溶けかけ。
2024-07-28 20:27:51
2272文字
Public ほぼ日刊
 

女神様はお怒りのようです

SCP財団パロです。
読む人を選びます。
素敵なアイデアをフォロワーさんからお借りしました。


「ここから出たい……

 ぽつりと零された言葉にヌヴィレットは記録を取る手を止めた。色違いの双眸は濁り、本来の輝きを失っている。

「それは出来ないことだと以前も言ったはずだが?」

「分かってるよ……言ってみただけ……

 体育座りをした膝に顔を埋めるフリーナは至って普通の少女のように見える――だが、彼女は普通の人間とは僅かに違っていた。

「海に行きたい……

 ここに閉じ込められて早数年。こうして彼女のカウンセリングを続けているが結果は芳しくない。特にここ数日は目に見えて憔悴してきている。

「あの人たちは大丈夫だった……?」

「ああ……勿論だとも。現在は記憶処理を施した上で財団の監視下に置かれている」

 あらかじめ用意しておいた台詞を唱える。フリーナはヌヴィレットをじっと見つめた後、小さく「嘘つき」と呟いた。

「なんで僕なんだ……

 悲痛な叫びに胸が痛む。
 SCP-182376-FT-1 それが今のフリーナの呼び名であった。



 アイテム番号:SCP-182376-FT-1 
 オブジェクトクラス:Euclid

 特別収容プロトコル:SCP-182376-FT-1はサイト-☓☓の標準人型収容セルに収容されます。担当研究員によるカウンセリングを最低でも週に一度以上、或いはSCP-182376-FT-1の要請があれば随時、実施されます。SCP-182376-FT-1が要求する嗜好品や装飾品は充分な量を提供することが許可されています。

 SCP-182376-FT-1に関与する際には、予期せぬ収容違反の発生を防ぐため、必ず財団研究員の■■■■■・ヌヴィレットの立ち会いの元、行ってください。同様の理由により、耳栓或いは遮音性の防護服を着用してください。また、SCP-182376-FT-1を映像や音声で記録する行為は禁止されています。

 説明:SCP-182376-FT-1は■■■歳のテイワット大陸出身の女性でフォンテーヌ国籍のフリーナ・ドゥ・フォンテーヌです。SCP-182376-FT-1は自身の異常性と監禁状態に起因する過度のストレスを抱えています。現在の不調に関しては■■月■■日に起きた収容違反が由来だと考えられます。

 説明:SCP-182376-FT-1は歌声による精神汚染が確認されています。該当研究者■■■■■・ヌヴィレット以外の者がこの歌声を聞くと十分以内に幻覚、幻聴の症状、或いはSCP-182376-FT-1の信奉者として振る舞うようになります。精神汚染を受けた職員が二人以上いる場合、SCP-182376-FT-1の信奉者はSCP-182376-FT-1の寵愛を競い合い、殺し合いを始めます。また、SCP-182376-FT-1の歌声を録音、録画したものを閲覧した場合にも同じ症状が確認されています。殺し合いに勝利した信奉者はSCP-182376-FT-1と無理心中を図ろうとするため、速やかな拘束の上、記憶処理を施し隔離監視を行います。症状の改善が見られない場合は■■■を行って下さい。
 収容違反が起こった場合は、該当研究者によるメンタルヘルスを要請の上、SCP-182376-FT-1の該当研究者以外の出入りを禁止します。
 追記1:SCP-182376-FT-2はSCP-182376-FT-1に良く似た姿をしたフォカロルスを自称する■■■歳の女性です。SCP-182376-FT-1に危険が迫った場合、あるいは該当研究者がSCP-182376-FT-1に接触した場合にのみ存在が確認されています。SCP-182376-FT-1はSCP-182376-FT-2の存在を認知しており、SCP-182376-FT-2のことをフォカロルス、またはもうひとりの僕と呼称します。
 ☓☓月☓☓日に起こったSCP-182376-FT-1の誘拐の際に出現し、誘拐犯を捕縛したことが確認されています。

 追記2:SCP-182376-FT-1は自身の従者を四人従えているという情報があります。従者の姿は原海アベラントに良く似ているとのことです。



「僕のフリーナが賊に誘拐されたんだったね?」

 書類整理をするヌヴィレットの前にフリーナそっくりの姿をしたフォカロルスが降り立った。――周囲の人間には見えていない。あくまでヌヴィレットの前にだけ姿を現した彼女はにっこりと微笑んで見せた。

「そのことについては既に解決済みのはずだが?」

「そうだね~。僕が捕まえなければ、今頃どうなっていたことやら」

 ヌヴィレットは机の上に置いた手を強く握り締めた。――分かっている。彼女がいなければフリーナの命、もしくは精神が失われていたかも知れないことは。

「ねえ、ヌヴィレット」

 フォカロルスがゆっくりと片手を上げた。ヌヴィレットの首元に薄く輝く短剣が現れる。

「僕は怒っているんだよ……君たち財団職員はフリーナをこんなところに閉じ込めただけでは飽き足らず、彼女に酷い傷をつけた」

「それは……

「言い訳はいらないよ。僕は警告しに来ただけだから」

 フォカロルスが歌う。――フリーナと同じ声で。

「次に同じようなことが起こったら僕はフリーナを連れ出すよ。その時は……フフッ……この比ではないことを心してもらおうか」

 フォカロルスの姿が掻き消える。
 後に残されたのは、倒れた職員と宙を見つめたまま立ち尽くすヌヴィレットだけであった。