ジローは眼鏡の奥から遠くを見ながら菊之丞に言った。
「ねえ菊……土俵って幾らだと思う……?」
「え……
 菊之丞も傳ジローの言葉に何かを感じたのか顔を強張らせた。
 主が相撲を取るとしたら土俵は壊れるだろう。壊れるのではなく壊すだろう。吊り屋根も、人垣も、民家も、相撲取りもおそらく同じである。
 傳ジローの手元には百両しかない。さっきまでは百両もあると思っていたのに。
 ふと町の方を見ると人の流れができていた。遠くから歓声のような、叫び声も聞こえる。傳ジローは青くなった。
 それは九里の貯えが消えていく音である。
「お……おでんさまああああ!!!」
 傳ジローは走った。
 九里のためである。
 こんなに思い切り走るのはどれくらいぶりだろうと思うくらい走った。
 やっぱりあの馬鹿を外に出そうとしたのが悪かったのか。
 こんなことなら城で大人しく縦にでも横にでもなっていてもらったほうが百倍よかった。
 傍で見ていないと何をやらかすか分かったものではない。
「もおおおおおお!!!!」
 おでんは序ノ口どころか、序二段、三段目の力士をふっ飛ばし、幕下、十両、幕内は平幕から横綱までに見事に土をつけていた。
 打ち壊した土俵と吊り屋根はしめて十五両だった。
 その他壊したものを合わせて全部で二十両無くなった。
 全然反省していない主は口だけで「わりィわりィ」と言って謝った。
 傳ジローは主に、約束通り安い煙管を買って与えた。
 主はそれを大層喜んだ。