haru_haru0704
2024-07-27 01:47:33
4550文字
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新たな扉

カカロ×忌炎 全年齢
※攻めの女装

「来てくれてありがとう、カカロ。今日は・・・その、ひとつ依頼があるんだ」
忌炎は沈痛な面持ちで切り出した。
今州はすっかり平和になったというのに、一体どんな依頼なのだろうか。
「お前からの依頼なら、何でもこなしてやろう。で、どんな依頼だ」
「・・・女装、を」
「は?」
「・・・すまない・・・お前には、女装をしてほしいんだ」
「はあ」
カカロは珍しく、気の抜けた返事をした。
もっと困難な依頼かと思ったのに、拍子抜けしたせいだ。
忌炎は相変わらずの表情で、事の仔細を話し始めた。
「最近、今州を騒がせている犯罪者がいるんだ。そいつは──」

忌炎いわく、その犯罪者は『今州城を丸ごと吹き飛ばせる爆弾を仕掛けた』という声明を出したらしい。
そして、『それを爆発させたくなければ、幽霊猟犬の団長の女装を見せろ』というのが、犯人の要望だとか。
「世の中には、頭のおかしい人間がいるものだな」
「まったくだ・・・」
忌炎は顔をしかめ、こめかみのあたりを押さえている。
作戦の場ではほとんど動揺を見せない彼にしては、珍しいことだ。
今州城が丸ごと爆破されたとなれば、その被害は甚大になる。事の重大さに、流石の彼も参っているのだろう。カカロはそう考えた。
「で、犯人の指定日は5日後だったか?」
「ああ、そうだ・・・今日は採寸だけしたら、帰ってもらっても構わない」
「今は別件もないし、今週は城内でぶらつくことにする。何か用ができたら呼べ」

*
そして、5日後。
忌炎の前には、深窓の令嬢という雰囲気になったカカロが立っていた。
全体的にサイズがでかいが、それを抜きにすれば案外まともだ。
「なかなか・・・すごい、な」
忌炎はカカロをじっくりと眺めた。
竜胆色のドレスは丈が長く、床につきそうなほど長い。そのおかげで、カカロの脚はおろか、何を履いているかさえよく見えない。
スカートの部分は下に向かうにつれ、なだらかに広がっている。忌炎は知らなかったが、それはAラインと呼ばれる形のドレスだ。その形にすることにより、上手く体型を誤魔化している。きらきらと光を反射する装飾も付いており、華やかな印象だ。
ウエストの部分は体にフィットしているようだが、控えめにフリルを取り入れ、丸みのあるシルエットを実現していた。胸の部分も同様に、フリルで柔らかな雰囲気を出している。
上には紺色のボレロを羽織り、肩回りと腕の筋肉を覆い隠している。そして、そのボレロにはリボンが付いていた。首から胸上まである、大きなリボンだ。
更に、腕には刺繍とフリル装飾付きの長い手袋をはめている。手袋はボレロと同じ色で合わせてあり、華美でありながらも落ち着いた雰囲気だ。
・・・要するに、ほとんど肌が見えていない。体型も隠されている。
「俺には服のデザインの良し悪しは分からんが、体型を誤魔化すために知恵を絞ったのだろうということは分かる」
深窓の令嬢から、カカロの声がした。いや、当たり前のことなのだが。
忌炎はやや混乱しながら答える。
「本当にすごいぞ。身長と体格を抜きにすれば、女性に見える」
「そうか?」
カカロは首を傾げた。その拍子に、サラリと銀髪が揺れる。
よく見ると、髪型も普段と少し違っていた。
前髪のあたりはいつも通りだが、後ろ髪の毛先がゆるくウェーブしているのだ。それから、編み込みもしてある。背後から見れば、完全に女性だ。
「おい、何だ。後ろに立つな」
「す、すまない」
カカロに怒られてしまった。慌てて元の位置に戻る。
忌炎は咳払いをして、気持ちを切り替えた。
「では、作戦内容だが・・・犯人が指定する場所に行ってほしい。それで、もし怪しい奴が近づいてきたら、取り押さえてくれ」
「犯人が近付いてくるということか?」
「ああ。犯人は、お前の女装姿を近くで見られたら、捕まってもいいと言っている。本当かどうかは分からないが・・・」
「なるほど。承知した」
カカロは頷いた。
彼なら、不審者を1人捕まえることなど朝飯前だろう。
しかし、今は見た目が深窓の令嬢だからか、忌炎は少しだけ不安に思った。
「その、お前を侮っているわけではないんだが・・・丸腰で大丈夫か?」
「丸腰じゃない。ほら」
カカロは靴を脱いで、手近にあった椅子に足をかけた。ちなみに靴はぺったんこの靴だった。
そして、ドレスの裾をがばりと捲る。
中から出てきたのは、古傷だらけの生足と、太腿に巻かれたナイフシース。
忌炎はその光景にくらりとした。
「団員の装備から拝借してきた。なかなかいいだろう」
そう言いながら、カカロは自慢げに笑った。
ピンク色のリップを塗られた唇が、弧を描いている。
彼の瞼には、青から黄色へとグラデーションする不思議な紅が引いてあった。睫毛にも青と黄色の粒が散りばめられて、きらきらしている。
美人だ。
率直に、忌炎はそう思った。
「忌炎?」
「っ!そ、そうだな。いい装備だ」
不思議そうに名前を呼ばれ、忌炎はハッと我に返った。
危ないところだった。何か、変な扉を開いてしまいそうだった。
「では、準備もできたことだし・・・指定の場所に向かうか」

*
カカロと忌炎、そして夜帰の兵士数人は、犯人の指定の場所へと向かった。
カカロ1人だけ見晴らしのいい場所に立ち、残りは少し離れたところから見守る形だ。
その状態で待つこと、5分。
犯人は現れず、代わりに夜帰兵士のデバイスが小さな音を立てた。
「しょ、将軍・・・!犯人から新しいメッセージが来たとの連絡です!」
「犯人は何と?」
「その・・・『女装のクオリティ高すぎ。もっと似合わない女装が見たい。もう5日待つから、やり直して』とのこと・・・」

*
「今度こそ上手くいくといいんだが」
カカロは溜息をついた。
彼が今着ているのは、上下にセパレートした竜胆色のチャイナ服だ。
スカートは丈が短く、膝までしかない。タイツなどは着用していないため、古傷のある逞しい脚が丸見えだ。
上半身の方はというと・・・それはもう、酷い有様になっている。
とにかく、服がピチピチだ。発達した胸筋が服を引っ張り上げてしまっているせいで、腹がほとんど見えている。もちろん、古傷のある逞しい腹筋が丸見えだ。
そして更に酷いのが、胸元に空いたハート型の穴。当たり前のように、古傷のある逞しい胸筋の谷間が丸見えだ。
ここまでくると、服が半袖なのはさしたる問題ではないように思えた。言うまでもないが、古傷のある逞しい腕が丸見えだ。
今日は一切化粧をしていないから、顔も完全に男のままである。
だというのに、髪型はお団子ヘアーだ。服と同じ竜胆色の布で、お団子を包んでいる。おまけに、ひらひらとした可愛らしいリボンまで付いている。ちぐはぐもここまで極まれば、いっそ爽快である。
・・・いや、嘘だ。何も爽快じゃない。
「うん・・・似合ってないから、大丈夫だと思う・・・」
忌炎は覇気のない声で答える。もう何だか疲れてしまったのだ。
「そうか。お前が言うなら、そうなんだろう」
カカロは普段通りに振舞っている。こんな服を着せられて、何とも思わないのだろうか?
「その・・・カカロ、今日の服は・・・色々と問題があるだろう。すまない・・・」
「ああ、今日のは寒いな。それと、武器を隠せる場所がほとんどない」
そういうことではないのだが。
しかし、今の返答で忌炎は理解した。
カカロという男は、本当に服の機能性しか見ていないのだ。
おそらく、羞恥心もまったくない。
もし忌炎がカカロの立場だったら、顔から火を噴きそうなほど恥ずかしがっていたことだろう。
「お前は強い男だな・・・」
「?」
「いや、何でもない。では、そろそろ行こうか」
そう言うと、カカロは「ああ」と答えて歩き出した。
そして、一歩目でフラつく。
「おい、大丈夫か?」
「ああ・・・このピンヒールというのが、歩きづらくてな」
忌炎はカカロの足元を見た。
彼が履いているのは、紺色のピンヒールだ。ヒールがかなり高く、10cmほどはありそうだ。
「なぜ爪先立ちを強いられる靴が存在するのか・・・俺には分からん」
カカロがぼやく。
彼は二歩目、三歩目と踏み出したが、やはりフラフラしている。
共鳴者の身体能力をもってしても歩きづらい靴とは・・・恐ろしい。
「肩を貸そう」
「ああ、すまん」
「靴のせいで背がいつもより高いな。5cmくらい」
「そうだな。・・・この靴、もう足が疲れてきたぞ」
2人はそんな話をしながら、ゆっくりと歩いていった。

*
前回と同じように、少し離れたところからカカロを見守る。
しばらく待つと、1人の人物がカカロに近付いていった。
「あいつが犯人か・・・?」

1人の男が、まっすぐに歩いてくる。
中肉中背の、特にこれといった特徴のない男だ。
「お前が犯人か?」
「はい、僕です。あっ、でもあの、爆弾は本当は仕掛けてないんです!僕はただ、あなたの女装が見たくて、その一心で・・・!」
男の年齢は、20代後半といったところだろうか。
カカロは注意深く男を観察する。呼吸、仕草、目の動き。
どうやら、嘘はついていないようだ。
「なぜ俺にこだわる」
「あの、あの・・・!すごくかっこよくて、憧れで・・・!そんなあなたが、僕の言いなりになって女装してるところがどうしても見たかったんです!なんていうか、その、僕なんかの趣味に合わせてくれてると思ったら興奮するんですごめんなさい!」
何を言っているのか、概ね理解できない。
しかし、特に問題はない。やることは単純だ。
カカロはチャイナ服のハート穴に手を入れると、服の内側から小ぶりなナイフを取り出した。
「そそ、そんなところからナイフが!?ご褒美ですか!?ありがとうございます!」
何事か喚いている男の太腿に、無造作にナイフを突き立てる。
ひとまず、これで逃げられないはずだ。
「ぎゃあああ!痛い!」
「お前、どれほどの人間に迷惑をかけたか分かっているのか?お前1人のわがままのために、今州の民は怯えて過ごす羽目になったんだぞ」
「ご、ごめんなさい・・・!許されないことをしたのは自覚してます!だから僕、今日は殺される覚悟で来てます!いえむしろ殺してください!あなたにだったら、僕・・・!」
カカロは男の目を見た。そして、驚いた。
この男、本気で言っている。そして、死への恐れがない。
──なるほど。この男、使えるかもしれない。
「あっ、悪い笑顔も素敵ですね・・・冥土の土産にもうちょっと見せてもらってもいいですか?」
「忌炎!」
男の言葉を無視し、離れた位置にいる忌炎を呼ぶ。
彼は夜帰の兵を伴って、こちらへと近付いてきた。

***
事の次第をすべて聞いた令尹は、男に懲役2年の判決を下した。
しかし、それはあくまで形式上のことだ。
彼女はカカロの要望に応え、男の身柄を幽霊猟犬にこっそりと引き渡した。
「懲役と同等か、あるいはそれ以上の罰を与える」と言ったカカロのことを信じたのだ。
「ふぅ・・・誰かのことを好きになりすぎるというのも、考えものですね・・・」
今汐は1人、溜息を吐いた。