ぐるさん
2024-07-26 23:25:18
5027文字
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【思い出】

2024年7月27、28日開催
ふみりかWebオンリー展示作品です。

7/21にX(旧Twitter)にて、ふみりかワンドロライ(@ fmrk_1draw)に参加させて頂きました作品の逆視点ver.になります。よろしくお願い致します。

 「皆さーーん!この間のピクニックのアルバムが出来ましたよ〜〜」

 依央利がそう告げてアルバムをテーブルに置くと、皆が一斉に集まる。こうして皆で出かけた時のアルバムが作成されるのは、別に初めての事ではない。確か何度目かの皆での外出の時に、折角だから何か形に残るようにしようと自分から提案した事がキッカケだった気がする。

「それじゃあ焼き増しして欲しい写真がある人はこの紙に番号を書いて、この奴隷に渡して下さいね〜〜」

 アルバム内の写真には番号が振られていて、欲しい写真の番号を指定の紙に書いて依央利に渡すと、後日同じ写真が貰える決まりになっている。

◇◇

「あっ、ふみやさん」!ちょうど良いところに!
「どうしたの?依央利」

 ある日の午後、自分の部屋に行こうとしたら、廊下で依央利に呼び止められた。

「この間の写真、ふみやさんの分が焼き増しできたので、ここでお渡ししても大丈夫ですか?」
「うん、いいよ」

"ふみやさん"と依央利の字で書かれた封筒を受け取る。

「あ、後で念の為中の写真が合っているか、確認お願いしますね!」
「ん、分かった」
「それじゃあ僕は、他の皆さんにもお渡しして来ますね〜〜」

 他の人に渡す写真が入った封筒をヒラヒラとさせながら背を向ける依央利を見送って、自室に入ると早速椅子に座って改めて写真を確認する。貰った写真には全て、このシェアハウスに共に暮らす、草薙理解の姿が写っている。

 キッカケは何だっただろうか。行きつけのカフェで偶然出会った時?それとも、大して強くもないのに不良の集団に迷いなく突っ込んで行った時?あるいは、初めて出会ったその瞬間?
思い当たる節がありすぎて正直絞りきれない。ただ、気がついたら目が離せなくなっていた。

 でも、自ら掲げる秩序のために奔走する理解が俺の視界に留まってくれている時間は、そう多くはなくて。 ならばせめて写真くらいはと、ついついアルバムが出来るたびに頼んでしまう。
 しかしながら、こうして毎回写真を頼むくらいなら、正直にこの想いを伝えた方が早いのでは?とも思う時もあるけれど、それでも自分はこの想いを胸に秘めたまま生きる事に決めている。

 年の差とか、性別とか、それっぽい理由はいくらでも上げられるけど、一番の理由はこの今の生活を、関係を壊してしまう事があまりにも恐ろしいからだ。
 例えば、己の想いを打ち明けた事をキッカケに理解に嫌われて、それを理由に他の皆との関係もギクシャクしたりして、あまつさえ皆がバラバラになったりしたら、自分は多分生きていけない。

 だからこうして写真を貰う。この行為自体は、決して悪い事ではない。きちんと決められたルールに沿った振る舞いだ。
 そうして集めた写真を、机の引き出しに隠した秘密のアルバムへと入れていく。皆との思い出が増える度に共に少しずつ厚みを増していくこのアルバムを捲ると、いつだってあの眩しい笑顔が目の前に現れて、柄にもなく胸の鼓動が高まってしまう。
 きっと以前の自分であれば、それって虚しくない?と一蹴しているだろう。でも、それでも、この生活と関係を守るためには、こうして自分で自分を慰めてやるのが現状での最適解……のはず。

 さぁ、いつまでもアルバムを眺めていないで、先程貰った写真を入れてしまおう。随分と湿っぽくなってしまった思考に上から言い聞かせて、封筒から写真を取り出そうとしたその時、

「はぁ……

随分と湿っぽくなってしまった思考に、自然とため息が出る。じっとりとした感情を含んだ己の大きな吐息がやけに耳について、余計に気持ちが沈んでいく。

「一旦寝るか……

何だか思考が沈みきってしまったので、写真をアルバムに入れるのは後回しにして、ひとまず横になって休むことにした。

◇◇

 ふと目が覚めると、下から騒ぎ声が聞こえてきた。多分いつもの我が家の大騒ぎだろう。寝起きのしゃっくりを宥めながらスマホを確認すると、どうやら一時間程寝ていたようだ。せっかくなら騒ぎに加わろうと部屋を出てリビングに向かう途中、理解の部屋の扉が中途半端に開いている事に気がついた。
 
 普段はちゃんと閉まってるのに珍しい。何も無いは思うけど、念の為閉めておいてやろう。そう思ってドアノブに手をかけた時、隙間から見覚えのある封筒が見えた。

 部屋の主が不在な事をいい事に、部屋に入ってその封筒を手に取ると、見慣れた依央利の字で"理解くん"と書いてあった。これ、理解が焼き増しを頼んだ写真だ。理解は一体どんな写真を頼んだのだろう?興味本位で封筒を開けようとすると、

「ふみやさん!?」
「あ、理解」

いつもの騒ぎで疲れた様子の理解が部屋に戻ってきた。

「っ!それはっ!」

俺が手に持つ封筒を見つめながら、驚く理解に折角だから尋ねる。 

「理解はさ、どんな写真選んだの?」
「!!」

そう言って写真を確認しようとすると、理解は何も答えずに俺の手から封筒を取り上げようとする。だが、思ったより勢いのついた理解の手は、封筒を掴む前に俺の手から床に向かって叩き落としてしまった。

「これ、全部俺の写真……?」

床に落ちる封筒から舞い落ちる写真には、全て俺の姿が写っていた。

「理解?大丈夫?」
「ーーッ」

突然の出来事に呆然した様子の理解の顔を覗き込むと、驚いた様子で後ずさってしまう。

「はい、これ」

ひとまず床に散らばってしまった写真を集めて手渡す。

「え」
「落ちたのは多分全部拾ったと思うんだけど……

予想外の出来事に冷静を装いながら声をかけると、わなわなと唇を震わす理解が目に映る。

……って、……い」
……理解?」
「出てって下さい!!」
 
理解は、突然大きな声を出して俺を突き飛ばした。

「痛っ」

痛みに顔をしかめながら改めて理解に視線を向けると、その顔色は一瞬で青白くなっていく。

「あ、待っ、ふみやさ……
「ごめん」

混乱する思考を整理するために、一旦部屋を出ることにした。

 自室に戻りながら、理解の持っていた写真の意味を考える。自分の姿が写る写真を、わざわざ人に頼んでまで、所持する意味を。そうして部屋に入ると、真っ先に目に付いたのは、自分が焼き増しを頼んだ、理解の姿が写った写真を集めた封筒だった。

 なぁ、理解。俺はお前の事が好きで好きで堪らなくて、写真だけでも手元に置いておきたいから、こうして毎回貰ってるんだけど、お前はどうなの?心の中で問いかけても、当たり前だが返事は来ない。

「すぅーーっ、はぁーーっ」

 一度大きく深呼吸をして、自分の名前が書かれた封筒と、引き出しの奥にしまってあるアルバムを取り出す。正直これは、大きな賭けになる。上手くいけば最高だけど、予想が外れれば言葉通り、大事な物を全て失う。それでも僅かな望みをかけて、俺は理解の部屋へと向かった。

コンコンコン。

 理解の部屋の扉をノックするが、返事が来ない。でも、よく耳を澄ますと泣いてるような声が聞こえる。出直すべきか迷うけど、ここで引き返すと一生拗れたままになる気がして、意を決して扉を開く。

……え?」

急に扉が開いて驚く理解は、床にペタンと転がった状態で泣いていた。

「理解!」

驚いて駆け寄ると、理解は何とか起き上がろうとするが、すぐにフラフラとよろけてしまう。

「おっと」

そのままつい抱きしめように受け止めてしまい、何だか胸の鼓動が早まってしまう。

冷静になれ伊藤ふみや。お前は何のためにこの部屋に来たんだ。無言で俯いたままの理解に、意を決して話しかける。

「大丈夫?立てる?」
「え、ええ……

 理解の体を支えて立ち上がると、そのまま部屋のベッドに座らせ、自分も隣に座るとすぐさま口を開いた。

「理解、ごめん」

精一杯の謝罪の意味を込めて、そのまま深々と頭を下げる。そんな自分の様子を見て、困惑した様子で黙り込んだまま理解に、辛抱強く話し続ける。

「これ、お詫びになるか分からないけど、理解にだけ、特別」
「特別……?」

先程部屋から持ってきたアルバムを差し出すと、興味が沸いたのか理解から少しづつ言葉が出てくる。

「あの……、これは……?」
「俺の秘密のアルバム」
「えっ!?」
「見ていいよ」

 秘密のアルバム。改めて自分で言うとちょっと恥ずかしいけど、事実だから仕方がない。
でも、ここからが勝負になる。なんせこのアルバムには、理解の姿を収めた写真しか入っていない。これを見た理解の反応次第では、全てが終わる。

「これ、全部私の写真……!?」

そんな俺の思いも露知らず、理解は驚愕の表情を浮かべる。

「な、なんで、こんなものを……

思わず漏れ出たような聞き方に、間髪入れずに答えた。

「好きだから」
「す、すすすすす好き!?」
「うん、好き」

 顔を真っ赤にしながら口をパクパクとさせる理解は驚きとか羞恥の表情を浮かべてはいるものの、そこに嫌悪感のような物は感じられない。
これなら、もしかしたら、そう思って更に言葉を続ける。

「ちなみに今日はこの写真を追加する予定」

そう言って上着のポケットから封筒を取り出す。依央利が焼き増しされた写真を渡す時に使う、いつもの封筒。

「開けてみて」

そのまま封筒を手渡して開封を促すと、先日のピクニックで楽しそうに笑う理解の写真が出てくる。

「ど、どうして……
「だから、好きだからだって」

緊張でバクバクと音を立てる心臓を押さえながら、なんとか冷静を装って言い切ると、思いがけない質問が飛んでくる。

「その、好きって、どういう好きですか……?」

 そう尋ねる理解は、少しでも発言を誤れば粉々に砕けてしまいそうなほどに脆く、危うい空気を纏っていた。

 そんな理解の様子に胸が締め付けられる。俺が意図せず理解の秘密を暴いてしまったせいで、自分だって同じように隠そうとしていた、大事な気持ちの欠片を勝手に白日のもとに晒してしまったからせいで、こんなにも理解は怯えてしまっている。

 でも、それならば、俺が今、理解に気持ちを伝えるにはどうすれば良いだろうか。考えを整理するために大きく深呼吸をすると、不意に理解の両手が目に入る。綺麗に揃えられた両膝の上に置かれた震える両手を、気づけば自分の両手で握ってしまっていた。
 
「えぇっ!?」

 驚く理解の声を聞いて、自分が今何をしているのかに気が付いたけど、もう遅い。それならばと引っ込みがつかなくなってしまった両手を口元に引き寄せ、祈るように触れるだけの優しい口付けを落とした。

「ふ、ふみやさん……

怯えるような震えは止まり、代わりに血の巡りが戻って温かくなった体温が、じんわりと伝わってくる。

「俺の好きは、こういう好き」
「っ!」
「好きっていうか、愛してる、の方が近いかな」
 
 改めて、告白の意味も込めて理解に告げる。ありったけの愛情を込めて、レンズの奥の紅い瞳を見つめながら。
 じっとそのまま見つめていると、気づけば理解の瞳から涙がまた、零れていた。

「っ!理解っ!」

やっぱり嫌だった?俺の勘違いだった?狼狽えながら近くにあったティッシュを掴んで渡すと、理解は俺を宥めるように話しかける。

「違うんです、ふみやさん。これは悲しくて泣いてる訳じゃないんです」
「理解……
「紛らわしい真似をしてしまって、ごめんなさい」

まるであやすように軽く頭を撫でられると、幾らか気持ちが落ち着いたので、確認を兼ねて改めて尋ねる。

「それだったら聞いてもいい?」
「何をですか?」
「理解が今、どうして泣いているのか」
「そ、それは……
「それと、どうして俺の写った写真ばっかり持っていたのかもね」 
「〜〜ッ」

 答えはほとんど分かりきったような物だけど、それでも折角なら理解の口からちゃんと聞きたくて言ってしまった。我ながら面倒な事を言っているとは思うけど、それでも、理解は緊張しながら素直にこちらの耳元に口を近づけて囁いた。

「あなたの事が好きだから」