あつき
2024-07-23 00:57:16
1810文字
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刹那の君へ

お風呂でのイチャイチャ ドラさん視点


 どこから見ても美しく誰もが認める美丈夫が、自分にだけ心も体も赦していると思えば狂わされる何かがあるな。

 先程まで汗や涙や唾液その他の体液で、ぐちゃぐちゃになっていた体をシャワーで清めているロナルド君にそんなことを思いながら、先に温かい湯に浸かり浴槽の縁で頬杖をつく。
 こんなにも見目麗しく可愛い子が私だけのものだと自慢して喧伝して回りたいし、この事実を周知して不調法な輩に人のものには手を出すなよと牽制したい。普段は敵性吸血鬼を一掃する屈強な退治人の彼が、さっきまでそれはもう扇情的な蕩けた目でこちらの名前を呼び、私の手でもたらされた快楽にただ浸ることしか出来なくなっていた。その姿は私だけしか見ることは叶わないのだと愉悦と高慢な思考は止まらない。

 きゅっとコルクを捻る音が響き、私を押しやって狭い湯船に入ってくる。
「そんな目で見んなよ」
「どんな目だ」
……やらしい目」
「やだなぁ。流石にもう出来ないよ?」
「なら尚更そんな目ぇすんじゃねえ」
 真っ赤に染まった肌は、風呂の暖かさで染まっただけではないだろう。じとっと睨み付けてくるが、この状況とその台詞では可愛い以外の感想は出てこない。いつもなら殺されているが、ここでは拳を抑えてくれているのも堪らなく愛おしく可愛い。
「んふふ、もしまだ出来るなら、」
 そこで言葉を切り、甘ったるい視線を絡めて口許に弧を描く。意識した情欲を煽る声は、自分でもびっくりするくらい甘かった。
「君の言う、そんな目で見つめても良いのかい?」
……審議」
「ふはっ」
 愛おしくて、バシャ、と湯を揺らして抱き締めたら「うぇ」と変な声を上げるロナルド君。
「だーかーらー!! やめろっ!! ここじゃ殺されねえと思って調子乗りやがって。後で覚えてろよ!」
「こちらの台詞だね、若造。お風呂上がったら自分がどうなるかさっきの言葉を思い出したまえよ」
「俺はっっ!! 良いなんて言ってないからな!」
 考慮の余地がある時点で、肯定と同義なんだよな。君の場合は。それを本気で分かってないようだ。
「うんうん、イヤなら拒否したまえ。君にはその権利がある」
 ま、そんなこと出来ないだろうし、させないくらい愛するけどね。無理矢理にはしないよ? でもこの私の手で落ちないロナルド君は見たことがないのでね。経験則だな。
 指を絡めて手を繋ぎ、唇を重ねる為に顔を傾け近づければ、やはり彼はそれに応えるように目を瞑り受け入れてくれる。
 優しく触れることを何度か繰り返せば、漏れる吐息に乗せるように彼の言葉が耳に滑り込んでくる。
……おい、風呂上がったらって言ったろ。……んっ、ちょっと一旦止めろ……言葉と行動が一致してねえよっ、んぐっ」
 それでも拒否はされない。彼とのキスは幸せだ。この幸せがいつまで続くかなど、そんなことは誰にも分かりやしない。だから貰えるときに、餓えたように貪ってしまう。
 心はその人だけのものだ。考えを予測して思い上がってはみても、本当のところはどう感じているのか、思っているのかなど分からない。彼もまさか、キスを重ねるこの時に私がこんな薄暗い感情を抱いているなど思ってもみないだろう。
 それでも、君が幸せならいいなと願ってしまう。私みたいに影を抱くことなく、陽の当たるところで笑っていて欲しい。だから、彼が余計な感情を抱えないように、全力で愛を注ぐ。自身を否定しがちな彼なので、不安や弱気をなるべく取り除いて、未来に繋がる光に満ちた君に育ててみせよう。
「ん、上がろう。続きは予備室で」
「いや、無理だろ?」
「即座に無能扱いやめてくれる? いいじゃん、もうちょっとイチャイチャしよーよ♡」
「語尾にハートつけても全然可愛くないんだわ二百歳超えおじさん」
 恋人のつれない返答にも慣れたものだ。このくらいで心折れる私ではない。お風呂から上がって柔らかなタオルで体を拭いて、髪の水分が残る彼の頭もわしわしと拭いてやれば、うつむきがちにポツリと漏らす。
……でも、うん、一緒に居たい。今日はまだ、棺桶戻んなよ」
 辛辣な言葉には慣れても、不意打ちの甘えは何回貰っても慣れやしない。んぐっと喉を詰まらせてしまった。これがあるから、この若造は。
「君が望むなら、仰せのままに」
 銀の髪に優しくキスをして、続きの幸せを享受しに二人で予備室の扉を開くのだ。