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饗李
2024-07-29 13:43:38
2431文字
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誕生日。
跡部夢、名前変換有。
跡部景吾の誕生日にプレゼントを渡す話
瑠梨
瑠梨
饗李
パタパタと廊下をかける。腕に抱えているのは、会長に提出しなくては行けない書類と、華麗にラッピングされたそれを入れた紙袋。
瑠梨
ちゃんにお願いして、いっぱいいっぱいたくさん悩んで一緒決めたプレゼントは、果たして喜んでもらえるだろうか。
――
十月四日、跡部先輩の誕生日。何となく氷帝学園中がそわそわして嬉しそうなのは、多分みんな跡部先輩のことが好きでお祝いしたいから。
かく言う私も浮かれている人のひとりで、それなのに中々プレゼントが渡せなくて。
瑠梨
ちゃんに「頑張って選んだのだから渡してきなさい。後悔、したくないでしょう?」なんて背中を押して貰って。
どれだけ距離感に慣れても、やっぱりドキドキしてしまう。生徒会室の前まで着いて、はぁと息を整える。大丈夫、平気。軽くノックをしてから扉を開けた。
「
……
あれ、誰も居ない
……
?」
生徒会室には人っ子一人いる様子が無かった。いや、先程まで人がいた気配はあるけど。
……
そう、か。そうだ。あの跡部景吾が、誕生日に、一人でいる時間の方が少ない。
そう思ってしまうと、ズキリと胸が痛くなる気がした。
付き合っていても、特別じゃない。ううん、氷帝だとあの人は誰かひとりの特別になんてなれない。だって、
王様
キング
で、会長で、そんな素敵な跡部先輩が皆好きだから。
……
そんな跡部先輩に惚れたのも、私。
何とか待つ理由を探したくて生徒会室で自分が使っている机周りを見るけれど、こんな日に限って書類は全て終わらせていた。今持っているものを確認してもらえば、必要なことはほぼ済んだと言っても過言では無いだろう。
そうだ、そろそろ吹奏楽部が忙しくなるから、と仕事の量を減らしてもらっていたんだ。この部屋にいる、理由がない
……
。
ガサリと腕に下げていた袋の音が鳴って、思わずそちらを見る。自分の机にぶつかってしまっていたようだ。これじゃ折角丁寧にしたものが台無しになってしまう。そこまで考えて、ハッとした。
何を弱気になっているんだ。あんなに悩んで背中を押してもらって、特別に映りたくて頑張ったじゃないか。いる理由なんて、いくらでも作っていいだろう。
荷物を置いて、椅子に座る。とりあえずどうしよう、なんて自分の鞄の中身を見ていれば、ふと目に入るのは授業中に貰ったプリント。
……
待ってる間、勉強をしていればいいか。まだ、下校するまで時間はたっぷりあるんだから。
――――
次に意識が周りに向いた時は、下校を知らせるチャイムがなった時だった。
私が来た時と変わらず部屋は静かなままで、
あの人
跡部先輩
は来なかったのだと実感する。
……
仕方ない、よね。テニス部だけで二百人以上いるんだし、その上ほぼ全校生徒の女子からもお祝いされてるんだから。たった一人のために時間なんて、割けるわけが、なくて。
ひとつため息を零して、片付けて帰ろうと席から立ち上がれば、目に入るのは紙袋。少し寂しそうなソレは、今日中に渡せるのだろうか
――――
ガラリ、と音が響く。
ば、と音のした方を見れば、そこに居たのは、待ち焦がれてた人、で。
「まだここに居たか」
少しだけ乱れた髪は、沢山お祝いされてきた証なのだろうか。
「
……
あとべ、せんぱい
……
?」
「恐らくまだここにいるだろうと検討をつけてたが
……
当たりだったみたいだな」
走ってきたのだろうか。軽く息を整える先輩に、じわりと胸が熱くなる。
そんなに、考えてもらえてたの? 私のためにわざわざ、廊下を走ってまでここに来てくれたの?
そこまで考えて、ハッとする。違う、今日の主役は彼だ。
こちらに近付いてくる跡部先輩に見られないように、後ろ手で紙袋を持つ。
「先輩、その、言いたいことと渡したいものがあって」
「
……
なんだ?」
私の問いかけに対する声音は、目線は、ありえないくらい優しい。じわりと広がっている優しさと温かさが、心地いい。
「
……
お誕生日、おめでとうございます
……
っ!」
心地いい、のはあるけれど。でも恥ずかしがり屋で照れ屋な私の方が勝ってしまうみたいで、ほんのり顔を赤くしたまま突き出すように彼に紙袋を渡す。私の手から壊れ物を持つように手に持った先輩に、ひとまず胸を撫で下ろした。
「開けるぞ」
「はい」
そっと綺麗にラッピングを解く先輩を見ながら、ドキドキそわそわしてしまう。
……
喜んで、貰えるだろうか?
「
……
キーホルダー?」
「雪の、結晶の
……
」
少し小さめの、水色のストーンがついたキレイめなキーホルダー。何となく、先輩っぽくて、つけてて欲しくて。
……
子供っぽい、だろうか。
問題は、この後だ。すう、と深呼吸をする。
「あの、それで、その
……
」
「どうした」
「
…………
お、そろい、なんです
……
、それ、」
自分の筆箱を出す。私の筆箱に珍しくついてるそれは、同じ雪の結晶の、ピンクのストーンがついた、お揃いのもの。
流石に、やりすぎただろうか。でも一緒に付けたくて、そうすればいない時も先輩を感じられる気がして。思わず顔を伏せてしまえば、沈黙が流れる。
「
……
饗李
」
「な、んですか
……
っ!?」
顔を上げるよりも前に、ぐいと引っ張られて抱きしめられる。突然縮まった距離感に、心臓が高鳴った。
「せんぱ
……
っ」
「もう少し、早く渡してくれても良かったんだがな?」
「だ、だって
……
最後に渡した方が、印象に残るかなって、」
「
……
お前から貰ったもんは、いつどこで貰っても忘れねぇよ」
ぎゅう、と腕に力が込められる。顔は見えないけど、どんな顔をしているのだろうか。
そっと、自分の腕も彼の背中に回す。精一杯腕を伸ばして、ぎゅう、と離さないように。
「
……
えへへ、せんぱい、すきです」
そう甘く囁いた言葉は、跡部先輩に届いただろうか。
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