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小椋
2024-07-28 00:03:35
3523文字
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【kiis】ドリーミング・ナイト
kiis版ワンドロライに参加したもの。
BM所属未来if。嫌な夢を見るkiと変な夢を見るisのお話。
第5回目のお題「スイカ」「不眠」「ドレスコード」をお借りしました。執筆時間は約1.5hです。
なにげなく通り過ぎようとしたショーウィンドウの向こう側で、潔世一がサッカーボールを蹴っている。思わず足を止めたミヒャエル・カイザーは、その様子をじっと見つめた。
透明なガラスを隔てた先で、潔はカイザーではない誰かとボールを競りあい、プレーをくまなく視ては思考をすかさず読んで、ただひたすらにゴールを奪いあっている。
我知らず一歩踏みだしていたカイザーは、伸ばした手が透明な壁に阻まれたことにはっとした。
対峙するショーウィンドウは巨大なガラスケースに似ていた。閉ざされた場所に押しこめられているのは潔のほうだ。自由にどこにだって行けるのはカイザーのほうなのに、首を絞められているかのような閉塞感と喉が干からびるかのごとき飢餓感が、茨のように絡みついて心身を戒めている。見切りをつけて立ち去ることもできず、食い入るように眼で追いかけるしかない。
試合終了のホイッスルが鳴り響く。なまぬるいアシストを受けて決勝点を獲得した潔が、見知らぬチームメイトにもみくちゃにされながら、顔をくしゃくしゃにして笑っている。
瞬間的に沸きあがった憎悪にも似た憤怒に突き動かされるがまま、カイザーは力強く踏みこんだ左脚で自重を支えながら、瞬時に右脚を振り抜いた。渾身の蹴りが炸裂する。
次の瞬間、ガラスでできているはずのウィンドウが、カイザーの足先をしなやかにいなした。粉々に割るどころか、ヒビのひとつも入れられていない。背後に忍び寄る焦燥感を蹴落としてから、カイザーは再び右脚を持ち上げた。
なにもかもを壊してやる。そうして奪い返すのだ。そうしなければ。そうでなければ。
はっと目を開いたカイザーは、夢から覚めたことに気づくなり重く息を吐きだした。
後味の悪い、嫌な夢だ。
試しにまぶたを閉じ直したものの、いったん手放した眠気が戻ってくる気配は一向に訪れない。
深呼吸を重ねてから、カイザーは隣に視線を移した。ともに眠りに就いた相手は未だ夢の世界にいるようだ。穏やかな睡眠を妨げないよう腐心しながら、カイザーは静かにベッドから降りた。
トイレを利用してから、キッチンで喉を潤す。冷えた水が喉元を滑り降りていく感覚によって、ようやく息がしやすくなった気がした。
時折、うまく眠れない夜がある。一時的な不眠状態に陥っていたころに比べれば格段に状況は改善しているものの、ふとしたとき忘れるなとばかりに夢見が悪くなるのだ。一笑に付すにも値しない、荒唐無稽な代物。そう切り捨てたいのに、それだけでは片づけきれないわりに整合性の取れていない、中途半端な悪夢に睡眠を遮られてしまう。
過去の自分を壊して、新しい自分に作り変える。青い監獄で会得したはずのふるまいを、このときばかりは実現できなくなるのだ。
不快感を引きずったままベッドルームに戻る。極力揺らさないようにベッドに乗り上げたのに、寝転がろうとした途端に潔がまぶたを持ち上げた。
「どこいってたんだよ」
眠気を引きずっているのか、うっすらと開かれた眼でじとりと見据えられる。トイレに行って水を飲んできただけたとありのままを答えてやったのに、納得がいかないとばかりに眉根を寄せられる。そんな顔をされるような内容ではない。
「ねむれないときは、おこせって言っただろ」
「
――
起こされなくても起きてんだろうが」
虚を突かれたカイザーが苦しまぎれに言い返せば、潔はなおもむっとしてみせた。
「ちがう。
……
へんなゆめみて、おきただけ」
「変な夢?」
ふわあ、とあくびを零したことでいくらか目が冴えてきたのか、さきほどよりも覚醒に近づいたらしい潔がこくりと頷きを返した。
「スイカたべたら、種を呑みこんじゃってさ。やっちゃったって焦ってたら、ヘソからスイカが生えてきたんだよ。そしたら、スイカ王国から結婚式の招待状が届いて」
「は?」
実に脈絡のない展開に、カイザーはあっけにとられてしまう。
「スイカに見出されたあなたを王族の結婚式にご招待しますって。だから、着ていく服がないですって断ろうとしたら、身体からそれだけ立派なスイカが生えていればドレスコードはクリアできますよって押しきられて、式場まで連れてこられたんだけど」
ヘソからスイカが生えると、スイカに見出されたことになるのか。スイカ王国とはなんだ。その妙にずれた結婚式の断り文句はなんだ。そんなドレスコードがあってたまるか。
次から次へと疑問が沸きあがるものの、どれも口にする気力が起きない。荒唐無稽な展開もここまで突き抜けているといっそ清々しい、と開き直れたならよかった。理解が追いつくわけもなく、カイザーは潔の説明に口を挟めないまま聞き役に徹するほかない。
「仕方なく結婚式に出席してみたら、王族の結婚相手がカイザーでさ」
「あ?」
予想外にもほどがある展開へ、カイザーは反射的に噛みついた。
「おい、勝手に妙な夢に登場させるな」
「知るかよ。お前が勝手に出てきたんだろ。つーかなんだよ結婚って。ふざけんな。誰だよそいつ。俺以外となにしてんの? ぜんぶ間違ってんだろうが。ってカイザーにめちゃくちゃ腹が立って、もうなにもかもぶち壊してやるって思ってさ。ヘソから生えたスイカに立派な実が成ってたから、それ収穫してお前に投げようとしたところで目が覚めた」
なにをどこから突っこむべきかもわからないまま、潔の夢物語が幕を閉じる。
スイカのくだりはさておき。着ていく服がないというあたりは、おそらく数か月後にチームメイトの結婚式に出席する予定があることが関係しているのだろう。
それが夢に見るほど深刻な悩みだというのなら、まっさきに相談する相手が傍にいるだろうが。そう思わず口走りそうになったカイザーは、寸前のところで思いとどまった。なんでこんなくだらないきっかけで怒りをぶつけなければならないんだ、と冷静さを取り戻す。
そうだ。カイザーは気分を害してなどいないし、反対に浮かれてもいない。
誰だよそいつ。俺以外となにしてんの? ぜんぶ間違ってんだろうが。そう潔が憤慨したらしいことに、気分が上向いてなどいない。いないったらいない。
「で? お前はなんの夢見たの?」
吐きだしきってすっきりしたらしい潔に問い返されて、カイザーは言葉に詰まった。
「
――
忘れた」
「はぁ? 俺に言わせるだけ言わせておいて?」
「あぁ? お前から話しだしたんだろうが」
わざわざ半身を起こして言い返そうとする潔を、いいんだよもう、寝るぞ、と腕で制止ながら今度こそ横になる。
べつにはぐらかしたわけではない。潔の話を聞いているうちに、夢で嫌な思いをしたことなどすっかり忘れていた。どうでもいいと心から思えたから、打ち明ける必要もなくなっただけだ。
潔はごにょごにょとしばらく文句を垂れていたが、カイザーに口を割る気がないと悟るなり、胸元に顔を寄せてきた。カイザーは潔の背中に手を回して、そっと抱き寄せてやる。
「
――
起きたんなら、起こせよな」
「世一?」
「起きたときお前がいなくて、焦った」
ぽつりと届いた言葉を咀嚼したカイザーは、深々と溜息をついた。おい、とすかさず聞きとがめてきた潔の頭に手を移して、髪をかき混ぜるように撫でてやる。
「スイカぶつけようとしやがったくせにな」
うるせぇ、と切り捨てたくせにぐりぐりと額を擦りつけてくるものだから、まったくもって素直じゃない。夢にこわばった心がほどけていくごとに、とろりとまぶたが重みを増していく。
じゃれあいのような触れあいののちに、ふたりはそろって眠りに落ちた。
そうして朝を迎えたカイザーは、潔が目覚めるなり口にした、スイカ食べたい、という言葉に心底呆れかえった。そうして同時に脱力してしまう。どうにも不本意なものの、口角をゆるめずにはいられない。
なんという図太さとのんきさだろうか。見た直後には、変な夢だとあれだけ不愉快そうにしていたくせに。
「なんだよその顔」
「いや? なんでも?」
潔が唇をとがらせるのも無理はない。カイザーは鏡で確かめなくても、いまの自分が締まりのない顔をしている自覚があった。
とはいえ、これ以上に共寝相手の機嫌を損ねる気はない。ならさっさと起きるぞ、とせっつくと、潔と連れ立ってベッドから抜けだす。
どうやら朝のルーティンを済ませてから最初にすることは、ロードワークがてらスーパーに買いものに赴くことになりそうだ。自分ひとりではけっして行き着かないだろう選択肢に、カイザーはたまらず笑みを零した。
小椋@OgrYtk
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