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あつき
2024-07-23 01:00:36
2956文字
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三十年後には塞がってる
愛を上手く受け取れないロナくんVS育成必死ドラさん ロナくん視点
まさしく、たべる、という表現がしっくりくる。
さらけ出した全てを丁寧に啄み、舐めとられ、吸い尽くされる。時にかじり、味わって、飲み込まれる。外だって中だって、お構いなしだ。抗いようもなく、思考をまっさらにされて、何も考えることを許されない。
ただ口から零れる情けない声も、恥ずかしさを覚える前に快楽に塗りつぶされる。時間感覚さえも曖昧で、どのくらいこうしているのか。
漸く全てが終わり解放されたので、枕を抱き締め突っ伏して、荒い息が落ち着くまでマットレスに体を預ける。
火照りの残る頭で漫然と、取り留めもないことを考える。普通は食べられたら、減る
……
よな
……
というか、無くなるのか
……
? でもさ、こいつに食べられても減るどころか不思議と暖かいものが増えて、じんわり胸を満たすんだ。
補食される恐怖や痛みは、殆ど無い。それはひとえに、こいつの所作ひとつひとつが殊の外丁寧で、繊細な食材を扱うようにじっくりと下拵えをしてくるからだろう。
腑抜けた頭で先程までの熱を反芻していたら、優しく髪を梳く指と共にキスが落ちてくる。
「ロナルド君、体はきつくないかい?」
優しく耳に囁かれる声は慈愛に満ちていて、まるで心底愛しい者に語り掛けるような甘い声。いつも予備室ではこちらが恥ずかしくなるくらい大仰に優しい。釣った魚にそんなに餌を与えなくても、俺は逃げはしないのに。
その意味を考えあぐねて、呼吸が整って気だるげな体と頭で、何の気なしに呟いた。
「
……
お前さ、もしかして結構、俺のこと好きなのか?」
バサリと音がして、砂山が横に出来上がる。え? 何で死んだ? やっぱり俺は思い上がり過ぎたのか。
そのまま物言わぬ砂山を前に途方に暮れ、上体を起こして塵に指を埋めてみる。ひんやりとして心地よく、サラサラと指の間を滑っていく感触につい夢中になりかき混ぜた。
おい、早くなんか言えよ。じゃないと、こね子さんの気持ちがちょっと分かっちゃうじゃんか。
「ッ
……
いやいやいやいや、待て待て待て、おま、お前ッ、手を止めろアホルド! さっきの台詞正気か? ピロートークとしては最ッッ低だぞ? まさか今の今まで、自分は愛されていないとでも!?」
嘘でしょ、こんなに言葉と行動で示してるのに! と揺れる砂山からようやく聞こえた戦慄きに、何でこいつはこんなに動揺しているのか分からず首を傾げた。
「いや? こうしてここで一緒に居るくらいには好きなことは分かっちゃいるけど、俺が思っているよりも、お前は好いてくれてんのかなって」
素直にかき混ぜる手を止めてやれば、吸血鬼はゆっくりと人型を取り戻した。俺に向き合う形で座り込む。完全に再生すると唖然とこちらを見つめて、状況にたがわず呆れて絶句したと、表情が訴えている。
「
……
いや、これは
……
私が見くびっていたな。君がいくらチョロルドでも、自己肯定感だけは強固に懐柔されないと頭では分かっていたのに」
そうして長い長いため息をつくと、するりと手を俺の頬に伸ばす。憂慮を纏わせた眼差しが垣間見えたのは一瞬で、すぐ気迫に満ちた眼光に切り換えられ、爛々とした光を湛える。
「私の愛がそんな浅薄で、上滑りしたものであってたまるか。なめるなよ若造」
強い口調の圧力に怯んで俺がたじろげば、目の前の男は口角をにぃとつりあげた。牙を見せつけ目を細めると、それは楽しそうに言葉を紡いだ。
「君の愛を受けとるコップは何処かに穴が空いているのだろうね。いやあ、面白いじゃあないか」
「はあ? なんだよそれ」
人を欠陥扱いしてくるなと腹が立つが、言わんとしていることに心当たりが無いこともない。
だって、愛なんていつ無くなるか分からない。お前の言うそのコップとやらをそんなもので満たしてしまって、いつかそれが注がれなくなったら、俺はその時どう生きればいい?
ならば最初から、この愛は仮初めだと、今だけの幸せに夢を見ている方がいい。
そんなほの暗い気持ちを見透かされてはいないかと内心冷や汗が伝うが、吸血鬼は朗々と話を続ける。
「注いでも注いでも終わりがない。上等だ。ならばこちらは、漏れ出ていく量よりも多く愛を注ぎ続ければいいだけの話だ」
挑むように俺をねめつけ、その細い指で俺の胸をとん、と指差す。
「そうして注ぎ続けて、いずれは下からではなく上から溢れ出んばかりに心を満たしてやろう。私は気が長いからな。例え何年、いや何十年掛かってでもだ!! 君も長期戦を覚悟したまえよ!」
そうしてドラルクは愉快そうに笑うと、胸に当てた指を脇に滑るように這わせ、そのまま背中に回してきた。左手で頭を引き寄せられ、包み込むように抱き締められる。こいつの体温は冷たいのに、寄越される言葉は何故こんなにも暖かいのか。
当たり前のように未来を示唆する言葉に、またひとつ胸に暖かいものが落ちていく。少しずつ胸に増えた温もりは、きっとそのコップの奥底に落ちて少しずつ欠けた所を埋めていく。
そろりと、腕をその細い腰に回し返して、肩口に顔を擦り付ける。
骨張った体はごつごつしてるけど、素肌を擦り寄せることは心地いい。そして、そう、安心するんだ。
「
……
なあ、ドラ公。そんなに躍起になんなくてもよ、別に特別なもんは望んじゃいねえから。俺が何処か欠けていても、未来もお前がただ側にいて、こうして抱き締めてくれていれば、その穴は塞がる気がするんだよ」
宥めるように、俺の背中をぽんぽんと優しく叩いていた手がピタリと止まり、少しだけ抱き締める手に力がこもった。
「
……
ああ、そうだ、私らしくもなく及び腰だったな。君の欠けた所を、埋められない前提で話すなんて野暮だった。この私が手づから君を磨き上げる以上、傷ひとつだって残す訳ないのにな!」
ドラルクは弾けるように笑い、こちらもつられて笑ってしまう。抱き締める手を緩めて顔を上げれば、お互いの視線が絡み合う。
その時俺はふと、どうしても我が儘を言いたくなってしまった。ドラルクからしたら、きっと意地悪に映ることだろう。
「
……
やっぱさっきのナシ。お前に俺の欠けた所は塞がせねえよ」
「えぇぇ!?」
俺の言葉で、奴はあっけなく砂になる。しかし即座に再生して、信じられないものを見たように狼狽え、おろおろと落ち着きなく視線や手を所在なさげにさ迷わせる。
「なっ、なんでそんな酷いこと言うの!?」
滅多にないこいつの慌てっぷりに少し罪悪感が疼くが、冗談めかして言ってしまえばいい。
「あのさ、」
少しの不安と緊張。それを悟られるまえに、赤の瞳を真っ直ぐに見て言い放ってやる。
「俺のコップが空にならないように一生注ぎ続けろって言えば、お前はずっと側に居てくれんのかよ?」
反応への怯えを押し隠すように、精一杯のしたり顔を作ってそう言えば、こいつは一瞬にして崩れ去った。
だが俺は確かに見た。塵になり崩れる間際、普段青白い顔を真っ赤に染め上げて、悔しげに牙を食い縛る奴の顔を!
「居てやるに決まってるだろチキショーーー!!」
砂山からの叫び声に、またひとつ胸に暖かいものが溜まるのを感じながら、俺は歓喜と勝利の笑い声を上げた。
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