chiya_turb
2022-07-05 20:51:04
2457文字
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彼シャツひぜんちゃん

せぇふのどこかのちょぎくんと、ちょぎひぜちゃん(https://privatter.net/p/8910246)の妹分のひぜんちゃん。
ちゃんとくっついてるし、いちゃいちゃ多め。

 何気なく開けた扉の先に、なんかよく分からない光景が広がっていた。
 えっ、何。そんなに疲労してたっけ。
 思わず洗面所に向かって鏡を確認しても、朝とさほど変わらない顔がそこにあるだけだった。疲れが滲んでいる事も無いし、服装がよれてることもない。
 何せ、今日は早上がりできた貴重な日でもあるのだし。
 折角時間があるのだから、普段からかわいいと公言してはばからない恋刀でも愛でようかな。そう、思っていたのだけれども。
…………やっぱり、あれは夢かな」
「夢じゃねぇよ」
「えっ」
 特に意味も無くぱしゃりと水を顔に掛けて、柔らかいタオルに顔を押し付けるようにしながら呟けば、聞き慣れた声が後ろから掛かる。
 少しだけドスのきかせた声からして、不機嫌なことは間違いない。
 それもそうか。帰ってきて扉を開けたかと思いきや、そのまま無言で扉を閉めたんだから、あちらが不機嫌になっても可笑しくはない。
 いや、でも、ねぇ?
 タオルに押し付けた顔を、長義は上げられない。
 視線を上げれば、間違いなく鏡越しに背後の刀が視界に入る。だから絶対、心を強く持たない限りは無理だった。
「長義。こっち向け」
「待って。心の準備をさせて。冷静になる時間をくれないかな」
「どーせどれだけ待ってもおまえ冷静になれねぇから、早くこっち向け」
「いや、冷静になれるとも。だから部屋に戻っていて」
 くれないかな。そう続くはずだった言葉が不意に途切れる。
 顔を覆っていた柔らかい感触が勢いよく引き抜かれる。
 摩擦熱で少しばかり熱くなった頬を抑えて、抗議しようと視線を動かす。心が決まってから目視しようとした相手を見てしまう。
「ッ! ちょ、きがえ、っ途中じゃないのかな」
 上擦った声を戻せないまま、長義の視線がタオルを引き抜いた張本刃へと固定されてしまう。
「着替えたからこの格好なんだよ」
「えぇ……
 一度見てしまったからと腹を括ってまじまじと見れば、長義よりも一回り小さい体が纏うのは長義の内番着のシャツ一枚だけ。それで着替え済とは一体。
 濃い青のVネックシャツをゆったりと着て、その下に続くのはすらりとした何も纏わない細い足のみ。
 普段履いているオーバーニーはどこへやったのか、長義の私物しか身に纏っていないように見える今の肥前は、少しばかり目の毒とも言える。いや、眼福なんだけれど、そう言うわけにもいかないので。
 肥前の真意を測りかねて視線を彷徨わせれば、むき出しの足が長義の足をぽこんと蹴る。
「なんだよ。言いたいこと有るなら言えば良いだろ」
 ぶんぶんと手持ち無沙汰にタオルを振る度に、大きく空いた襟ぐりから鎖骨がちらりと覗く。
 包帯もチョーカーも付けていない首は、大きく空いた襟ぐりのせいか余計に細く心許なく見えた。
…………あの、なんで、俺のそのシャツだけ着てるの、かな」
「あぁ、シャツだけだと思ったか? ちゃんと下にショートパンツ履いてるよ」
「なら良いけど。……いや、別に良くはないな」
 丈の短いワンピースのようになったシャツの裾を摘まんで見せた肥前の手を長義がやんわりと抑える。
 ちらっと覗いた黒いショートパンツに安心したのか、がっかりしたのか。きっとそう思った事すら、肥前に見抜かれているかもしれないけれど。
「なぁんか、あんまり反応しないなぁ、おまえ」
「どういうこと?」
「んー……あー……姉貴が、こーしたらおまえが元気になるんじゃ無いかって」
 肥前が言う姉貴は、きっと同じ課の女士の山姥切長義と仲の良い同位体のことだろうとすぐに予測がつく。
 何せ、あそこの二振りは揃って後から顕現したこの女士の肥前を猫かわいがりしているので。だからきっと、今のこの服装もその二振りの入れ知恵だろうことは長義にも直ぐ分かった。
 つらつらと思考する長義の様子を伺うようにじとりと細められた視線が刺さる。
 まじまじと長義の足先から頭までを眺めて、それから素足のままぺたりぺたりと長義に近づいたかと思えば。
 未だに洗面台へ向いたままだった長義をぐいっと掴んで。
「ひぜ、ん?」
 ぎゅ。そんな可愛らしい擬音が似合うだろう仕草で、肥前が長義の胴に両手を回した。
…………これでもまだ夢って言うか?」
 仕草の割に、見上げる視線は鋭い。訝しげに長義を窺う肥前がさわさわと長義の背を撫でては隙間をなくすように更にキツく抱きついた。
 それはちょっと。ちょっと大変なことになってしまう、なぁ。なんて。
「夢じゃ無いことは分かったから、少し、離れようか」
「やーだよ」
「あのっ、ねえ!?」
 いっそ引き剥がしてしまおうと肥前の肩を掴んだところで、肥前が抵抗する様に長義の肋骨を締める。
 胸部の中央に頬を寄せて、同時にぎゅうっときつく押し付ければ息が詰まった。
 その間数秒。けれど、その数秒があれば肥前には充分だったらしい。
 ほんの僅かに上体を反らして、勝ち誇った様に僅かに口角を上げると漸く腕の拘束を緩めた。
 けれど、そのせいでぴったりと寄り添う体の柔らかさを思い出してしまう。
「あー……、今日は甘えた、だね?」
「偶には、そういう日だってある」
「だから俺のシャツ着て待ってたの?」
「据え膳、してやろうと思って」
 普段よりも深い赤色に変わった目がじっと長義を見上げる。
 戦闘訓練の時に見せるような好戦的な笑みも悪くは無いけれど、折角のオフなら違う顔が見たいと思ってしまう。
 折角本刃が据え膳だと公言しているのだからそれにノるのも悪くない。なにせ、人間を真似て作られたこの体は意外と欲に塗れているので。
 触り慣れた感触のシャツの下の体を意識してないフリしながら長義も漸く肥前に触れる。
 小さな肩を撫でて、それから小さな凹凸をなぞるように背骨を辿って、薄いのに柔らかい腰に触れればシャツの裾がわずかに跳ねた。
「それじゃあ、いただきます」
 当初の目的通り、愛でるに限る。