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chiya_turb
2023-05-10 19:18:22
2233文字
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長義君とちっちゃいひぜんちゃん メイドの日
メイド服はこの後ちっちゃいひぜんちゃんのクローゼットの奥深くに封印される。
あのきれいな顔の男は、何を言っているんだろうか。
着慣れた和装に手を掛けながら、肥前は溜息を吐いた。
その顔に見合わないようなことすらしれっと言ってのけた付喪神は、今は肥前とは別室で大人しくしているはずだった。
これ、着てくれないかな。
溶けるような笑顔で差し出されたものを見て、肥前の眉間に深い皺を刻んだのが数十分前の出来事だった。
たっぷりの布が使われた黒い服。その上に乗せられたのは同じく多くの布が使われた白いエプロン。裾にフリルがあしらわれたそれが、エプロンドレスだと気付いてしまった肥前の口元が引き攣っても、長義の笑みは崩れない。
押し問答の末、結局着る羽目になってしまった肥前が、長義を部屋から追い出して今に至る。のだけれど。
「
…………
これ、あいつの趣味なのか
……
?」
受け取った布の塊の中から、黒い塊を掴んで広げれば予想通りの形が肥前の目の前に広がる。
白い小さな襟のついたワンピースはふんわりとした肩周りに、肘から下はきゅっと締まったていて。白い袖口には青い石の付いたカフスがついていた。
「
……
うわぁ」
何考えてんだあいつ、うわぁ
……
。
口から零れた声には、感心よりも呆れが滲む。
たっぷりとした布のワンピースは持ち上げてみてもしっかりと長さがある。丁度、肥前の踝くらいの長さ。
肥前の服のサイズを把握されていることは、とうの昔に分かっていることではあるけれども。それどころか、下着のサイズすら把握されているけれども。
「
…………
おねーちゃんには、言ったら拙いなこれ
……
」
肥前の姉貴分二振りの顔が脳裏を過る。その内最も危険なのは、このメイド服を手渡した男と殆ど同じ顔の姉貴分だということも、肥前はよく分かっている。
なんせ、あの綺麗な顔面に容赦なく拳をたたき込める個体なので。
同じ顔だから容赦が無い。その上、手塩に掛けて育ててきた可愛い妹分(姉貴談)が、自分と同じ山姥切長義に美味しく頂かれたというのが心底気に食わないらしい。筋を通せ先にやることがあるだろうと、自分よりも数センチ背の高い男の首根っこを引っ掴んで道場に連れて行ったのは肥前の記憶にも新しい。
何はともあれ、そういう訳で色々と問題のありそうなこの服装ではあるものの、一度着ると言ってしまった手前今更着ないわけにもいかない。
「どんだけ布使ってんだこの服
……
」
たっぷりの布をたぐり寄せてすっぽりと被れば、柔らかい布が肌の上を滑る。
するりと滑らかな生地はきっと高いだろうなと思うには充分で。
「こういうのに金使うのはどーなんだろうな」
ふわふわのルームウェアやら、絞り染めの浴衣やら。長義が肥前に与えたものは数知れず。
今までは特に使うものもなかったから、なんて惜しみなく財布の紐を緩めては肥前に与えるばかりで。
少しばかり居心地の悪くなった肥前が「おまえがおれに着せたい服とか有れば着るけど」なんてうっかり零してしまったのが、今回の切欠だった。それに今更後悔してないとは言わない。
悪いとは思わないでもない。でもだからって、メイド服を持ってくるか? 日本刀の付喪神が、メイド服をご所望で?
「わっかんねぇー
……
」
背中のファスナーを上げて、カフスをはめ直す。
椅子に置いていた白い塊を拾い上げれば、間からころんと何かが落ちた。きゅっと弧を描いた布のついたもの。所謂、カチューシャと呼ばれるそれ。
「いや、流石にこれは付けねぇぞ」
フリルたっぷりのエプロンはまぁ仕方ないとしても、カチューシャを付ける必要は無いだろう。
ふりふりのそれが自分の頭の上に乗る図を想像できなくて、肥前はぷるりと身を震わせた。
スカート丈同様長いエプロンを身に纏って、垂れ下がる紐をくるりと背に回してリボン結びにする。
部屋に備え付けられた姿見で背を確認しつつリボンの形を整えれば、鏡の中にはメイド服を身に纏った肥前がいた。
「違和感がすげぇ
……
」
黒いワンピースだけならばまだマシだったと思うものの、それを覆い隠すように被さる白いエプロンになんだか背中がむずむずしてしまう。
鏡の端に映る椅子にかかった白いふりふりを視界に収めてしまって、肥前の視線が泳ぐ。
右に左に。エプロンを摘まんだ指先が迷うようにきゅっと皺をつくって、それから。
「
……
乗せるだけだから。あいつには見せないし」
言い訳めいた言葉が零れる。
そうっと手を伸ばして、掴んだカチューシャを恐る恐る髪の間に差し込んでみれば、見慣れない白が頭の上にちょこんと乗った。
「うわぁ
……
あいつ、おれがこの格好したのが見たかったのか」
よく思いついたなあ、なんていっそ感心しつつカチューシャを取ろうと手を伸ばせば。
「肥前、もう着替えた? 開けていいよね?」
窺う言葉の割に遠慮の無い声が扉越しに聞こえる。
慌ててカチューシャを剥ぎ取って返事をすれば、数分ぶりに見た長義がそれはもう綺麗に微笑んだ。
「俺の見立て通りかわいいね。ふふ、肥前なら絶対に選ばないだろうから、偶にはこういうのもいいかなぁって思ったんだけど」
強引に外したせいで乱れた髪を触りながら、抱き上げられてソファに腰掛ける長義の膝の上に乗せられる。
支えるために胴に回ったはずの腕が、拘束だと感じるのはこの後の展開になんとなく嫌な予感がしたからに他ならない。
「
……
で。なんでカチューシャ外したのかな?」
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