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溶けかけ。
2024-07-25 13:04:58
1834文字
Public
ほぼ日刊
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天秤は揺らぐ
怪我をしたフリーナとフリーナの裁判に参加しようとするヌヴィレットの喧嘩の話。
これ、本当はもっと長いお話になる予定なので抜粋します。
さようならフリーナ様。
どうか私のために死んでください
――
女はそう言うと刃物を振り上げた。女の後ろにある月がやけに大きく見えてフリーナは息を呑む。
刃物が振り下ろされる瞬間は緩徐で酷く狂気的だった。
執務室の扉をノックしようとして、その手を止める。何やら中が騒がしい。
扉越しから聞こえてくる声は七つ。そのどれもが聞き覚えのあるものだ。ノックは必要ないと判断し、無遠慮に扉を開ける。
「一体、何の騒ぎだい?扉の向こうにまで声が聞こえていたみたいだけど?」
フリーナの言に部屋の中にいた者たちの視線が一斉にこちらを向く。シグウィン以外の全員がフリーナの姿を見て驚いたように目を剥いた。
ナヴィアやクロリンデが立ち上がり、いち早く彼女の名を叫ぶ。
「フリーナ!」
「フリーナ様!」
二人がフリーナに駆け寄った。
「ちょっと!あんたその怪我
……
!安静にしてなきゃ駄目じゃない!」
「ナヴィアの言う通りです。お体に支障が出る前にお部屋に戻られた方がよろしいかと」
フリーナは首を振る。そして二人を無視して目的の人物の元へと歩を進める。カツカツというヒールの音だけが広い執務室に響いた。彼女の愚行を止める者はいない。否、止められなかったのだ。本来なら止めるべき立場にあるシグウィンでさえ。
「当事者である僕を差し置いて、みんなで仲良く会議とは寂しいじゃないか、ヌヴィレット?」
「フリーナ殿
……
私は
……
」
ヌヴィレットがばつが悪そうに視線をそらす。フリーナは彼の耳を片手で掴むと無理矢理自身の方へと向かせた。
「話をするときは相手の目を見て話す
……
コミュニケーションの基本だと何度言ったらわかるんだ? ああ、それとも、この会議自体がキミにとって僕には都合の悪いことなのかな? 僕に出席すらさせずに事を進めようとしているくらいだしね?」
「フリーナ殿。君にはこの会議に参加する資格はない。ここにいるのは昨夜の事件の関係者であり、被害者である君は被告人である彼女と同じように
……
」
「僕が、いつ、キミ、に発言を許可した?」
有無を言わせない口調にヌヴィレットが弾かれたように口を噤む。フリーナが神であった頃を知る者も知らない者も一様に口を閉ざしている。
「ヌヴィレット。キミがこの裁判に出席するつもりなのは聞いている
……
不思議そうな顔だね? まるで『なぜ知っている』とでも言いたげた。これでも元はこの国の神だよ? キミが知らないだけで情報を得る手段はいくらでもある
――
あまり舐めないで貰おうか」
旅人はこのとき初めて、フリーナがこの国の神であったことを理解した。良く言えば愛らしく、悪く言えばポンコツとすら思っている節があった旅人とパイモンにとって、華奢で小柄な彼女が醸し出す雰囲気に呑まれていることが信じられなかった。
「元水神として
――
いいや、キミの上司としてキミに命じる。『キミは今回の裁判に参加するな』
……
いいね?」
「
……
私はこの国の司法の番人として此度の裁判には参加する義務がある」
この分からず屋の堅物が
……
!
フリーナは舌打ちをした。
「
……
っ!それが民を危険に晒す行為だと何故分からない!?」
パンッという乾いた音がした。フリーナがヌヴィレットの頬を叩き、胸倉を無造作に掴んだ。
「
――
今回は神の目を持つ僕だったからいい
……
彼女は危険だよ、ヌヴィレット。
――
もし、誘拐されたのが幼い子どもだったら? 体の不自由な人だったら
――
?
……
キミは、その可能性に至らなかったのかい」
今回の事件の発端はヌヴィレットだと断言出来る。彼に恋をした女性があれほどまでに行動力があるとは思わなかったが、警察隊の尋問の度にその危険性は示唆されていた
――
にも関わらず彼は彼女の前に姿を現し続けた。これでは餌を与えているようなものだ。
「
……
君を切り捨てろと言うのか」
ヌヴィレットがフリーナの手に手を重ねる。犬歯をむき出しにした彼は呻るように言い放った。
「
――
そうだ。キミはそれが正しい」
フリーナが淡く微笑む。どこか自嘲気味に。
「
――
辛いだろう
……
?」
陽だまりのような暖かな声音が耳を擽る。包帯によって片方しか見えない瞳は湖面のように凪いでいた。フリーナは尚も言の葉を紡ぐ。
それが上に立つということだよ
――
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