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澄香
2015-06-23 17:35:18
1903文字
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【さにわとりと夢負い刀】
ぽつぽつ書いてた宗三さんと縁側でアンニュイするお話。
これは生に飽いた事のある一人と一振の、日溜まりのお話。
空は薄青。
湿り気帯びた風の涼しさ心地よい昼下がりの事。
本丸の縁側に丸々膨らんだ狩衣姿のにわとり一羽。
いかな力が働いてかその風切り羽が支えるのは薄板の端末。
けれど嘴の先が向くのは少し上、傍らに腰を下ろす桜色。
宗三左文字。
天下人の手にあるとして多くを狂わせたその刀。
その刀に宿る神は男士の身でありながら傾国の美姫のようであった。
己の来歴に辟易してか気怠げな振る舞いもまた艶めかしい。
その気怠げな目が目敏く端末の文字を拾う。
「おや、珍しい事もあるんですね」
にわとりが気付いて隠した所であとの祭り。
風切り羽の隙間から見える「再刃」の文字。
「ん、まあ
……
こんなとっかえしのつかん状態とおもわなんだ」
「戦道具としては、死んだも同然ですからねえ」
「今日も格好良く決めてきたのにねえ」
風切り羽をどかした端末にあったのは、一番隊が内の一振りの名。
現世の美術館の展示内容の一つに、彼の名があった。
「まあ、美術品として有ることの是非は一概には言えませんけどね」
「宗三も、どっかで飾られてるの?」
「神社に奉納されました」
「おお、御神刀」
「
……
主祭神は織田信長」
「お、おう
……
」
対応に困るにわとりを見て宗三は心内に溜息を吐く。
この様子では、恐らく知らないだろう。
主の気に入りの懐刀に至っては
……
。
「ほんと、いっそあの日に薬研と代われば良かったんですよ」
「
……
え、薬研焼けてるん?」
ああ、やはり知らなかった。
「あの日以来消息もなにも、ね」
魔王と共に焼け落ちたかもしれないし、違うかもしれない。
「そうかー
……
しかし
……
」
何か言いかけた主の声が、止まる。
視線は宗三の胸元
……
魔王の刻印。
「やっぱり、あの日焼けた方が良かったですかね?」
「話が一人歩きして範囲が顔にまで至った可能性」
「
……
」
「うわ、渾身のブサ顔」
「23世紀の技術で何とかなりませんか」
「手入れで戻っちゃう可能性」
「ここ抉るような傷ならそのまま逝けますよ」
にわとりが、あるはずの無い眉を顰めたように見えた。
表情など何処で作っているとも解らぬのに、人の姿より雄弁に心内を語る。
「ふふ、冗談ですよ」
話の流れを考えれば解るだろうに。
さて、普段この手口で近侍を困らせているのは誰だったか。
緩やかに流れる怠惰な時間、穏やかな沈黙。
「不思議なもんだね」
音を発したのはにわとりだった。
「焼けた刀も、消えた刀も、今ここでは往時の力を存分に振るっている」
「往時というなら、ただの左文字でも良かったでしょうにねえ」
宗三の、刀を握るには細く見える手が着物の上から刻印をさする。
この主は、無知を標榜する。
実際刀や歴史の知識に疎い。
自分や気に入りが誰の刀かすら知らなかったのだ。
ならば無知のままに、ただの刀を顕現しても良かったろうに。
「こればっかりは人の業って奴かねえ
……
」
「そう都合良くはいきませんよか」
「人は誰かや何かに夢を見て、誰もそれから逃げられない」
「篭の鳥も必定、ですか?」
関わった者の影響を、否が応でも受けるなら。
まして物言えぬ刀の身であったなら。
「ま、その夢の通り育たんのも人の常だが」
「人の、ですか
……
」
「夢オンリーで出来てるならそれ以前の事なんて思い返したりせんだろ?」
ああ、これは以前に兄、江雪に零したのを拾われたか。
戦場の事は何一つ隠せない事は知っている。
けれど、思いを揺さぶられる場所もやはり戦場で。
「ところで、貴女はどんな夢をみられたんです?」
「親
……
親父にとっての普通の子。あたりまえを当たり前に出来る子」
親父。
その言葉には、憎悪が乗っていた。
弟が常々解らぬと言っていた、主の復讐相手だろうか。
「なるほど、確かにそれは理想と言う名の夢ですねえ」
「でしょー。もーちょい理解のある親父なら今頃神社でお勤めしてたんじゃないかなー」
「で、ただの審神者として徴用される、と」
「あら、着地点は変わらず」
ただの審神者、神事に通じ、神に礼を尽くすただの神職。
しかし
……
それだと確実に折れただろう者が一人、思い当たる。
本人は己を卑下して認めようとしないだろうが。
「僕としては少々つまらないですけどね」
「それでも一度は憧れない?」
「そうですね、一度ぐらいは」
「ただの人」
「ただの刀」
それは泡沫に見た、敵わぬ夢。
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