ざ、ざざ。波が地平線に引っ張られては足元へと帰ってくる。前を歩く相手の素足が白波に透かされてきらきらと眩しい。これは、オレが彼を好きだからだ。実際には彼は海辺を歩いているだけなのに、その夕焼けに照らされた姿はひどく美しく見えた。いや、彼が美しい人であるのは事実なんだが。
「オレさま、本当はさ」
オレの最高のライバルが背を向けたまま口を開く。歩いているようでその実波打ち際の白い水を揶揄っているだけの足がゆっくりと止まり、ただただ海の端っこに浸かっているだけになる。
「どこかでずっと、オマエの眼に映っているのはポケモンとオレだけだと思っていたんだよな」
彼は派手なアローラ柄の短パンから突っ込んでいた手を抜いて顔を横に向ける。海に投げられた視線はサングラスの反射でよくわからない。
振り返ったのかと思った。まだ、顔を見られたくないような気がした。見られても問題のない顔ができている自負はあるが、一方的に彼を見ていられるこの時間がもう少しだけ欲しかった。
言葉を間違えないように、と考えながらも、踏み込みたいと思って首を振らずに頷く。
「合っているぜ。その通りだ」
「フフッ! だが、全部じゃないだろ」
海原を眺めていた瞳がこちらへと向けられて、自然なことのように距離を置かれた。大きな口から八重歯が覗いて、可愛いな、などと場違いなことを考える。
「……全部だぜ。ひとつじゃない、だけで」
彼相手に誤魔化しが利くとは思っていないのに、咄嗟に言い訳のような言葉を並べ立ててしまう。だが、偽りのない本心だった。
「それは結局のところ全部じゃねえんだよなあ。……少なくとも、オレさまにとっては」
サングラス越しに凪いだ瞳と目が合って逸らせなくなる。見透かされているようで、窺っているような、僅かに諦観のこもった揺らめきを感じた。
いけない、このままでは。離れてしまう。オレのライバルなのに。
「キバナ」
「……」
視線だけで返事をされ、再び背を向けられる。歩き出した彼の肘を慌てて掴んで引き留めた。潮風にあたって肌寒いはずなのに、オレの手のひらは火傷したように熱い。きっと、この熱さは彼にも伝わっているのだろう。海とオレの気持ちよりも少しだけ明るい瞳が僅かに見開かれている。
聡明で繊細な彼に遮られる前に先手を打つ。
「キミが好きだ。ずっと昔から」
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