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柄
2024-07-24 00:45:28
3218文字
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最後までちゃんと飲み干して♡ 4
えっちじゃないパート
目が覚めて最初に思ったのは、思ったより体が重くないな、という感想だった。カーテンの隙間から差し込む朝日にゆっくりと体を起こす。乾いて清潔なブランケットが体から滑り落ちた。ちらりと横を見てみたけれども、誰もいない。シーツの温度は一人分だけだ。
アゼムがゆっくりと体を見下ろせば、じんわりと癒すようなエーテルが巡っている。そこかしこにヒールやら何やらの痕跡を感じた。今まで何度も助けられたこの温かいエーテルはエメトセルクの物で、けれども彼はいない。一瞬本当の夢だったのかも、と思って、けれども体に満ちるエメトセルクのエーテルにそうではないのだと知る。
いつの間にか清潔な下着と寝巻きを着ていて、シーツもブランケットも綺麗になっている。体もあちこち噛んだりされてた気がするけれども痛みも何もなく、ただほんの少しの倦怠感とお腹の奥の違和感だけが残っている。
綺麗にしてくれたんだなあ、と思いながら枕をぎゅ、と抱える。朝まで隣にいてくれたらいいのに。けれど結局彼は恋人ではなくて親愛なる友人で、彼なりの気遣いなのだ。痕だってたくさん残してくれればいいのに、何一つ残ってない。
ねえ、ハーデス。君が付けたのは傷だって残したいって思ってたんだよ。
けれどもそんな思いももう終わりだ。枕に顔を埋める。じわり、と涙が込み上げてきた。
好き。ずっと、ずっと、好きだった。生きている時間の大半を、エメトセルクに恋していた。ずっとずっと一番側にいられたのに、けれども一番近いところは許されなかった。
喉が鳴る。涙が溢れて止まらない。嗚咽が喉を震わせて、勝手に肩が震える。
好きだった。ずっと、ずっと。君だけを愛してたよ。
今日一日、たくさん泣いて。そして、今度こそこの恋を諦めよう。そうして、きちんと親友としてまた明日から笑おう。
だから、だから。今だけは。
君を思って、泣くことを許して。
大好き、ハーデス。
エメトセルクはじわじわと怒りを抱えながら創造物管理局の局長室の扉を開く。お茶を用意しながらヒュトロダエウスはにこりと笑った。
「こんな朝早くから、どうしたんだい」
「ヒュトロダエウス」
静かな怒りに、ヒュトロダエウスは首を傾げる。
「あいつに余計なものを渡すな」
ぎろりとエメトセルクが睨むと、ヒュトロダエウスは首を傾げて考える。
「ちょっと心当たりが多すぎるんだけど、どれ?」
「直近だ。お前、無理矢理事を進めようとするな。私は、それを望んでいない
……
っ!」
いよいよ本気で怒っているらしいエメトセルクに、ヒュトロダエウスは少し困惑する。
「直近? 前旅に出る前に少しエーテル補充に関するイデアをこっそり譲ったけど
……
ねえ、あの人に何かあった?」
ヒュトロダエウスの様子に、エメトセルクは眉を顰める。彼の様子に嘘は見えない。エメトセルクは深く溜息を吐くと、どかりとソファーに腰を下ろして額を抑えた。
「
……
昨夜、あいつの部屋に呼び出されたら、媚薬を飲んだあいつがいた」
「え?
……
ええっ!?」
本気で驚いてる様子に、こいつは関わっていないのか、とエメトセルクは苦さを滲ませた顔をする。
「確かにキミがあんまりにも片想い歴長過ぎて焦れたワタシがやりそうなことだけど、それはいくらなんでもアゼムに失礼だからやらないよ」
まっすぐにヒュトロダエウスがエメトセルクを見る。
ずっと、エメトセルクがアゼムに長く長く片想いを拗らせているのを聞いてきたのだから、もしやと思ってしまった。けれども彼もまた、アゼムの親友なのだ。
エメトセルクはゆっくりと目を伏せた。
「
…………
疑ってすまん」
「で、ヤっちゃったの?」
謝ったのを返せ、と思いながらも頭を抱える。エメトセルクは低く唸った。
「
……
助けて、と。よりによって、何故私に助けを求める
…………
っ!」
「ヤっちゃったんだ
……
!」
ワァオ、とヒュトロダエウスが口を押さえた。エメトセルクは視線を逸らしながら言い訳をするように口を開く。
「最初は手を出すつもりはなかった。だが、あれに誘われて、理性が飛んだ。本当に、最悪だ
…………
」
頭を抱えるエメトセルクに、ヒュトロダエウスは端末機械を指でヒョイと引き寄せながら笑った。
「まあまあ、この機会にワンチャン異性として見てもらえるかもよ」
「これであいつが快楽を覚えてちょうどいい竿役として呼び出されるのが浮かぶ」
「ワー
……
あの人ならやりかねないから否定できない」
あちゃあ、と呟きながら指を動かして。けれどもヒュトロダエウスは首を傾げる。
「そもそもなんだ、媚薬を飲んで戦闘欲を高めてみたいと、何でそんな馬鹿げた理由で己を犠牲にする。頼むからもっと自分を大切に、」
「ちょっとごめん、エメトセルク」
ヒュトロダエウスの声になんだ、とエメトセルクが顔を上げた。
「アゼムのイデア持ち出し記録を見てるけど、やっぱり最後は前に旅に出る時になってるし、今ざっくり思い当たる媚薬のイデアの貸出記録を見たけれども、最後に持ち出されたのは二ヶ月前だよ」
「は?」
ヒュトロダエウスの言葉をうまく飲み込めず、エメトセルクは戸惑う。けれども確かに、アゼムは「管理局で貰ってきた」と言った。
「ねえ、彼女、本当に媚薬を飲んでいた?」
ヒュトロダエウスの言葉にエメトセルクは考えないようにしていた昨夜の彼女の姿を思い浮かべる。甘く、何度も何度もエメトセルクを呼ぶ声が、まだ脳に焼き付いている。
「さすがのアゼムも、管理局を通してない怪しいイデアを接種したりはしないと思うんだ。ねえ、エメトセルク。一度ちゃんとアゼムと話すべきだよ」
「
…………
いや、まさか
……
」
「キミのことだからアゼムに気まずい思いをさせないようにあの人が起きる前に出てきたんだろうけど、同じ夜を過ごした翌朝の対応としては最低だよ」
ヒュトロダエウスの言葉にとうとうエメトセルクは口を閉ざした。目を伏せて悩んだのは短い時間だった。エメトセルクは立ち上がると、すまない、とヒュトロダエウスに告げて指を鳴らした。
転移する先は、エメトセルクが早朝に出たばかりの、アゼムの家である。
エメトセルクはずっとアゼムにどうしようもない感情を抱いていた。だからこそ誰よりも気にかけ、誰よりも彼女を助け、誰よりも彼女の元に駆けつけた。
君は最高の親友だね、と呼ばれるたびに苦しさと喜びを抱いて、彼女の隣に我が物顔で居座り、牽制し、それでも一歩を踏み出せなかった。
それなのに事故のようなもので、親友として助けを求められて彼女を抱いた。他の誰にも乱れたアゼムを見せたくなくて、触れさせたくなくて、結局、どんな理由であれ彼女を犯したい、と思って手を出した。最後の方はエメトセルクはほとんど理性を飛ばしていて、アゼムが達して気をやっているのにも関わらず貪った。
彼女が媚薬を飲んで、エメトセルクに助けを求めたのだ。だから、仕方なく。いつも通り、彼女を助けるためだ。
そう、言い聞かせていたのに。
彼女の部屋のリビングに転移すれば、アゼムはまだ寝室にいるらしい。朝日が差し込む部屋で意識を失っている彼女の体を見下ろし、醜い独占欲の痕や手形を消して、治癒をかけて回復にエーテルも分け与えたのだからそこまで辛くないはずなのだが、と心配が込み上げる。
けれどもまずは、話をしなくてはならない。
「アゼム」
エメトセルクはアゼムの寝室のドアを開けた。枕に顔を押し付けていたらしいアゼムが驚いた顔でパッとエメトセルクを見る。
「え」
彼女の目は痛々しく赤く染まり、ぼろぼろと涙が溢れ続けている。
「アゼム、お前」
「君、なんで今来たんだよ
……
っ!」
くしゃりと、アゼムが顔を歪ませた。
彼女は肩を振るわせて嗚咽をこぼしながら、泣いていた。
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