haru_haru0704
2024-07-31 00:23:14
3039文字
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深夜の2階

カカロ×忌炎 全年齢
※マフィアでも闇医者でもなくなってしまいました

「忌炎君、勉強もほどほどにね。僕はもう帰るから、適当なところで切り上げなよ?」
「はい、先生。お疲れ様でした」
先生は手を振りながら帰っていった。
彼の言うように、そろそろ俺も帰るとしよう。
ふぅと息を吐き、漢方薬の図鑑を閉じる。
立ち上がり、図鑑を本棚にしまい、薬局の裏口に向かう。
裏口を外側から施錠し、近くにある階段を登って2階へ。
ここが、今の俺の居場所だ。

*
カカロのところから逃げ出した後、俺はまず実家に向かった。実家は取り壊されていて、もう何も残っていなかった。
その後はバイトをして、なんとか日銭を稼ぐ毎日だった。
本当は学校に行きたかったのだが、学費など到底払えるわけがなく、諦めるしかなかった。
そうして1年ほど過ごしただろうか。
俺は偶然、漢方薬局の先生と知り合い、そして彼の薬局で雇ってもらえることになった。
そこから2年間、先生のところで働かせてもらっている。
まだまだ勉強すべきことは沢山あるが、やりがいのある仕事だ。
先生は俺の生い立ちにとても同情的で、薬局の2階が空いているから、と無料で住ませてくれた。
先生は、とても優しい人だ。

*
ふと、深夜に目が覚めた。
もう一度寝ようと目を閉じるが、なかなか寝付けない。
「はぁ・・・」
仕方ない。眠気がやってくるまで、窓の外でも眺めていよう。
カーテンを開けると、明るい月が見えた。今日は満月のようだ。美しい。
「・・・・・・」
月を眺めていると、じわりと寂しさを感じた。
あれからもう3年も経ったのに、いまだにカカロのことは忘れられない。
もう一度、会って話がしたい。
以前、我慢できなくなってカカロに会おうとしたことがある。しかし、会えなかった。
彼は、失踪したらしい。
複数の人間がそう言っていた。だからきっと、それは真実なのだろう。
「カカロ・・・」
会いたい。会いたくて仕方がない。
自分の意思で彼の元を離れたのに、なんて我儘なんだろう、俺は。
「・・・?」
ふと、視界の端に何か白っぽいものが見えた。
月光の下、誰かが1人で、歩いて、いる──
「カカロ!?」
あのきらきら輝く長髪は。
慌てて窓を開ける。
「カカロ!カカロっ!」
外に向かって叫ぶ。
彼は気付いて、こちらを見た。
やはりカカロだ。間違いない。
俺は窓を乗り越え、2階から飛び降りた。
着地した衝撃で足が痺れたが、そんなことはどうでもいい。
「カカロ!会いたかった・・・!」
慌てて駆け寄る。
カカロの前で止まるつもりだったのに、足が痺れていたせいで、彼の胸に飛び込む形になった。
「忌炎・・・本当に、忌炎なのか」
彼は、信じられないという顔をしていた。
この再会は、彼にとっても偶然の出来事だったらしい。
「3年で俺の顔、忘れたのか?」
冗談めかして言うと、彼は苦笑した。
「そんなわけないだろう。俺もずっと会いたかった」
すり、と頬を撫でられる。
その手つきも、俺を見つめる瞳も、とてもとても優しくて。
思わず、泣きそうになった。
「俺・・・お前のところから逃げたのは、正しい選択だったと思ってる。俺はどうしても、裏の世界では生きたくなかった。お前がやってる仕事も、許せなかった。でも・・・」
頬に添えられた手に、自分の手を重ねる。
彼の手は、あたたかい。
このぬくもりが、ずっとずっと恋しかった。
「お前に会えないのは、本当に辛かった。お前のこと、大好きだったから。・・・今も、大好きだ」
カカロは、どうだろうか。
俺のことをまだ愛しているのだろうか。
いや、きっと。
きっと、愛の深い彼なら。まだ。
「忌炎・・・」
すぅ、とカカロの目が細まる。
顎を掬い上げられ、思わず目を閉じた。
直後、唇に柔らかいものが触れる。
俺はどうしたらいいか分からなくて、ただじっと固まっていた。
ぬるり、と舌が唇を這う。
「っ・・・!」
開けろ、と言いたげに唇を舐められ、薄く口を開く。
すると舌が侵入してきて、口内を舐めまわされた。
「ん・・・ぅ、ふっ・・・」
ぞくぞくして、気持ちいい。
よく分からないなりに舌を差し出して、ぬるぬると絡め合った。
くちゅ、ぴちゃ、という音がやけに大きく聞こえて、少しだけ恥ずかしい。
「ん・・・!」
つうっと背をなぞられて、身体が震えた。
興奮と快楽で息が上がる。
苦しい。
でも、やめたくない。
カカロの首に腕を回して、しがみつく。
ふっ、と彼が笑った気がした。

***
「は・・・、はぁ・・・」
唇が離れていく。
少し、名残惜しい。
ずいぶんと長いこと、キスをしていたというのに。
「忌炎。俺はもう、裏社会から足を洗った。それだけで俺の罪が許されるわけではないが・・・お前のそばにいることくらいは、許されるようになっただろうか」
カカロは、俺の目をまっすぐ見つめて言った。
その目は真剣そのもので、俺は思わず笑ってしまった。
「もちろん、許すよ。そばにいてほしい」
そう言うと、カカロはほっとしたように笑った。
その笑顔を見て、俺も嬉しくなる。
「・・・なあカカロ、これから何か用事があるのか?」
「ない。ただ歩いていただけだ」
「じゃあ、俺の部屋に来ないか?ベッドは小さいけど、何とかなると思う」
じっとカカロを見つめる。
そして、じっと見つめ返される。
不意に、彼は眉根を寄せた。
「意味を分かって言っているのか?」
「当たり前だろう。もう子供じゃない」
「そうか。・・・そうだな」
カカロは頷いた。
彼に手を差し出すと、ぎゅっと握られる。
何だか気恥ずかしくて、不格好な笑みを浮かべてしまう。
カカロも、何ともいえない顔で笑っていた。
「こっち。ついてきてくれ」
「ああ」
手を繋いだまま、薬局の2階に向かう。
階段を一段ずつ上がる度、緊張と興奮で胸が騒がしくなっていく。
何とか階段を上りきって、そこでふと気付く。
そういえば、鍵を持っていない。
「どうした?」
「いや、鍵を持っていなくて・・・でも大丈夫だ、ここに非常用の鍵を入れてある」
ドアノブに引っ掛けられた、ダイヤル式のキーボックスを指さす。
先生からもらったスペアキーを、念のためここに入れておいてよかった。
「すぐ開けるから・・・」
ダイヤルを回そうとするが、緊張で指が震えていて上手く回せない。
カチ、カチ、と必死に回す。力みすぎて、狙った番号を通り越してしまった。
焦っていると、カカロがすっと背後に立った。
そして、耳元で低く囁く。
「あまり手間取ると、ここで抱いてしまうぞ」
「ひ、ぅ・・・」
囁かれただけなのに、背筋がぞくぞくと震えた。
かぷ、と耳たぶを噛まれる。
駄目だ、もうダイヤルを回す余裕なんかない。
「あ、待っ、カカロ・・・!」
「はは、冗談だ。俺としても、こんなところで初夜を迎えたくはない」
カカロの指が、するりと俺の指に絡む。
「ほら、貸してみろ。番号は何番だ?」
「っ・・・、7930・・・」
カチカチカチ、とダイヤルが回されていく。
そして、ガチャリと音がした。
カカロはキーボックスを開き、中に入っていた鍵を取り出すと、俺の手に握らせた。
「ほら、扉を開けてくれ。それならできるだろう?」
「う、ん・・・」
震える手で、鍵を鍵穴へ差し込む。
この扉を開けたら、俺は。
──カカロに、抱かれるんだ。
手首を捻る。
かちゃん、という音がした。
もう戻れない。
戻れなくて、いい。