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須加
2023-04-14 23:17:06
1618文字
Public
ビジパ
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モブ鬼+ビジパ
モブ鬼がむざんさまにドハマリする話
鬼上も出ます
https://twitter.com/hydro1ysis/status/1645988963897966593?s=46&t=tK-JAt9PvyIgtqZTa0S6MQ
桜を描くには桜を知らねばならない。
雀を描くには雀を知らねばならない。
人を描くには人を知らねばならない。
空を、雲を、水を、山を、
己が知ることはあまりに少なく、すべてを知るにはあまりに時が残されていない。
このまま己は何を描くこともできぬまま終わってゆくのだろうか。
恐ろしい。
恐ろしい。
碁会所の友人から誘いを受けたのは、そんなある日のことだった。
ひどい対局だったと思う。
上の空だった己に怒るでもなく、何ぞ気掛かりがあるのかと尋ねられて、内に渦巻いていた不安を打ち明けた。互いの名も知らず、ただ碁会所で一局打つだけの、ゆるりとした付き合いだったことが手伝ったのやも知れぬ。
友人は黙って聞き終えてくれた後、とっくりと何かを考えていたが、やがて右顎の痣を指先で撫でながら、口を開いた。
聞かせたい話があると言う。
果たして、友人との待ち合わせ場所には、六つ目の異形が立っていた。
恐ろしくはなかった。一目で彼とわかったからだ。
わたしは、誘いを受けることにした。
血を与えられ、生まれ変わる苦しみの中で、わたしは仕えるべき主の姿を垣間見て、悟った。
わたしは、この御方を描くために生まれてきたのだ。
——
知らねばならない。
桜を、雀を、人を、空を、雲を、水を、山を、この世のすべてを。
あの御方のことを。
友人に連れられて見えた主は、闇夜にあってなお光を放っていた。
立ち姿、身体、声、顔立ち、瞳、毛の一筋、細胞のひとつに至るまで、存在が違うとはこのようなことか、と身をもって知らされた。
教えられた主の名前を抱きかかえるようにして唱えながら、吹き飛ばされるような、輪郭が溶けるような心地の中で、描きたい、とただ思った。
あの御方のことを教えてほしいと言うと、友人は目を伏せて静かにかぶりを振った。あの御方は危険を避けるため、己の存在を知られぬよう我々の支配を徹底しておられた。付き合いの長い友人にも、わからぬことの方が多いと言う。
ただ、沢山の人を喰い、有用な能力に目覚め、秀でた鬼と成れれば、かの御方からより多く血を賜われるということだった。強くなれば、友人のように新たな名を与えられ、眼に数字を刻んでいただけることさえあると。
血。
そう、血とは命の情報である。
友人の血からそこに仕込まれたものを垣間見たように。
主の血をもっと賜ることができれば、さらなる情報を得られるであろう。
わたしは人を喰い、獣を喰い、手当たり次第に書物を漁った。
空を知れば、あの御方に最も似合う空を描くことができる。
鳥を知れば、あの御方に最も似合う鳥を描くことができる。
花を知れば、あの御方に最も似合う花を描くことができる
——
ともすれば、“青い彼岸花”を描き添えることも。
すべては、あの御方を描くために。
そうして暮らしていたところ、ふいにあの御方がわたしの元を訪れ、血を与えてくださった。熱心に食人と情報収集を行っていることに目を留めていただけたのだ。
地についた手足の感覚が覚束ぬほどの僥倖に打ち震えながら、わたしはどうにか、貴方の御姿を描きたい旨を絞り出した。
床に擦り付けた頭の上、あの御方が不快げに眉を顰める気配があった。
存在を知られることを酷く嫌われる御方故に、絵姿を残すなどという行為が許される筈もない。始末さえされるやも知れぬ
——
そのような考えは、この時のわたしには無かった。後で友人に命知らずとの感想を述べられて気づいたほどだ。
ややあって、描いた物を人前に出した時点でわたしごと全てを処分するという条件のもと、あの御方を描く許しが降りた。
気だるげに腰掛けた御姿を一心に紙へ写し取る時間は、眠らぬ身で見た夢そのもので。
今生にもはやこれ以上の幸福は訪れないだろう、とわたしは確信にも似たものを抱いた。
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