梶間
2024-07-29 17:07:34
1613文字
Public 獅子ライ
 

星の彼方より

某賞授与式の獅子ライが一緒に星を見てるイラストかわいすぎた

「ライオス!星を見に行こう!」
そう言って無遠慮に扉を開け放って飛び込んできた兄に、ライオスは怪訝な表情を返した。
「なんだ突然」
「良い場所を見つけたんだ、ほら今日は寒くて星がよく見えるだろう。いいから早く」
寒いのは得意だが、もう風呂も済ませて後は寝るだけだったところに突然の外出はあまりに面倒臭い。兄はお構いなしにぐいぐいと腕をひっぱるが、全力で身体の力を抜いて抵抗する。
「流星群とか彗星ならまだしも行きたくない」
「私は今日見たい今見たい、なあ少しくらい付き合ってくれても良いだろう」
「えー」
「ならお前が欲しがっていたなんたらドラゴンチョコレート買ってきてやるから」
「トリプルヘッドドラゴンな。うーん、じゃあいいよ」
「やった!」
嬉しそうに飛び跳ねる兄を見て、なにがそんなに嬉しいのかとライオスは首を傾げた。今日はこれといって特別な天体ショーは無く、本当にただ普通に寒くて普通の星が見える日のはずだ。
着替えを済ませてダウンコートを羽織り、兄所有の車に乗り込む。
運転席の兄はずいぶん瞳を輝かせていて、ドラゴンの話をしている自分もこんな顔なのだろうかとライオスはぼんやり考える。

やがて車は近辺で有名なキャンプ場へと辿り着き、双子の兄に案内されるまま着いていくと湖の側に設営されたテント一式があった。ご丁寧にキャンプチェアが二脚設置されている。
「キャンプするならそう言ってくれよ、適当な服しか着てない」
「足りなかったら私の着替えを使えばいい」
幸い双子の兄弟らしく身体のサイズがなにからなにまで同じ大きさなのでお互いの衣服を借りて困ったことはない。
それならまあいいか、と思いライオスは椅子に座って星空を眺めた。
すぐ側にある湖にも満天の星が映り込んでおり、確かに見応えのある星空だった。
ライオスが椅子に座っている間に、兄は焚き火を起こしたり飲み物を淹れたりしているようだった。
ちょっと冷えてきたな、と思った絶妙なタイミングでシェラカップに入った熱いコーヒーが手渡される。
火傷に気をつけながら少しずつ飲み始めると、兄も椅子に座り星を眺め始めた。

「良い星空だろう」
「確かに綺麗だな」
「手が届かないくらいずうっと上にある。遠い星というのは、良いものだな」

兄は昔から妙な物言いをする。なんでも前世の記憶がありそのときは人間ではなかったから今世が新鮮だとか言っていたが、小さい頃もっと聞かせて欲しいとせがんでもはぐらかされ、やがて成長してからは思春期特有の麻疹みたいなものだろうと放っておいた。成人前にはすっかり言わなくなっていたのでそういうのは卒業したのだろうと思っていたのだが。

「なんで星が遠いと良いんだ?」
「昔の私からすると星というものはいつも足元にあったんだ。近すぎて眩しくて、それでいて踏むとすぐ壊してしまいそうで。大切にしたかったのに壊してしまうこともよくあった」
「ふーん」
「それが今だとこんなに遠い。目に見えるのに今生きている間に触れることは無理なんだろう。それがこんなに浪漫があって焦がれるような気持ちになるなんて、人間というものはつくづく不思議だよ」

兄が本当に前世は人間でなかったというなら、今世で双子に生まれた自分はなんなのだろうか。

「兄さんは人間じゃなかったと言うけど、じゃあ俺の前世は?」
「お前は人間だったよ」
「じゃあなんで双子になったんだ」
「それは、そうだなあ。最後は双子というか一心同体みたいなものになったからかもしれない」
「はは、なんだそれ。その昔話は初めて聴いた」
「私が世界の中心みたいなもので、お前はそれを食い尽くした竜みたいな人間だったよ」

ほら、ちょうどあそこに見える北極星とりゅう座のように。

兄が指差した星空には、北極星とそれを取り囲むように星々が輝いていた。

焚き火の薪がはぜる音を聞きながら夜が更けていく。