orikoriko1125
2024-07-29 23:01:55
2243文字
Public ちびすぐ
 

スグリが小さくなる話⑤

ネリネ様と海に入りたいよね

 「やだー!あっちさみる!!」
「ダメ!!まずこっちに来なさい!」
友人であるゼイユが怒りながらスグリの手を引きこっちへ向かって来た。
周りのクラスメイトが「ママ大変〜」「公園でよく見るシチュエーション」「スグリくん元気いっぱい!」と好き勝手言い出す。
ゼイユの弟スグリが小さな子供になってから二日目、今日はテラリウムドームでの授業のため先生からの許可を得てスグリと共に出席して来たのだ。
普段のスグリをそのまま小さくしたような姿は本当に可愛らしく、ネリネの心をまた苦しくさせる。
「ハァ……、まだ何もしてないのに……疲れたんだけど?!」
「ネリネおねーさん、こんにちは!」
……こんにちは。今日は一緒に頑張りましょう」
結局姉に抱えられて登場したスグリが笑顔で話しかけてくれた。今日はリオル模様Tシャツ、幸先がよい。

 「それでは初めて下さい」
今日の授業はコーストエリアの浜辺で水辺のポケモンの観察と捕獲。
濡れるので久しぶりに指定ジャージに袖を通した。
「スグ、海さ見たの初めて」
海と言ってもテラリウムドーム内の自然は全て人工物である、がこんなに小さな子に伝えてるのも無粋だ。きらきらと金色が輝いて見える。
「スグリは泳げますか?膝の高さまでしか進んだらいけませんよ」
「川では泳げるけど、海はわかんね。でも浮くんだよね?」
ネリネの左手をしっかりと掴んでいるのは約束を守るという意志表示なのだろう、しっかりと口を結んでいる表情はいつものスグリと同じだ。
「コーストエリアの海も浮きますよ、海には塩があってその塩分で物が浮きます」
ふと見ると口が空いていていた。それもいつもと同じでかわいいなと思う。
わかんね、でも浮くからねーちゃんも大丈夫だべ」
浜辺で膝を抱えてる姉に目を向ける。ゼイユは泳げないのでここから見張って課題をこなすつもりらしい。
険しい顔でスグリを眺めている、この距離で会話は聞こえなそうだが。
「浮いたとしても水が苦手なポケモンは水辺には近寄りません。ゼイユもきっと同じ」
「ねーちゃんギャラドスみてーにこえーのに……
かつて弟に似てると評されたと話していたが、本当なのだと思わず吹き出した。スグリも笑う。
……それでは参りましょうか。スグリの興味のあるポケモンを教えて下さい」
「んだば、あれは?」
「あれはアシマリ」
「あれはー?」
スグリを見ている時の胸の苦しさが少し落ち着いてきた、とネリネは気がついた。
その代わり胸が温かくなるような懐かしいような気持ちになった。見慣れたはずのコーストエリアもポケモンも、何もかも新鮮に楽しむスグリと共にいればまた違って見える。
……海って、わや楽しい!」
「そうですね、ネリネもスグリと過ごせて楽しく、思います」
にへへ、と笑うスグリを見つめて、授業中だった事に気がつく。
その時、ジャージのポケットに入れていたボールが少し、揺れた。
……?」
ゼイユから『悪いけど、預かってて』と渡されたスグリのポリゴンZ。慌てて取り出した瞬間、ボールから飛び出した。
「あ!」
「うわっ!」
驚いた衝撃でスグリが尻もちを付く。そのまま背中から倒れ、全身が水に浸かった。
「スグリ!!」
大事な友人の大事な弟、任せられている身で怪我をさせる訳にはいかない。
ゼイユが向かってくる姿が遠くから見えた。
騒ぎの元はのんきにいつも通り不思議な動きをしている。
慌てて体を起こし、水をのんでいるかもと背中を叩いた。
「ゲホッ、ゲホッ!!」
「苦しくないですか?」
「スグ?! 大丈夫?」
立ち上がらせて呼吸が落ち着くのを待つ。幸いそんなに水を飲んではいなかったようだ。スグリは大きく呼吸をすると
わや、しょっぺ!! ほんとに塩さ入ってる!!」
無邪気に大笑いした。今度はネリネが脱力して膝をついた。メガネが曇る。
ポリゴンZはただスグリに会いたかっただけなのか、スグリの元へ進んで頭の上でくるくる回った。
「無事で良かった
「スグ、大丈夫なの? あと海怖いんだけど! ネリネも立ち上がってよ」
様子を見ていたクラスメイトも集まってきた。
「ネリネ立てる?」
「スグリくん上がってお水飲みな〜」
「ゼイユちゃん入れてるじゃん!」
先生の集合の合図が聞こえた。

「ネリネは寿命が縮まった気持ちです。ゼイユ、スグリ本当にごめんなさい」
「スグが勝手に転んだだけだし、元気だから気にしないで。でもこのあたしを海に入らせたのは今までの人生でネリネだけよ、さすがやるわね
「ねーちゃんも海入ろう、わや面白いよ」
砂浜に座り水分を摂りながらニャオニクスを眺める。
「ネリネおねーさん、ごめんな。スグが転んでびっくりした?」
スグリが袖を引いて話しかける。大変な思いをしたのは自分なのに、気遣ってくれる優しさはこの頃から変わらないのだなと落ち着いたはずの胸が苦しくなる。
「びっくりしました、ネリネこそ止められず申し訳ありませんでした」
「ネリネのせいじゃない! だからまた一緒に海さ入ろうな!」
小指を立てて指切りの仕草をしてきた。
遠慮がちに小さな小指とネリネの小指が絡んだ。
「ゆびきりげんまん、うそついたらドガースのーます、ゆび切った!」
元に戻ったらきっとこの約束は忘れてしまうだろうけど、なぜかそうであって欲しいと思う。
人工の海の照り返しがいつもより強く感じてネリネはメガネをずらした。