Kazane_sk
2024-07-24 09:00:44
2328文字
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暮れ方に語る夢と願い

「十三夜月に華は凪ぐ」の後日談。その数日後の、清宮八百と鬼哭乱華のある会話。

……で、【毒飼】用の毒は他の薬品との混同を避ける為に特定の瓶に入れないといけなくて、一部の飲み物……特にドクダミや生姜を含んだ食物に混ぜると効力が十全に発揮されない可能性があるから注意が必要、と」
「どっちも解毒作用あるからな。……あ、学園で支給されるモンにはやらかさないように液体自体にわかりやすい色付けてあるから、見分けはそれを使うんだったよな?」

一冊の参考書を挟む形で向かい合う、二人の生徒。それぞれの傍らには忍法療法学基礎のノートが置かれている。

「そうそう。あ、確か【仙食】も出題範囲だったわよね?」
「だな。先生が抑えとけって言ってたのは、『【仙食】は調理工程をしくじると普通の食事同様食中毒の元になる。高等部以下なら家庭科、大学・専門学校以上なら調理学・微生物学の知識を忘れず念頭に置くこと』ってのだったな」
「当たり前だけど大事よね。たまに『【仙食】なら大丈夫』とか訳わからないこと考えてるやついるし」
「全くだ。人の口に入るならそれは等しく気使わないとダメだろ、と」

そこまで注意事項を確認して、参考書の持ち主……清宮八百は、互いの境界線のようになっていた教科書を閉じる。
……抜け忍と、抜けられた側の忍者。そんな二人の関係性とは裏腹に、申し訳なさそうな表情をしたのは「抜けられた側の忍者」である乱華の方だった。

「ありがとう、八百。おかげで助かったわ。まさか参考書を忘れたとは思ってなかったから……
「おう。ま、困ったときはお互い様だしな」
「助かるわ……抜け忍と抜けられた側になっても、こうして変わらず接してくれるし」
「いやまぁちょっと気まずい気がしなくもないけど……乱華はそういうの、よほどの理由じゃなければ気にしないし。それが一番大きい」
「そうよね??それかなり大きいよね??」
「お、おう」

回答に喰いついてくる乱華に戸惑いながら返事を返し、八百は一緒に見ていた参考書をノートとともにカバンにしまい込む。同時に乱華も、自分のノートを同じくカバンに戻した。

「いや八百。アンタは直接見てないでしょうけど、モードレッドとかすごかったのよ。いくら言っても敬語は外れないしバツが悪そうにしてるし、ちょっと見つめただけでものすごく委縮されて……
「あー……アイツそういうのは相手が気にしてなくても気にするところあるからな。……なんかその状態のモードレッドを見てみたい気がする」
「今度ホスト部そっち冷やかしに行こうかしら。射魔斗も連れて」
「マジでやめてやれ、大師範……じゃなかった、射魔斗さんまで連れてこられたら流石にアイツの心臓が保たねえよ。ってか冷やかしに来るな」
「そっかぁ……あ、そういえば。十三夜について、少し聞きたいことがあるんだけど」

突如思い出したかのように、乱華は話題を転換する。

「アイツに関してか……?」
「ええ。……アイツ、自分とアンタの夢を『常夜の巫女になること』だと言っていたみたいだけど、実際のところはどうだったの?八百が私に話したのは、あくまで『生きて欲しい』と両親に願いを託されたってことぐらいだし。」
「あー、それは……事実だな。オレ、小さい頃は確かに『母さんみたいな常夜の巫女になりたい』って思ってたよ」
「!……そうだったのね」
「おう。でも……ああ、ここで多分『分岐』したんだろうな」
「?」

1人で勝手に納得する八百の姿に、乱華は頭の中で疑問符を浮かべた。

「オレさ。母さんが荒魂になる一週間前に、母さんにそのことを話したんだ。」
「へぇ……その様子だと、反応は芳しくなかったんでしょうね」
「ああ、それは……
……それは?」
「『ただ黙って、微笑んだ』だけだった。」
……
「多分、オレと異界のオレ……十三夜の違いは、そこで母さんの沈黙をどう取ったか、なんじゃねぇかな」
「と、言うと……?」

何かを少し思案してから、八百は答えを告げる。

「母さんのその沈黙を……
『自分みたいにはなってほしくないけど、夢を否定したくなくて黙っててくれた』って解釈したのがオレ……『清宮八百』だ。
逆に、その沈黙が何なのか『わからなかった』-
もしくは、『自分と同じ道を目指してくれたのが嬉しくて笑ってくれた』と解釈したのが『十三夜』……異界のオレなんだろうさ」

わずかに視界に入った時計の針を見て、荷物を背負い立ち上がる。乱華もまた、それに倣いながら会話を続ける。

……自分の方の解釈を、正しい解釈だとは断言しないのね」
「まぁ、そうだなぁ。オレにはあの時の母さんの真意は知り得ねぇし。でも唯一、父さんからも母さんからも聞いた『生きて欲しい』って願いだけは、はっきりしてる。そこに……特に母さんの方に関してはどんな真意があったかはわからねぇけど、それでも……

母の真意はわからない。自分は死人の想いを聴く力など持ち合わせていないから。
一方で父の真意は……わからなくはない。実際その「願い」の末に自分を比良坂から引き離したのだから。
故に、正確には「父の願いを聞き届けたくて生きている」と言ったほうがいいのだろう。
……けれど、それでも。
自分でも表面上の意味ぐらいは理解できる言葉を、父が自分に願った言葉と同じものを、母は残している。だから

「二人が共通してオレに残してくれた、『生きてほしい』って言葉……
それを自分なりにでも叶えられたらいいなって思いながら、オレは今こうして生きてるよ」

確かな決意と託された言葉への誇りを胸に、青年のような姿をした少女は微笑む。
月が出るにはまだ幾許か早い暮れ方の陽光が、その姿を朱色に染めていた。