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あつき
2024-07-23 01:02:28
4084文字
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誘い文句は甘やかに
愛を上手く受け取れないロナくんVS育成必死ドラさん ロナくん視点
「ロナルドくーん」
帰宅早々ロナルドに飛び付いてきた恋人は、いつになく上機嫌だった。
「ひっさびさに酔っちゃったぁ」
「はあ? 嘘つけお前酔わないじゃん」
疑いの眼差しを向けながらも、抱きしめられて顔を仄かに赤くするくらいにはロナルドはうぶだった。知っている安心する香りに混じって、鉄とアルコールの匂い。少し血行のいい肌を見ても、お酒を飲んでいることは間違いなさそうだ。
「とっておきのブラットワインを開けたんだ。君も付き合いたまえ!」
ドラルクはにこにことロナルドの手を掴むと、食卓へ導いた。おつまみとして唐揚げ、野菜の肉巻き、サーモンとクリームチーズの乗ったブルスケッタ、ジャーマンポテト、カボチャサラダ。小さなダイニングテーブルに料理が所狭しと並んでいる。ブラッドワインの横に置かれているのは、人間用の小さなワインボトル。
「ワイン? 俺、下戸だから飲めるかどうか
……
」
「だいじょうぶ! おこちゃま舌の君でも飲めそうな、甘くて口当たりのいいものを選んだから。アルコール度数もそんなに高くないし」
「お子様はそもそも酒は飲めねえんだよ」
しかし料理は酒抜きにしても美味しそうであり、仕事終わりで存分に空かしてきた腹が鳴る。
「
……
着替えてくる」
「ちゃんと手も洗うのよぉ~」
「おかんかよ」
酔いどれ吸血鬼は先にダイニングチェアに座り、ワイングラスを煽って満面の笑みで手をひらひらと振っている。
手を洗い、着替えを済ませて食卓に戻ったロナルドに、どうぞ召し上がれと料理を手のひらで示す。
「ほら、ロナルド君も」
お揃いのグラスをロナルドに渡して、滑らかに杯を満たす。試しに一口含めば、フルーティーな香りが鼻を抜け、甘さに目を見開いた。
「うまっ! なんだこれジュースみたい」
「ふふふ、そうだろう。きっと君の口に合うと、こっそり用意しておいたんだ」
喉も渇いていたのであっという間にワインを飲み干したロナルドに、ドラルクは直ぐおかわりを注いでやる。唐揚げや他の料理にも箸を伸ばし、嬉しそうに頬張る姿をしばらく微笑ましそうに見つめていた。
「付き合わせておいてなんだけど、あんまり飲み過ぎないでね」
いつもより少し豪華な夜食を堪能していたロナルドは、意味深な言葉に顔を上げる。
「私はいくら飲んでも出来るけど、君に潰れてもらったら困るから」
薄い唇をうっすらと開けて微笑み、含みのある熱い視線を送る吸血鬼に、飲んだ酒が回る前にロナルドの頬が一気に赤くなる。
今日はジョンがお出掛けしている。帰ってきた時にキンデメが事務所側に居たことも目撃している。明日は事務所も休みであり、ここに至って言葉の意味が分からないほどロナルドは鈍くはなかった。
「うっ
……
! あの、そのさ
……
、お前、俺としたいって思うの
……
?」
「はあ? 当たり前だろう。今すぐ君を抱いて、誰のモノか分からせてやりたいね」
益々顔を赤くしたロナルドは、ドラルクの僅かに怒りを孕んだ声音に心当たりがあった。
ロナルドが帰宅する数時間前、ドラルクも共にギルドに顔を出していた。
『前々から気になってたんだけど、お前ら付き合ってんの?』
ショットから唐突に言われた、何気ない一言だった。
『いや、そんな訳ないだろ』
ロナルドにしては慌てず冷静に、にべもなく否定した。ふたりが恋仲になって数ヶ月経過していたが、未だに周囲には伝えていなかった。ロナルドから言うから待ってくれという言葉を、ドラルクは尊重してくれていた。
いつ切り出すか覚悟がつかないまま、先に同期に指摘された恥ずかしさから咄嗟に嘘をついてしまった。
ロナルドは自分でもやらかした、と自覚があった。
ショットに嘘をついた罪悪感はもちろん、隣にいた恋人がそれを聞きどう思ったか。反応を伺うのが怖くてドラルクの顔を見れず、ショットとも目線を合わせられないままで心境は針のむしろだった。
その凍りつくような空気の折、実にタイミングの良いことにギルドの電話が鳴り響いた。
「下等吸血鬼の大量発生です」
静かに告げたゴウセツの一言で、退治人たちは勢いよく新横浜の街へ繰り出していった。ロナルドもまた然り。ドラルクは「長くなりそうだから先に帰る」とロナルドの背中に別れを告げて、再び顔を合わせた吸血鬼は酒を煽っていた。
「やっぱり、さっきのこと怒ってんのかよ」
居心地が悪そうにそわそわするロナルドから目を逸らし、ドラルクは胃に流し込むようにグラスを空にする。
「そりぁね。関係を明かす絶好の機会だったのにさ。いつになったらロナルド君は私のモノだと、堂々と主張出来るやら!」
「ごめん、ちゃんとショットには説明する」
しおらしく謝る恋人に、ドラルクは少し溜飲を下げた。まあ許してやってもいいかと鷹揚に切り出そうとした声は、「だけどさ」とロナルドの言葉に遮られた。
「俺は俺のだし、お前のモノになった覚えはねえからな」
恋人からまさかの素っ気ない言葉を受け、ドラルクは衝撃から一瞬にして塵となり崩れ落ちた。ロナルドが驚く暇もなく即座に復活すると、椅子を押して立ち上がり、肩を掴んで迫ってきた。
「えっ? え? ちょっと待って!! ロナルド君は私のじゃないの!? 私たち、付き合ってるよね!?」
先程までの強気の態度はどこへやら、一転して泣きそうに縋り付いてきた。
「そ、そうだけど」
ロナルドは気迫に押し負けて逃げ腰になってしまう。
「ならなんでぇ!?」
「いや、だって、俺はお前の所有物かよ。付き合っていようと、俺は誰のモノにもなる気はねえ」
ドラルクは愕然として「ええぇ
……
」と声を漏らしてショックを受けた様子だった。しかし気持ちを立て直すと非難を込めて眉を顰め、ならばと拗ねたように突き放す。
「この酒の勢いのまま、君を抱いて私のモノだと示してもいいと思ったけど、辞めた。やっぱり今日はしない」
えっ、と悲壮感に変わるロナルドの顔を見て、意地悪く口の端を吊り上げた。
「でも、君からしたいというならば? 大好きな恋人から求められたら、それはもう愛を示すのになぁ」
「うぐっ」
これまで夜のお誘いは、毎回ドラルクからだった。正確には、恥ずかしくて言い出せないロナルドの態度を敏感に察し、先んじて誘ってくれていた。詮ずるところ、ロナルドも放置されるのは辛い。
「恋人になっても君は甘い言葉はくれないし、何度抱いたって私のモノにはならないと言う。退治人である限り血だってくれないだろう? なら、欲しい言葉一つくらいちょうだいよ。私だって、たまには君から求められたい」
悩ましげに切望する赤の瞳に捉われて、固まりロナルドは動けない。ドラルクは大きく息を吐き、大袈裟に肩を竦めて悲しげに首を振ってみせる。そうしてピスピス泣きながら、同情を誘うように言い募る。
「私は君のモノなのに、君は私の手には入らないんだ」
それはロナルドにとって意外な言葉だった。日頃の不遜な態度を鑑みて、ロナルドを自分のモノと主張こそすれ、吸血鬼が自らを他人に明け渡す発言をするなんて想像もついていなかった。
「
……
え? お前って俺のだったの?」
「そうだが? 棺桶の意味も教えただろう?」
何を今更と、吸血鬼は言う。
過去にドラルクは、棺桶の場所を聞くのは"貴方の命を私に預けて下さい"、つまり、求婚の意になると言った。
(こいつは聞くまでもなく、初っぱなから棺桶持参で転がり込んで来た上に、それを置いたのは俺のソファベッドの横で──)
その意味を改めて咀嚼し、ロナルドは全身が沸騰したように熱くなった。
──あれ本気だったのかよ。
耳まで真っ赤に染まっているであろう顔に、酒を飲んでいて良かったとクラクラしながら口を手で押さえる。
この頃には、ふたりとも相当に酒が回っていたと思われる。そんな自覚などないふたりは、感情に駆られるまま言葉を溢す。
「あ、あのさ」
「んー? なんだね、愛を囁く気になったか?」
それならこいつに応えてやるのも、やぶさかではないなんてチョロいと言われてもしょうがない。
酩酊した思考が箍を外し、早まる鼓動に後押しされて、ありったけの勇気と声を振り絞った。
「お、俺も
……
お前のモノになりたいから
……
抱いてくれ?」
「ファーーー!! このチョロッチョロのチョロルドがあぁ!! その台詞、素面の時に聞きたかった!! 飲ませるんじゃなかった!!」
しかし素面のロナルドが素直に誘えたかは、甚だ疑問が残るところだ。
「だっ、抱かないのかよ
……
?」
酔いもあってか、拒否されたと勘違いして泣きそうに青の瞳を潤ませるロナルドに、ひとりの男の理性など千々に粉砕された。
「ばっっっちくそに抱いてやるが!?」
ふたりはワインも食事もそのままに、転がり込むように風呂場へ消えていった。その後しばらくして予備室への扉は一度だけ開いて閉まり、朝になっても開くことはなかった。
昼過ぎに目を覚まして酒が抜けたふたりは、昨晩の言動を思い出して恥ずかしさに悶えて転がった。二度と酒など飲むかと噴悶としたが、素直だった可愛い恋人を思い出し、たまには酒の力を借りるのも悪くないかと気持ちを収めた。
人も吸血鬼も、愚かなことを繰り返す生き物である。
*
後日、約束を守りロナルドはショットに訂正してギルドの面々にも伝え、皆から「知ってたけどな」と祝福を受けた。
ドラルクは「私のだから手をだすなよ!!」としっかりマウントも取り、「誰も取らねーよ」「必死すぎ」「独占欲丸出し執着強すぎおじさん」「お幸せに」と方々からツッコミを受けた。
それでも「私のモノだから!!」とロナルドからひしと離れず繰り返す主張は、ショットに「壊れかけのレディオかよ」と呆れられ、「分かったからもういいわ!!」と羞恥にキレたロナルドからストレートパンチを食らうまで続いた。
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