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文野
2024-07-21 19:38:23
2899文字
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サマーバカンス零敬。経緯は捏造。R18指定するほどではないですが肉体関係匂わせ苦手な場合は見ないでください。
眼前に広がるのは、視界を遮るものが何もない自然の中、青い空、白い雲、そしてどこまでも続く青い海と水平線。
何もない離島に建てられた高級リゾートホテル。
ひょんなことから、ここで一週間過ごす権利を得た朔間零と蓮巳敬人。
事の起こりは、リズムリンク主催の夏祭り。老舗事務所というものの宿命か、いちいち慣習だのなんだのと行事が多く、夏祭りもその一環だった。参加者は事務所スタッフや所属アイドル、その他関係者のみでファンなどの一般参加者はいない、身内の催しだ。基本的には事務所の福利厚生、レクリエーションの一環だが、屋台を出したり花火を打ち上げたりと、やるからには本格的だ。
そして、屋台の目玉として、毎年ダーツが行われる。円形の的がぐるぐる回るあのあれだ。的に当たらなかった場合の残念賞はたわし(ほしいという奇特な希望者のみ)、下位賞はラップや洗剤などの日用品というよくある賞品。気になる特賞は、【一週間のバカンス休暇(二人一組)(費用は事務所負担)(一名様限定)】。そしてなんと、今回に限り、副賞として【事務所代表アイドル蓮巳敬人を同行者に指名する権利】が与えられる。ダーツへの挑戦は一人一回のみ、挑戦する為の条件は、参加費用を払って事務所主催の夏祭りに参加すること。つまり、話題性を持たせて参加率を上げる為の目玉賞品であり客寄せパンダでしかない。賞品である敬人には拒否権はないが、もちろん当選者には拒否権がある為、当選者に希望する別の同行者がいる場合、敬人はお役御免となる。万が一、二人以上が特賞を当てた場合はあみだくじで決戦するらしいが、そもそも的は小さいし、まあどうせ当たらないだろうとたかを括って敬人は了承したのだった。
夏祭りも終盤、宴もたけなわでそろそろお開きという時間。その日の収録を終えた零がふらりと姿を見せる。
「お疲れ様じゃのう」
「ああ、お疲れ様」
「どんな具合かのう?」
「だいたい下位賞、よくて2等の高級松坂牛お食事券か。1等のテーマパーク1日招待券もまだ一度も出ていないぞ。簡単そうに見えて思ったより難しいものだな」
「ちなみに蓮巳くんは、」
「的には当たったが、下位賞だったな」
そう言って零にダーツの矢を渡す。零は矢を受け取ると、目を細めて狙いを定める。敬人は気持ち勢いをつけて思い切りダーツの的を回した。もちろん他意はない、決して。
「じゃあ遠慮なく」
放たれた矢は綺麗な放物線を描いて、吸い込まれるように的の一点を射抜く。的の回転を止めて、敬人が当たった賞品を確認する。
「嘘だろう?!」
敬人が思わず大声をあげる。一部始終を見ていたオーディエンスが一斉に沸く。
零は、運も実力のうちじゃよ、とへらへら笑いながら答えていたが、貴様の場合は運じゃなくただの実力だろうが、と思わずにはいられなかった。
ユニットメンバーからたまには仕事のことを忘れてリフレッシュして来いと背中を押されたこともあり、息抜きも必要だと割り切って仕事の予定を調整して機上の人となったのは数時間前。
民間機を乗り継いで、小型船舶で辿り着いたのは、本当に何もない孤島だった。
「我輩、日差しでくらくらする
……
」
「沖縄の離島にはSSの予選で行ったことがあるが、離島にも色々あるんだな」
「今日一日移動で疲れたのじゃ。とりあえず寝ゆ」
「着替えくらいしてからにしろ。あとシャワーも浴びてからにしろ」
「えー、疲れたって言ってるのじゃ
……
。まあ軽く汗を流してくるかのう」
リゾートホテルと言ってもこぢんまりとした建物が一軒、ぽつんと建っているだけで、周りには何もない。いかにも南国といったコテージ風の建物と、それに付属する屋外のウッドデッキ、海で泳いだ後に塩水を流す為の簡易のシャワールーム程度のものだった。
こちらの離島に来る前に、本島の建物でチェックインを済ませている。そちらはリゾートの中心となる本島に建てられたホテルサービスを兼ね備えた総合施設だ。屋内プールはそちらに備えられていると、総合案内で聞き及んでいる。島と島との間の移動にはホテル専用の小型のモーターボートがある。水上バイクのレンタルサービスもあるらしい。
離島のコテージは、快適に過ごせる程度の広さの設備。一階建てで間取りは開放的なリビングダイニングと簡易のキッチン、それに、バスルーム、広めのベッドルーム。南国のリゾートホテルと聞いて誰もが想像するいかにもな物件だ。一棟貸切でその他の建物は一切ない。プライベートビーチを備えた離島丸ごと貸切の贅沢なものだった。
「暇だなあ」
コテージ内の備品をあらかた物色し終わり、朔間はソファへと戻って来る。空調は過ごしやすい温度に設定されており、キッチンには飲料水やその他嗜好飲料、軽食が用意されている。生鮮食品が必要なら、この離島に近い本島から持ってきてもらえるということらしい。本島にはレストランもあるから、そちらで食事を摂ることもできる。
備え付けの冷蔵庫にあったフルーツジュースで喉を潤す。トマトジュースはラインナップになかった為、早急に調達しなくてはならない。
「退屈で死にそうか?」
暫し雑談に付き合うことにする。ふたりの声以外には、波の音しか聞こえない。無駄に大きい画面のテレビをつける気にはなれなかった。
「
……
それはもうとっくにやめたのじゃ」
「殊勝なことだ」
「
………………
しない?」
唐突な問いかけに一瞬何を?と素で返しそうになる。暑さで頭までやられたのか?
「はあ?誰か連れ込む気なら俺は帰らせてもらうぞ」
「我輩と蓮巳くん、一時期そういう仲だった気がするのじゃが
……
」
「もう昔のことだろう」
「だめかのう?」
「そもそもここには何もない」
「ゴムとローションなら持ってきてるぞい♪」
「
……
貴様、最初からそのつもりだったのか?」
「備えあれば憂いなしとは、よく言ったものじゃのう。そっちもその気がないとは言わせないぞい」
「だが
……
」
「久しぶりじゃからの。時間はたっぷりあるから、ちゃんと慣らしてやるぞい」
敬人は深い息を吐くと、零の隣に移動する。
「今日はずいぶん素直じゃのう」
「こんなところへ来てまで機嫌を損ねられたくはないしな。俺も少しは期待している、朔間さん?」
じっと見つめ合って自然と唇を寄せる。あとはお互いの欲に身を任せるだけだ。
何度目かの最中、零の腕に抱かれて、全く何しに来たのだか、と敬人は我に返って自分達に呆れてしまう。終わったら軽く食事をしよう、終わる頃にはもう夜だから明日にでも少し島の散策をしてみたいなどと取り止めもない考えが浮かんでは消えていく。
「蓮巳くん、明日もしたいんじゃけど、付き合ってくれる?」
「ああ、好きにしろ」
むぎゅっと子どもみたいに抱きついてお伺いを立てて来る朔間に、空返事する。余程嬉しいのか、普段より頬は上気して浮かれているようだ。不覚にも可愛らしいと感じてしまう。
バカンスなどと言ってのんびり羽を伸ばしていられないことを、敬人は今日一日で悟った。
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