2024-07-24 19:43:26
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最後までちゃんと飲み干して♡ 5

まだえっちじゃないパート エメアゼです(9999999億dB)

 気恥ずかしさに混乱しているか、まだ寝ているか、いっそのことあっけらかんとしているか。そんな様子を想像していた。けれどもアゼムは涙をぼろぼろと落としながら泣いていた。目尻の赤さからきっと、起きてからずっと、彼女は泣いていたのだ。
「アゼム、」
「近寄るな、こっち見るな、待て、エメトセルクステイ!」
 一歩も進むことなく歩み寄り止められる。エメトセルクは視線を逸らさずにじっとアゼムを見ていた。
……お前、体は」
「寝てる間にいろいろしてくれたんだろう? すっごく元気。ちょっとだけ体が重いぐらい」
 アゼムはごしごしと必死に涙を拭っているが、しかし溢れた涙は止まらずに落ち続けている。何度も拭って、擦れて痛々しさが滲む。それでも涙は溢れ続け、アゼムはどこか諦めた顔をして、ぼすん、と枕に顔を埋めた。
「あー、昨日は助かった。もう平気。なに? 心配で来てくれたの?」
 見ての通り元気だよ、と告げる声は他の人ならいつも通りのアゼムの声だと思うだろう。けれどもエメトセルクは少しだけ震えていることに気付いてしまった。ずっとずっと、彼女を見ていたのだ。
「アゼム、少し話をしたい」
「え、お叱り? やだやだ、確かに悪かったとは思ってるけど!」
「違う。……とりあえず片手、こっちに出せ」
「なに、ちょっと怖いんだけど」
 枕に顔を埋めていたアゼムが訝しげに一瞬顔を上げる。けれどもすぐに落ちた涙を隠すようにまた枕に顔を埋めて、片手だけエメトセルクの方へ伸ばした。その手を繋ぐようにエメトセルクは掴んで、一度深く息を吸い込む。
「先に言うが、怒っているわけではない。応える、と判断したのは私なのだから、お前の方が被害者だろう」
「えー、真面目。被害者だなんて思ってないよ」
 溢れた笑い声に息が詰まりそうだった。エメトセルクは少し、握った手の力を強くする。
 ずっと、ずっと、思考を続けている。媚薬を飲んでいないのなら、何故飲んだと言ったのか。目的はなんだったのか。
 もし、彼女の目的がセックスをすることだとすれば。何故、その相手に一番最初にエメトセルクを選んだのか。何故、セックスを目的にしたいと思ったのか。
 考えるたびに、脳裏に昨夜の乱れたアゼムが甘い声でハーデス、と呼ぶ声が響く。『すき』と時折響いたその音が、酷く心に引っかかって、エメトセルクの思考を傾けていく。
 誰よりも彼女を見つめてきたのに。エメトセルクは今、アゼムのことが何もわからない。
「なあ、アゼム。……お前、本当に媚薬を飲んだのか」
 びくん、とアゼムの肩が跳ねた。手を引っ込めようとしたのを強く握って引いて押さえ込む。彼女はぎゅう、と枕を抱きしめて顔を隠した。
「なん、で」
「管理局の貸し出し記録を確認したが、それらしき記録が一つもなかった」
「なんで確認したんだよ……
 アゼムの声がとうとう隠しきれない程に震える。
「アゼム、ただ、本当のことを聞きたいだけだ」
 ひゅ、とアゼムの喉が鳴る。嗚咽混じりで本格的に泣き出したアゼムが、滲むように呟いた。
……のんで、ない。飲んだなんて、嘘だよ」
 手、離してよ。そう震えた声でアゼムが告げるが、エメトセルクは繋いだ手の甲を親指でゆっくり撫でる。
「どうしてそんなことをしたのか、知りたい」
……ごめ、ん」
「怒ってない、知りたいだけだ」
「やだ」
「アゼム」
「やだ、なんでだよ」
 アゼムの声が大きくなった。
「なんでほっといてくれないんだよ! いつもの私の頓珍漢な行動の一つだろ! 君の親友がまた馬鹿をやって君を巻き込んだ、それだけじゃないか!! なんで、」
 枕に顔を押し付けて叫ぶアゼムに近付くと、エメトセルクは肩を掴んで無理矢理アゼムの体をこちらに向ける。繋いだ手をシーツに押し付けて、肩を押して。エメトセルクの体が完全にアゼムに乗り上げていて、まるで昨日の夜みたいだ、なんて思ってしまって、アゼムの目からまた涙が溢れてくる。
「な、んだよぉ……
 エメトセルクが低い声でアゼムの名前を呼んだ。どうして、名前を呼ぶんだよ、とアゼムは顔をくしゃくしゃにする。今日で全部全部最後にするつもりだったのに、これじゃあまだまだ引きずってしまいそうだ。しかしそんなアゼムの感情とは裏腹に、エメトセルクは何かを堪えるような顔をした。
「頼む。私が愚かな期待と勘違いをする前に、お前の口から真実を聞きたい」
 かんちがい。アゼムはゆっくり瞬きをする。睫毛に水滴が引っかかる。それを、エメトセルクが唇で弾いた。睫毛にだけ触れて、吐息がアゼムの目尻を撫でる。
 なんで、と。アゼムは目を見開く。なんで、夜でもないのにこんなことをするんだ、と。見開いた目がまた涙で覆われて、ぽろぽろと溢れて頬を流れていく。アゼムの肩を抑えていた手が柔らかく登って、アゼムの頬を優しく拭った。
———
 また、名前を呼ばれる。アゼムは一つ喉を震わせて嗚咽を溢して、口をゆっくり開いた。
……全部最後にする前に、思い出が欲しかった」
 ごめん、とアゼムは顔を歪ませる。
「何度ももう諦めようと思ったのに、諦められなくて、だったら君の優しさに付け込んで、最後に思い出をもらって、それを抱えてちゃんと、君の親友に戻ろうと思った」
 ごめん、と。アゼムが本格的に肩を震わせて泣き出す。
「ハーデス、好きになって、ごめ、」
 言葉は最後まで紡げなかった。吐息がエメトセルクに飲み込まれる。押し付けられた唇が、言葉を紡ごうとしたアゼムの唇を閉ざすように挟んだ。そのまま押し付けられて、アゼムは目を閉ざすことも忘れてぼやけた視界でエメトセルクを見る。エメトセルクはゆっくり唇を離すと、そのままアゼムをキツく抱き締めた。
「なんで諦めるんだ」
「っ、え、あ?」
「いや、頼むから諦めないでくれ」
 エメトセルクの唇が涙を吸い取る。星の輝きを閉じ込めた瞳に、アゼムの瞳が映り込んでいた。
「ハーデス、私」
「愛してる」
 エメトセルクが真っ直ぐにアゼムだけを見つめる。けして勘違いも諦めもさせるまいと、アゼムだけを見ていた。
「お前を、愛している」
 ひくり、とアゼムの喉が鳴る。ぽろりと涙が頬に伝って溢れた。アゼムの目はまあるく見開かれて、ゆっくり、ゆっくり、言葉が染み込んでいく。
 喉がまた鳴って、くしゃりとアゼムの顔が崩れた。
「わた、し……っ!」
 言葉を発しようと口を開いて、けれども嗚咽と泣き声が溢れる。震える手がエメトセルクの頬を挟んで輪郭を包む。
「わたっ、し、君……っ」
「アゼム」
「わたし、も」
 溢れた涙が喉に絡まって上手く喋れない。そんなアゼムを抱き締めれば、アゼムの腕がエメトセルクに絡みついた。
「わかった、伝わってる。アゼム、———。聞こえてる」
「う、ぁ……ぁあ……はーで、」
 昨日の熱に浮かれた時の方がまだ上手く言葉を出せたのに。いざ本当の言葉を伝えようとすれば、震えてばかりで何一つ話せない。それでも、確かに伝わってるのだと痛いぐらいの力で抱きしめられて理解する。
 ハーデス、と震えた声に何百年分の恋を込める。君の名前を呼ぶだけで、どれぐらいの恋が伝わるのだろうか。それでも、今は。
 ただこうして、抱き締めた熱と力で、好きだと伝えて、好かれてると理解するのが精一杯だった。